もともとは昨年秋のビエナルでぜひ、と多くのアーティストが動いていたのですが、すでに全部プログラムが決まっているのでビエナルでは不可能だが、その後の実施には協力するということで、劇場を提供してもらったようです。
アンダルシア舞踊団でミゲルの同僚だったギタリスト、ハビエル・コンデの美しいソロにフアン・ホセ・アマドールの歌声が重なり、黒い衣装のミゲル・ペレス夫人エレナ・マルティンが黒の大判のマントンで、彼の不在を嘆き語りながら舞うオープニング。
続いて娘二人が登場、バックには子供の頃からのミゲルの写真が映し出され、その歩みや人となりを語る。途中、言葉を詰まらせ、袖からエレナ夫人も登場。
続くファルーカは、ルベン・ロメロ伴奏、クリステイナ・トバル伴唱で、フェルナンド・ヒメネス、アルベルト・セジェス、ダビ・ヒメネス、フアンマ・スラノ、フアン・フェルナンデスという五人の男性舞踊手によるナンバー。普段はソロで踊ることが多い彼らがフォーメーションを変え、それぞれに見せ場も作ってみせる群舞の素晴らしさ。フェルナンドの回転の素晴らしさが特に印象に残りますが、同じ振りを踊るとそれぞれの特性?個性みたいなものも自然に見えてくる感じ。
しみじみ沁みるサルバドール・グティエレスのソロ。
続くアレグリアスはヘスス・ロドリゲス伴奏、インマ・リベロ、ロサリオ・アマドール、クリスティナ・トバル伴唱でアレグリアス。ラウラ・サンタマリアと萩原淳子、ベアトリス・サンティアゴの三人。ここでもフォーメーションなども考えられていて、ずっと同じ振りではなく、ちょっとずつずらしたりして、ちゃんと群舞になっているのはさすが。曲に相応しく明るくフレッシュな感じ。最後、歌い手たちも一緒にちょっと踊ってさっていくのも素敵。
ビデオでのミゲルについてのコメントがあり、続くロンデーニャはギターにフアン・カンパージョ、ラモン・アマドール、歌にフアン・デ・マイレーナ、マヌ・ソト。踊るのはマヌエル・ベタンソスとアンドレス・ペーニャ。プログラムにはアンドレスの奥さん、ピラール・オガージャの名前もあったけど、舞台には出ませんでした。ロンデーニャのリズムをくっきりと際立たせるようなアンドレスの足がいいなあ、と思ってると、ソロになった時の、ベタンソスの柔らかな身体表現もいいなあ、と、ここでもまたそれぞれの個性を改めて感じことができました。
バタ・デ・コーラのパトリシア・ゲレーロとアナ・モラーレスが絡むようにしてはじまるファンダンゴは、クリスティアン・デ・モレのエレキギターでの弾き語り。二人の、伝統的なだけでなく、コンテンポラリー的な要素も入った、身体をうまく使った動きなんだけど、でもすごくフラメンコな感じで、またもちろんバタ捌きも見事で感動。いつまでもみていたい、そんな感じ。なんだろう、今、一番熱い、最高のフラメンコを見ている、って実感。
で、思い出した。昔、ベレン・マジャが言ってたこと。誰かと一緒にやりたいといろんな人に声かけたけど断られてばかりだと。今回、普段はソロで踊ってタブラオなどに出ている面々が群舞やデュオ、トリオで踊ったけど、このためには振り付け/フォーメーションを考えて、皆の予定を合わせての練習も必要なわけで、それだけの時間もとられるし手間もかかる。それでも皆、やりきった。一人でいつもの、得意な曲を踊る方が楽だろうし、自分を出せるはず。それでも皆が、慣れない群舞に挑戦したのは、やはりミゲルゆえだろう。ミゲルのために何かをしたい、ミゲルに届けたい。ミゲルゆかりのアーティストは皆今回の公演にでたかったはずだし、他の仕事などの関係で出れなかった人もいただろうし、仕事をキャンセルして出た人もいただろう。客席でも何人かのアーティストの顔を見た。みんなをミゲルが結んでいるのだ。
ミゲルと同年代、仲も良かったラファエル・ロドリゲスのソロ。「僕をマノロ・マリンの教室伴奏やロス・ガジョスに紹介してくれたのがミゲル」とちょっと話して演奏し始めたサンブラ(プログラムにはシギリージャと書いてあったけど)を聴きながらいろんなことを思い出した。コルドバのフラメンコの白夜での日本人公演の稽古の時、みんなに的確なアドバイスをしていたこと。東日本大震災後の日本支援公演でラファエルと二人で楽しそうに演奏してくれていたこと。 トリアーナで出会うたび、あの人懐っこい笑顔でおしゃべりしたこと。写真を整理している時、思いがけないような人の伴奏もしていたりして驚かされたこと…
©︎ Kyoko Shikaze |
ルイサ・パリシオ、スサナ・カサス、ジョランダ・オスナのバタ、マントンでのソレア。ルイサが、昔のミニ・ミラグロス的面影から脱却して彼女らしい踊りが花開いた感じ。エレガントで、すっとした洗練されたアルテをみせる。スサナの方がミラグロスぽいというか、よりまろやかな感じ、で存在感がある。みんな違ってみんないい、ですね。ギターはエウヘニオ・イグレシアス(もう一人のギターは名前がわかりません、ごめんなさい。でもオスカル・ラゴじゃない)歌にぺぺ・デ・プーラ、モイ・デ・モロン、ヘスス・コルバチョ。
最後はエスペランサ・フェルナンデスから始まるフィン・デ・フィエスタ。モリート、アントニオ・ガメス、ラファエル・ロドリゲス、エウヘニオ・イグレシアスとギタリストが並び、その横にはピクオ、ガジ、ヘスス・コルバチョにぺぺ・デ・プーラ。舞台前には真ん中にエスペランサ。両脇にフアン・ホセとエストレメーニョ。下手にカルメン・ゴンサレスとイサベル・バジョンが座り、その後ろにラモン・マルティネスとラファエル・カンパージョ、上手にイニエスタとマルケシータ。後ろにアンドレス・ペーニャ。次々に歌い踊っていく。イニエスタはやっぱ今もどこかオヨスぽさがあるなあ、とか、ラファとアンドレスはリズムで遊ぶというところは一緒だけど取り方が全然違うなあとか、ここでもみんな違ってみんないい、だな、と。でもやっぱイサベルが圧巻だった。異次元。地に足がついた異次元。柔らかで力強く、優雅な貴婦人かと思うといたずらな小悪魔に、と様々な顔をみせる。バックにこれまでの出演者たちもお揃いのTシャツを着て並び、最後はバックに映し出されたミゲルにみんなで歌いかける。
客席も含めみんなが一つになってミゲルを想った、そんな2時間。ミゲルへの愛に溢れ、フラメンコの家族が一体となった2時間でありました。エゴも忘れた2時間。
よくあるオマージュ公演のようにそれぞれがソロをしてたら3日あっても足りなかっただろう。これだけの人数をうまくまとめて見せたのは演出のルシア・ラ・ピニョーナの腕前。最高のオメナヘをありがとう。ミゲルもきっとあの最高の笑顔をみせてくれているに違いない。
夫人と娘さんたち |
ルシアも最後に挨拶だけ |
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