2019年7月2日火曜日

第2回全日本フラメンココンクール決勝

6月30日、市ヶ谷と麹町の間にあるインスティトゥート・セルバンテスで、第2回フラメンココンクール決勝が行われました。
第1回に続いて、今回も審査員を務めさせていただきました。
東京、大阪、仙台の予選を勝ち抜いた17人。
今回、初めて審査員を務めていただいたスペイン大使夫人でコルドバ出身のマルタ・ビスカシージャスさんも「全員に10点満点を差し上げたい」とおっしゃっていたように、皆、それぞれに素晴らしく、日本のフラメンコのレベルの高さを、見た人すべてに改めて印象付けたことと思います。

いろんなフラメンコがありました。
その中で受賞者を選ぶのは本当に難しいことでした。
当初、1名とされていた審査員特別賞を、副賞の靴とクルシージョ参加権をご提供いただいたガジャルド・ダンス社と小松原庸子スペイン舞踊団のご好意で2名としたのものそれゆえです。

惜しくも受賞を逃された方々の中にも素晴らしい方がたくさんいらっしゃいます。
受賞者の方より劣っているということでは決してありません。
何度も言いますが、コンクールの結果は、その日その時のその踊りが、審査員を務めた人たちによってどう見られたか、ということであり、それ以上でもそれ以下でもありません。
受賞された方々は、今回の審査員によって評価されたことを励みにしていただきたいですし、受賞されなかった方にも、この経験は必ず意味があることと信じています。


以下、私見を述べさせていただきます。
これは他の審査員の意見とは全く関係がなく、あくまでも志風個人の見解です。


1奥濱春彦さん シギリージャ
技術、表現とも誰が見てもわかるほど一流でも、コンクールで優勝できるとは限らない。黒いスーツに黒いシャツ。伴奏なしで始まるシギリージャでは、エル・グイトのような“タメ”を持ち、歌をしっかりマルカールしていく。風格。彼の最高のパフォーマンスではなかったかもしれないが、トップバッターの重責を十二分に果たした。どんなシチュエーションでもしっかりレベルをキープできる、さすがプロ。

2玉塚映里加さん ファルーカ
ピンクの丈の短い上着にコルドベス。古風だが可愛いいでたちでもファルーカ。表情が良く、小物の扱い方も丁寧で好感が持てる。回転の後ちょっとふらっとする、など、時々あやふやな感じがあるが、正統派。

3内田好美さん シギリージャ 審査員特別賞
黒の別珍の衣装。早いリズムからゆっくりとなっていくが、一つ一つの動きに気持ちを込め、センティードがあり、伝えよう、という意思が感じられる。プロという感じ。

4松尾香鈴さん カンティーニャス
白いブラウスに赤系ペイズリー柄?のスカート。表情が明るく楽しそう。上体が時々、ぐにゃっとなるような感じがするのは気のせい?  体のコントロールが必要なのかも。

5本田恵美さん ファルーカ
予選に引き続き男装でファルーカ。短い上着の刺繍の柄はマントンの柄のようなのだが、ちょっとごちゃごちゃしている感じで逆効果? 顔、首の位置が決まらない感じだけど、立ち襟のせいでそう見えるのかも。何を表現したい、というのが全く見えてこない。険しい表情のせいもあるかも? ファルーカだからソブリオ、地味で抑制された感じで、その表情が悪いというわけではないのですが、無表情に近いほど変化がないように思えました。表情も踊りのうちではないでしょうか。

6石川慶子さん アレグリアス 準優勝
バタ・デ・コーラにマントン。得意曲なのだろう、忙しい振り付けだが余裕を感じさせる踊り。バタもマントンも扱いがこなれているし、姿勢もいい。最前列に座っていたので、バタが飛んできそうで、昔、タブラオで飲み物を倒すバタがあったことなどおもいだされた。舞台はタブラオより大きいし、もう少し後ろで踊ってもよかったかも。またシレンシオで悲しい表情というのは、他の人もそうだったが、悲しいと言うよりカルマ、落ち着いた感じの方が合うように思う。

7林亜矢子さん タラント
赤い衣装でタラントと言うのは、少なくとも伝統的な衣装選びではないと思う。ソブリオ、抑制の効いた地味な曲だから。前屈みなのは内面を表現しようとしている? でも姿勢を正し、引き過ぎ気味の顎をきちんと上げて、行けばもっと美しく見えるはずだと思う。

8佐渡靖子さん アレグリアス
バタとマントンでのアレグリアス。次の振りが気になって、一つ一つの振りをやりきれてない感じがある。胸をもっと開き、手を伸ばす時は意識を手の先まで持ってきていっぱいに伸ばす、といったことで、もっと良くなるのでは。

9竹村歩さん アレグリアス 審査員特別賞
きれいに踊ってはいると思うのだが、予選の時の、活火山のような強い印象はなかったのはなぜだろう。

10松彩果さん ソレア
昨年の準優勝。実力があるのは間違いない。ただ、この日のソレアはパワフルに、力で押していく感じで、細やかな表現などは感じられず残念。自分の中にあるものをフラメンコとして表現するのではなく、フラメンコを演じている、という感じだったのであります。フラメンコが彼女の外にある、というか。昨年の踊りが本当に素晴らしかっただけに残念。フラメンコは生き物、ということ?

11石田久乃さん ティエント 小松原庸子特別賞
笑顔が素晴らしい。踊るのが楽しくてしょうがないというのが伝わってくる。技術などまだまだな部分もあるのだが、最後、途中で落ちたイヤリングを自然な感じで拾って去っていくなど、センスがあるように思う。まだ若いのかな? スペインで勉強すればきっとまた大きく進歩するのではないでしょうか。

12関真知子さん ソロンゴ
美しいグレーの浮き出す模様のバタ・デ・コーラに、レースのマンティージャという衣装が美しい。ソロンゴのドラマの中にいまひとつ入っていけない感じがあるというか、
一つ一つの動きに思い入れを込めるべきでは? 芝居っ気がもう少しあってもいいのではないでしょうか。恥ずかしがり屋なのかも。殻を破ってほしい、という感じです。

13諸藤ふみさん ソレア・ポル・ブレリア 優勝
圧倒的な存在感とフラメンコ性で、観客を魅了。見事栄冠を手にした。大阪予選ではソレアを踊った彼女のソレア・ポル・ブレリアは限りなくソレアに近い。ソレアとソレア・ポル・ブレリアの違いは、テンポだけだと考えているのかもしれない。実際には、ソレアにはソレアの、ソレア・ポル・ブレリアにはソレア・ポル・ブレリアの型がある、のでは?。それでも、観客に語りかける、アピールする力は折り紙付き。フラメンコ的な感覚もある。もっと違う曲を見てみたいですね。タンゴとか、グアヒーラとか、きっとお似合い。

14内城紗良さん セラーナ 小松原庸子特別賞
髪をスカーフで包んだ上から、カラニェ帽という、ウエルバ県カラニャ村由来の、つばが内側に丸まり頭の部分の低くてっぺんに飾りがついた(飾りがないものもある)帽子を蓮に被り、アマソーナという女性の乗馬用の衣装という、山をイメージさせる衣装はまさにセラーナ中のセラーナの装い。シギリージャ系のリズムの曲ですが、シギリージャではなく、しっかりセラーナの踊りになっているのが素晴らしいと思います。

15佐藤哲平さん シギリージャ
伝統的な衣装に黒の艶のある材質のバストン。バストンというよりステッキ? と思わせるのは深く重みのある曲、シギリージャであるにも関わらず、バトントワラーのようにステッキをくるくる回すこと数回。いやいやこれはないでしょう。バストンは、パトリアルカ/ゴッドファーザーの象徴でもあり、これで命じ、場合によっては戦うのですよね。フラメンコ、それもシギリージャであの振りはありえない、と思うのですが、どうでしょう。またあご引きっぱなしもどうかと思うし、回転の後などの軸のブレも気になります。

16石田祐子さん タラント
赤地に黒の水玉の衣装。黒のベストを合わせているがタラントの衣装としては違和感あり。同じ衣装でも、黒など濃い色の長いエプロンとフリルやフレコのない、布だけのシージョを合わせれば、ぐっと落ち着いた感じになり、タラントらしさが出るのはないだろうか。髪のあしらいはいい。タラントで何を表現しようとしているのかが伝わってこない。あがっていたのかな?

17南豪さん アレグリアス
将来が楽しみな中学生バイラオール。白いベストにパンタロン、黒いシャツ。出鼻のミスでしまった!という顔をしていたが、徐々に取り戻していった芯の強さに将来性を感じる。が、大人の中に混ざると、テクニックや表現で差があるのも確か。一つ一つの靴音をもっと大切に、確実にしていくといいのでは? いろんな踊りを見て、いろんな先生に習って、いろんなスタイルを踊って、いろんな経験をして、踊り手として大きくなってほしい。5年後が楽しみ。日本のフラメンコの未来!




全体として、コロカシオン、姿勢を、特に顔や首の位置など、もっと気にしてもいいのではないでしょうか。
また自分が踊る曲がどういう曲であるかということの理解、その曲についての基本的な知識を持っておくことも必要ではないでしょうか。それによって衣装も決まるし、表現も変わってくるのではないでしょうか。

様々な才能がそれぞれに輝いた今年のコンクール。来年はぜひ、あなたも参加、もしくはご観戦ください。

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