6月15日は東京、インスティトゥート・セルバンテスで、16日は大阪、アルディエンテで、第2回全日本フラメンココンクールの審査員を務めさせていただきました。
参加者のみなさん、お疲れ様でした。
年齢制限のない、開かれたコンクールということで、今年もベテランのプロの方から、十代の方たちまで、多くの方にご参加いただきました。
5分という短い時間ではありますが、それぞれのフラメンコを垣間見ることができました。
緊張して実力が出せなかったという方も、火事場の馬鹿力?的にいつも以上に頑張れた、楽しめた、という方もいることでしょう。
東京20人の参加者から9人、大阪13人の参加者から6人と、約半数の方が決勝に進まれました。決勝進出者の皆さん、おめでとうございます。惜しくも進出を逃した皆さん、残念でした。今週末には仙台でも予選が行われますが、1週間、お待たせするのはあんまりでは、ということで、東京大阪、2会場での発表を先にすることにしました。そこからもおそらく決勝進出者が出てくることでしょう。仙台での参加予定者は7人ということですので、0〜7人ということになりますね。
前回もコンクールの時に書きましたが、コンクールでは、その時、その瞬間、その場でのパフォーマンスを、その時審査員を務めた人たちがどう見たか、ということであって、これが参加者に対する絶対的な評価ではありません。コンクール当日、体調を崩し最低最悪なコンディションだった方もいるかもしれませんし、本当に私が得意な曲を踊ることができなかった、という人もいるでしょう。また5分という時間制限に合わせるためいつも踊っている曲をカットしているので不自然になってしまった、という人もいるかもしれません。
それでも、たった5分でも、サパテアードやブラセオ、回転、小物や衣装の扱いなどその人の技術、振り付けや構成、踊りと歌やギターとの関係など、いろんなものが見えてきます。表現の中に、演者のフラメンコに対する知識や思いも、垣間見えてくるものです。もっと言うと、舞台に出た瞬間にわかるものもあります。舞台でのいかたは重要です。
また観客の前で踊る、ということは、スタジオで一人で練習しているだけでは決してできな最高の勉強になるはずです。参加者の皆さんは舞台の実践でしか学べないものを学んだのではないでしょうか。コンクールのプレッシャーと戦うこともその一つかもしれません。
それでは以下に参加者の皆さんに対する私の個人的な見解を記しておこうと思います。これあくまでも私個人の意見であり、他の審査員の意見と関係がありません。
東京
1 沖山美環さん アレグリアス
表情がいい。体の使い方、部分部分をどう動かしていくかという全体のコーディネーション、また胴体をどう使うか、というのが課題。また振り付けをなぞっているという感じも残念。
2 高野美智子さん ソレア
複雑なサパテアードのコンビネーションで押していく。まるで足の練習を見ているよう。技術をそのまま見せるのではなく、一曲の踊りとして表現で見せて欲しかった。スカートはもっと広がるものの方がよかったのでは?
3 本多恵美さん アレグリアス 決勝進出
白いパンタロンスーツ。マリオ・マジャ風というか、椅子に座ってのサパテアードから始まる。男装というだけでなく、振りも男ぶり。アレグリアスに険しい表情は似合わない。また前かがみになりがちな姿勢も残念。
4 藤川淳美さん アレグリアス
アバニコを使って。表情は全般的にいい。スカートを持って動かすのであれば持ちやすい、切り替えが下過ぎないものを選ぶべきでは?全体的な技術の向上が望まれる。
5 松彩果さん シギリージャ 決勝進出
速度の早い始まりからカバーレスでの終わりまでそつのない構成で、圧倒的な実力を見せるのはさすがというところか。こなれている。
6 大野環さん ソレア
あご引きすぎるなど、姿勢を全体的に見直す必要あり。顔の位置、首からのラインなどは難しいけど、ここが美しいと全体の印象が変わってくるはず。人に見せる、ということを意識して構成するのも大切。
7 林亜矢子さん シギリージャ 決勝進出
真摯な踊りだが、全体的に前傾姿勢なのが気になる。胴体のコントロールもよりよくできるのでは?
8 橋爪靖恵さん ソレア
比較的きれいなブラソだが、首の位置が気になる。また動きが全体的に点から点への移動という感じで、その間を大切にしていない感じがある。全体的な技術向上が望まれる。
9 後藤春美さん ソレア
バタ・デ・コーラでのソレアだが、コンパスも技術もまだまだ。さらなる研鑽が望まれる。
10 関真知子さん アレグリアス 決勝進出
バタ・デ・コーラにオレンジ色のマントン。王道の振り付けをしっかり踊る。手の形やブラソの美しさが印象的。リズムとの付き合い方、歌やギターとの付き合い方もまる。
11 本多清見さん ソレア
足、足、足。足の練習曲? フラメンコは足だけじゃない。ブラソを始め、全体の動きも大切。足を生かすのは構成次第でもある。
12 佐渡靖子さん ソレア・ポル・ブレリア 決勝進出
振り付けをなぞっていく感じ。
13 内田好美さん アレグリアス 決勝進出
ピンクの衣装。表情がいい。余裕を持って踊っているというか、自分のできるギリギリ一杯の所ではなく、完璧にこなせる範囲の中で構成してあり、動きにセンティードがあるという感じ。
14 常盤直生さん バンベーラ
バンベーラとは名ばかりで実際はソレア・ポル・ブレリアと全く変わらない。バンベーラとソレア・ポル・ブレリアは歌が違うというだけではない。バンベーラを踊るのであれば
バンベーラらしいゆったりした感じを持っていないと。床と喧嘩するような強い足で押していくという構成にはバンベーラらしさの微塵も感じられない。
15 佐藤哲平さん アレグリアス 決勝進出
録音での演技。技術的には向上の余地ありだし、細部のニュアンスなど、まだまだだけれども、真面目さはまる。努力あるのみ。生の伴奏で見てみたい。
16 玉塚映里加さん アレグリアス 決勝進出
マントンでのフェミニンなアレグリアス。表情がいい。マントンがかかとに巻きついたのは初めて見たが、それを踏んづけることもなくできるというのは技術か。
17 内城紗良さん ソレア・ポル・ブレリア 決勝進出
グレーの縦縞のスカートにグレーのブラウス。一つ一つの動きのセンティードが見えてくるともっと良いのでは?
18 森山みえさん ソレア・ポル・ブレリア
とにかくずっと前かがみ、前傾姿勢というのがいけない。背筋の問題? 姿勢は大切。首や顔の位置も変。鏡を見て姿勢を直すとかが必要。基礎は大切。
19 小野木美奈さん ソレア
あご引きすぎで、前傾で、出っ尻に見えてしまう姿勢をまず直すべき。ソレアはシリアスな方の曲だけど、だからと言ってずっと下を向いている必要はない。またソレアとは言っているものの、あまりソレアらしくはない。
20 斎藤朋之さん ソレア・ポル・ブレリア
この日登場した中で、もっとも初級者的ではあるのだけれど、一番フラメンコだったかも?歌やギターをちゃんと聞いて踊ろうという心がけもいいし、フラメンコを大好きという気持ちが伝わって来るのが素晴らしい。好感が持てる。ビバ、アフィシオン!
東京予選では全体的に足で押してくる人が多かったように思います。足の技術はフラメンコを特徴付ける一つではありますが、複雑で難しい足をしたからいい、というものではなりません。あやふやなコンパスで複雑な足を打つのは逆効果でしかないように思います。
フラメンコで、オレ!が出る瞬間というのは、コンパスの微妙な間合いや呼吸、フラメンコ的な美しい形に、であって、いくら複雑な足をやってもそれにきちんとしたリズムのベースが感じられなければ意味がありません。また、姿勢も非常に大切です。足の練習ばかりして、基本の姿勢などがおろそかになっている人が多いのだとしたら、非常に残念です。
なかなか生の歌やギターで踊るチャンスがないのかもしれませんが、歌やギターを聴いて反応する、ということができている人もあまりいなかったように思います。歌やギターとの絡みはフラメンコの醍醐味ではないでしょうか。歌をマルカールしている人がほとんどないのは残念の極みです。
その点、今回、初めての開催となった大阪の予選では、歌やギターへの関心が比較的、東京より高く、きちんと歌を聴いて踊っている人が多い印象でした。
反面、バタ・デ・コーラやマントンなどは皆無。
また姿勢、コロカシオンの問題は東京と同様に思います。
いろいろ傾向があるのですね。仙台も楽しみです。
以下、私見です。
大阪
1 川崎晃子さん アレグリアス
せわしない振りだし走ってしまうんだけれどやる気は感じられるし表情はいい。自分勝手にならず周りが見えてくるようになるといいかも。
2 多田つむぎさん アレグリアス
顔、首の位置、足とか結構危ういところもあるけれど、踊ろう、踊りで表現しようという気持ちは感じられる。
3 山崎直子さん ソレア・ポル・ブレリア
美人なのに緊張しているのか無表情なのが気になる。後半少しほぐれてくると良くなった。経験積むときっと良くなる。上半身が硬い。
4 諸藤ふみさん ソレア 決勝進出
歌をきちんとマルカールしていくシンプルな振り付け。フラメンコらしい味わいがある。
5 石田久乃さん アレグリアス 決勝進出
赤いドレス、板付で始まる。若い人だと思われるが形がきれい。とってつけたような感じもないではないが、楽しそうなブレリアなど、好感が持てるし、歌を待てるのもいい。
6 廣瀬深雪さん アレグリアス
古風な振り付けのアレグリアス。曲の中に入っていっているというか、曲を演じようという気持ちはマル。だけど、それがやりすぎるとくどくなりかねない。塩梅が難しい。
7 松矢順子さん アレグリアス
大阪の出場者の中にあっては東京ぽいというか、美人なのに無表情で歌関係なく踊っている感じ。何をやっているか自分でわかっていないというか、リズムを感じて楽しんでいる感じがない。
8 辻中敏子さん ソレア
何を表現したいか、何を感じているかが全く感じられない。
9 石田裕子さん シギリージャ 決勝進出
足から始まる。一つ一つの音をきちんと出すように考え、靴音の音色まで考えるようになるといいのでは?また胴体のコントロールも必要。
10 岩川晶子さん ソレア
大阪参加者の中では表情が乏しい方。上がっていたのかな。袖なしの衣装だったのだが、袖があった方がより女性らしさがアピールできるのでは?
11 岩尾香鈴さん アレグリアス 決勝進出
満面の笑顔で登場。手の形がきれいだけど、イヤリングは大きすぎてバランス悪い感じ。
12 竹村歩さん ソレア・ポル・ブレリア 決勝進出
活火山のような力強いサパテアードが印象的。ずっと正面向きだけど、体斜めにするとかで奥行きを見せるということもあった方がいいのでは?
13 南豪さん ソレア・ポル・ブレリア 決勝進出
ファルキート風の振りを器用にこなしてはいるが、意味もわからずにやっている感じもある。後で聞いたらまだ中学1年生。年齢制限のないコンクールだから、年齢は関係ないわけだけど、年齢の割にはすごい、とはいえる。
なお、大阪予選のあとではアトラクションとして、奥濱春彦、向京子、奥野祐貴子、アンドイッツ・ルイバルがそれぞれソロを踊りました。
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