2016年6月30日木曜日

スペイン国立バレエ団「オメナヘ・ア・アントニオ・ルイス・ソレール」

6月18日から7月3日までマドリード、サルスエラ劇場で予定されていた「オメナヘ・ア・アントニオ・ルイス・ソレール」。日本ではグラン・アントニオの名前で知られ、スペインではただアントニオ、といえばこの人、といわれたスペイン舞踊の歴史上、最高の活躍をみせた伝説的な踊り手。アントニオ・ガデスの次に、スペイン国立バレエ団の芸術監督をつとめた彼の振付け作品を復活させる公演。

だが、現在の1年ごとの契約更新というやり方は法律違反である、変更せよ、という主張するアーティストたちによるストライキで、週末の公演は、初日を含め中止となった。練習を重ねてきた踊り手たちは正面玄関で、ストの説明を行ったが、涙をうかべる者もあったようだ。

そんなこともあって公演数が少なかったこの公演。すばらしいものだった。
何が素晴らしいって、半世紀以上も前に振りつけられた作品が今もまったく古びていないこと。スペイン国立バレエ団ダンサーの高い技術をもってしても、今なお難しいほどのテクニックをそんな昔にすでに使って踊っていたというのも驚きだ。もちろん、今回の公演のために、照明や美術など、少し現代化されているところもあったが、振り付け自体は基本、オリジナルのままである。

劇場のロビーにはアントニオの昔のポスターが展示されていた。




幕開きはエリターニャ。エスクエラ・ボレーラの秀作である。アルベニスの組曲「イベリア」の中の一曲で、セビジャーナスにインスパイアされたといわれ、曲名もその昔セビージャにあった闘牛ファンが集まる店の名前に由来するらしい。アントニオによる振り付けで1960年、バルセロナで初演されたという。群舞で、デュオで、バレエシューズで踊ってみせるのだが、その衣装もロマンチックバレエ的。跳躍、回転。リズムもピアノソロで演奏されるような、思い入れたっぷりな感じではなく、セビジャーナス的リズムを強調しキープしていくので、セビジャーナス・ボレーラ的な感じか。とにかく美しい。

続く「タラント」は、1956年初演された作品の「ラ・タベルナ・デ・トロ」のもので、赤いバタ・デ・コーラで、バレエ団のプリンシパル、エステル・フラードがソロで踊る。今回の公演唯一のフラメンコだが、これはさすがに古風な感じ。この半世紀でフラメンコ舞踊がものすごい発展をとげたということかもしれない。

男性舞踊手のソロ、サラサーテの「サパテアード」 は1946年初演。パンプローナ出身のバイオリン奏者、作曲家で、ツィゴイネルワイゼンで知られる彼の曲を、靴音で表現するそのすばらしさ。スペイン国立バレエのレパートリーとしても、かつてアントニオ・マルケスらが何度も踊っていたので、長年のファンにはおなじみのナンバー。

サパテアードの衣装をつけたマリアノ・ベルナルがメインのポスター
一部のフィナーレは「ファンタシア・ガライカ」。これも日本公演で1度上演されたことがある。スペイン北部ガリシアをテーマにした作品で、この地方の民族舞踊やバレエ的なパドドゥなど、みどころはいっぱい。とくにガリシア観光の目玉、サンティアゴ巡礼のシンボル、ホタテ貝をならしながら踊るパドドゥの美しさと最後の群舞の迫力は群をぬいている。

ニ部はマヌエル・デ・ファリャの「三角帽子」.元々ディアギレフのバレエリュスの依頼でかかれたもので、レオニード・マシーンが振り付けた。アントニオはこれをスカラ座で踊ったこともあり、アントニオ版も非常によくにている。マシーンがフェリクス・エル・ロコに学んだ、ファルーカなどもそうなのだが、やはりフラメンコ性が高くなっているものの、バレエ的な技も多く取り入れられており、ひょっとすると、そのことがスペイン舞踊の変革に影響しているのではないかなどと思ったり。
ピカソによる美術(装置と衣装)も美しく、ここでもやはり群舞が美しい。

ストで公演回数が減ったのが本当に残念。スペイン舞踊を愛する人は必見の舞台である。



劇場外のポスター。左が三角帽子、右がファンタシア・ガライカ



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