2017年12月22日金曜日

スペイン国立バレエ「エレクトラ」

スペイン国立バレエの新作「エレクトラ」
振り付けはコンテンポラリーのダンサーながら、フラメンコとの共演も多い、コルドバ出身のアントニオ・ルス。ということから、ちょっとどきどきしながら観に行ったのだが、これが想像以上に素晴らしかった。

バレエ団にとっても非常に重要な作品となるだろうことを確信させる。いや、スペイン舞踊の流れを変えることになりうるのかもしれない、そんな作品だ。
このバレエ団にとっては珍しい、一本もの、つまり一作品だけでの公演だが、この作品のクオリティがおそろしく高く、クラシックバレエの名作にも匹敵するほどでは、と思わせるのだ。


ギリシア神話の、「エレクトラ」の物語は日本ではあまり知られていないかもしれない。
簡単に言ってしまうと、愛人とはかって、父を殺した母を、今度は弟ともに彼女が殺す、という、なんとも殺伐とした話。が、その母はかつて娘/エレクトラの姉を戦に勝つために人身御供として殺されたことを恨みに思っていた、などということもあり、誰が悪いと簡単には言えない。憎しみと殺しの連鎖の虚しさ。
その物語の舞台をスペインのどこかにある、どこにでもある、村に移した。
スタイリッシュな装置と衣装。
サンドラ・カラスコが歌う歌詞が状況、ストーリーを説明しつつ、舞台は進む。サンドラは口跡が良く、歌詞が非常に聞き取りやすいが、スペイン語の問題などでもし歌詞を聞き取ることができなくとも、上記のざくっとしたストーリーさえ頭に入っていれば、問題はないだろう。わかりやすく、観る者を引き込んでいく。その求心力の強さ。

振り付けは、コンテンポラリーをも含め、フラメンコ/エスティリサーダ/民族舞踊、など、スペインの舞踊全般を網羅したような、いわば新しいスペイン舞踊の形をとっている。フラメンコではオルガ・ペリセの協力をえているが、それとそれ以外の部分も全く違和感がなく、シームレスにつながっている。音楽も同様。カンテとオーケストラ、コントラバスとボーダーレスでつながっている。
国立のダンサーは、幼い時から舞踊学校出身者が多く、スペイン舞踊だけでなく、バレエもみっちり叩きこまれてきており、今でも、公演中も毎日、バレエのレッスンを行っている。だからこそ、ボーダーレスなこんな作品が可能だったのだろう。スペイン国立のダンサーにしか踊れない作品だ。
伝統をなぞるだけではなく、そこに新しい要素を加え、新しいスペイン舞踊を生み出す。
要素というのは単なるパソではなくコンセプトや音楽の使い方、装置や衣装なども含めたすべてを言う。
最初と最後の結婚式のシーンが、アントニオ・ガデスの「血の婚礼」を思わすのは偶然ではないだろう。先達へのオマージュ、伝統への敬意を強く感じる。

主役を踊った第一舞踊手のインマクラーダ・サロモンをはじめ、母のエステル・フラード、姉サラ・アレバロ、父アントニオ・コレデーラ、弟セルヒオ・ベルナルらに加え、母の情夫役で芸術監督のアントニオ・ナハーロも出演している。監督就任後、振り付けはするものの舞台からは遠ざかっていたのだが、そのブランクを全く感じさせない存在感だ。また、父王の死後、エレクトラを娶った農夫役のエドゥアルド・マルティネスが素晴らしい。

世界中の劇場ででも上演されるべき名作が、スペイン舞踊の歴史の新しい1ページを開いていくことだろう。






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