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2021年5月14日金曜日

ヘレスのフェスティバル8日目アンヘル・ロハス・フラメンコ・ダンス・プロジェクト『ジャ・ノ・セレモス』

 アンヘル・ロハスは、愛知万博の時の大規模なフラメンコ・フェスティバルの時に来日したこともある、ヌエボ・バレエ・エスパニョールというカンパニーを主宰していた踊り手。昔、アントニオ・カナーレスの『トレロ』初演時に牛を演じて注目を浴び、その後、ホセ・アントニオ舞踊団などを経て、カンパニーを結成。ヘレスのフェスティバルにもなんども出演している。その後、カナーレス作品などの演出や、マドリードの劇場での連日に渡るフラメンコ舞踊中心にフェスティバルのディレクターを務めたりもした、精力的に活躍している人。

今回は若手を集めてのカンパニー。振り付けもアンヘルのほか、メルセデス・デ・コルドバらも入っている。

©Javier Fergo Festival de Jerez

舞台の上には金属製?の人の形のようなオブジェ。客席に向いた照明のバトンがゆっくり上がっていく。オブジェにジャングルジムのように登って張り付いたダンサーたちがゆっくりと動いているというオープニング。

オブジェはそこに登ったり、くぐったり、手をかけたり、と何かとダンサー達と、またパーカッション奏者が上で演奏したりと、ずっとそこで存在をアピールしているけど、動かなかった。(ちょっと期待してた。ダンサーが持って動かすとか、ありそうじゃん?)

©Javier Fergo Festival de Jerez

男女問わず同じ衣装。色味は抑えめで、うーん、ゲリラというか、軍隊というか、新興宗教というか、そんなものを思わせる感じ。

©Javier Fergo Festival de Jerez
基本、群舞で、ちょこっとソロやデュオもあるけど、なんというのだろう、個人の名前をとって全員が匿名状態のような、そんな感じに見える。無機質というか。

全体的にコンテンポラリーダンスの舞台みたいな感じ。でも、カンタオーラ二人にギターと音楽はフラメンコと電子音楽、というと『ファンダンゴ!』の舞台構成とかに繋がるものもあるようだけど、『ファンダンゴ!』はすべてがずっと上等。

©Javier Fergo Festival de Jerez
とはいえ、作品としてはよくまとまっていて、きちんと作られている。それが好みかどうかは別問題だけど。


©Javier Fergo Festival de Jerez

うーん。これ、どういう市場を考えているんだろう。ダンス・フェスティバルかなあ。名前からしてダンス・プロジェクトだしなあ。


©Javier Fergo Festival de Jerez
フアン・カンパージョの太い音は心にしみるようで、それは救いのようなものだったかもしれない。
©Javier Fergo Festival de Jerez

1時間ほどの上演時間だったけど、うーん、私には新興宗教と映ったけど、他の人には宇宙人など、SF的な題材に見えたみたい。あと全体的に暗くて、ノイズで眠くなった。ごめん。


©Javier Fergo Festival de Jerez

いろんな意味で実験的な作品だと思うし、その勇気はすごい。スカートや色彩がフラメンコの舞台に与えるもの、とか、考えるきっかけにもなるし。今後の展開も注目、かも。


©Javier Fergo Festival de Jerez

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2021年5月13日木曜日

ヘレスのフェスティバル6日目ダビ・コリア&ダビ・ラゴス『ファンダンゴ!』

昨年、ビエナルで初めて見た時もそのすごさに感動して思いを綴り(ブログ1)、内容についても書いたのだけれど(ブログ2)やっぱ、これはすごい作品だ。ビエナルの作品賞を取っただけではなく、歌のダビ・ラゴス、ギターのアルフレド・ラゴス、そして新人賞をパウラ・コミトレが受賞しているというのも納得できるはず。

内容についてはブログ2で書いている通り、スペインの近現代を映す内容なのだけど、多分、細かいところまで把握できなくても何も問題がないと思うくらい、完成度が高い作品。フラメンコだけでなく、コンテンポラリーダンス的な要素や演劇的な要素もあるから、純粋にフラメンコだけを求める人には向かないだろうが、反対にフラメンコでの表現の広がりを感じることができる作品だともいえる。

©Javier Fergo-Festival de Jerez

これは全員で一丸となってみせる舞台作品だ。

©Javier Fergo-Festival de Jerez

©Javier Fergo-Festival de Jerez
ダビ・ラゴスの素晴らしさも本当に特筆ものだ。難しいい歌い回しを正確に、朗々とこなしてみせる。一時たりとも音を一つも外すこともなく、歌い上げる彼は名だたるオペラ歌手もかくやと思うほど。フラメンコから一歩も外れることなく、舞台の流れを作っていく。


©Javier Fergo-Festival de Jerez

主役というか、中心になるダビ・コリア。この人はつくづくすごい。回転の美しさ。そしてアクセントの入れ方。サパテアードもクリアで、形も美しく、間合いもよく、いうことがない。グラン・アントニオのような跳躍などでも魅せる。
ダンスが好きな人なら必ず魅入られるはずだ。

©Javier Fergo-Festival de Jerez

ダンサーたちのレベルは非常に高い。フラメンコ、スペイン舞踊、コンテンポラリーなど、様々なジャンルを学んできたのではないだろうか。その彼ら一人一人に見せ所がある。


©Javier Fergo-Festival de Jerez
そしてギターのアルフレド・ラゴス!彼のギターの素晴らしさ!これもやはり特筆すべき。彼に加え、サックスなどを演奏する、フアン・ヒメネスも、コンピューターミュージックのダニエルも作品に彩りを、アクセントを加える。

そしてグロリア・モンテシノの照明!
写真ではどうしても暗く写ってしまうのだけれど、見ていると、いつでもしっかり主役の姿は見えるけれど、明るすぎることはなく、細やかな変化で、その場のドラマをも演出する。陰影がちゃんとあり、その陰影はこの作品のテーマであるスペインの近現代の陰影なのだ、と思う。

©Javier Fergo-Festival de Jerez


©Javier Fergo-Festival de Jerez

パウラ・コミトレの素晴らしさについても書いておこう。この人、普段は可憐という言葉がぴったりの小柄で笑顔が素敵な女性なのだが、舞台の上では大きくなり、凄みすら感じさせられる。
すべての出演者のレベルが高く、スタッフもきちんと仕事をしている、文句のないあ素晴らしい舞台。いろんな人にいてもらいたいし、もう一度見たい。
 

©Javier Fergo-Festival de Jerez

この作品はパリで初演されたが、世界が求める作品にはこのレベルが必要なのである。

ビデオはこちら

2021年5月12日水曜日

へレスのフェスティバル6日目オフ・フェスティバルLa Yunko

 6日目はオフ・フェスティバルへ。ビジャ丸太劇場からも近い、ライブハウス、ラ・グアリダ・デル・アンヘルがフェスティバルの時期に独自で主催するフェスティバル。本家のフェスティバルにも出演したアーティストが毎年出演するほか、地元の舞踊教室や外国人アーティストの公演もあるなど、毎年なかなかの盛況。なのだけど、今年は外国からの参加者が激減したこともあって、観客も激減。でもそのおかげ?でオンライン配信を始めているので、興味ある人は是非。ライブの生配信だけでなく、2ヶ月間視聴可能だそうですよ。配信はこちらから。

会場まで足を運んだお客さんは嘘のようにわずかでも配信もあるのでライブは始まります。

まずはティエント、タンゴ。ティエントの重みとタンゴの軽妙。うまい。

伴奏するのはパコ・イグレシアス。歌はガジとモイ。モロンの二人。日本にも数多く訪れている人たちだけど、舞踊伴の一人者たちだから、聞いてて気持ちいい。二人のパルマでのコンパスの収め方とか、オレ!であります。カンテソロも聞き応えありです。パコも舞踊伴奏中は鋭い目で終始足を追う、プロのスナイパーみたいでカッコ良かった。もちろん伴奏完璧です。


2曲目はじまる前にガジが聞く。「5月は何の月?」「カラコーレスの月!」ということでカラコーレス。カラコーレスというと、バタ・デ・コーラとマントン、というのが定番だけど、普通の衣装にアバニコ。うん、アバニコもカラコーレスにはつきものだよね。軽快。小ぶりのアバニコもいいね。



そして再びカンテソロ、ブレリアを挟んで最後はソレア。これが良かった。マントンでのオープニングから、どっぷりソレアの世界に沈んでいく感じ。終演後、話したら、本人は全然、納得してなかったということなんだけど、いや、本人的にはいろいろやりたいことができなかったとかあるのかもしれないけど、観てる方からしたら、持っていかれましたよ。ああ、この人はソレアの歌、流れに身を委ねて、身を揉む思いを伝えてくる、と。シンプルにいいフラメンコだと。コラヘ、悔しい気持ちのソレアだったのかな。悲嘆や悲劇のソレア、孤独のソレア、いろんなソレアがあるよね。いやソレアの中にそんないろんな思いが渦巻いている、というべきなのかな。

マントンの四角持ち、最近流行ってるよね。



彼女はおそらく、多くの日本人フラメンコ舞踊家や練習生が、こうなりたい、と思う存在だと思う。スペインのコンクールで優勝し、フェスティバルやペーニャなどスペインの舞台に多く出演しているから、というだけではない。多分、みんながこう踊れたらいいな、と思う、技術を身につけ、フラメンコの即興性にも完全対応。曲が持つキャラクターを理解し、踊り分けることができる。ある意味ゴールまで到達してしまったのに、それをより良きものにしようと努力を続ける。尊い。でも、違うステージに行くのもアリじゃないかな、とも思う。例えば作品作りとか。とも思うのだけど、彼女自身はより自分のフラメンコを深める、高める方向を見つめているのなら、それはそれでいいのかもしれない。