2025年11月23日日曜日

マリア・テレモート『マニフェスト』/アンダルシア・フラメンコ

どこに行こうとしているのかな。そんな気持ちになったマリアのリサイタル。

 マリア・テレモートはフェルナンド・テレモートの娘、テレモート・デ・ヘレスの孫。名門の血筋に恥じない実力で、今、最も活躍している若手カンタオーラ。とにかくうまい。フラメンコはもちろん、何を歌わせても上手い。天性の才能に恵まれている。でも何を歌っても上手いというところからか、フラメンコだけじゃなく、フラメンコ系歌謡曲みたいなものも歌うわけで、もちろんそれも上手なんだけど、フラメンコ好きとしては、いやそうじゃなくて、もっとフラメンコ・フラメンコを聴かせて、って気になるわけです。

舞台奥を高くして真ん中に階段。下手に机が斜めに、上手にはキーボードが置かれ、曲ごとに歌う場所を変え、バックに映像を流す、衣装を2度変えるなど、単なるコンサート、シンプルなリサイタルではなく、“作品”という感じ。

『マニフィエスト』は今年発表されたアルバムで、2018年のデビューアルバムに次ぐ2枚目。そのアルバムと同じく無伴奏の『ア・ラ・ムエルテ』で始まり、最後はブレリア。ソレアやアレグリアス、レバンテ、ベルディアーレスも歌ったし、キーボード弾きながらソロンゴ歌ったりもしている。シギリージャは、さすがヘレスの歌いっぷりで感服したのでありますが、フラメンコ系歌謡のインディア・マルティネスとのデュオや、ルンバで客席に繰り返しのところを歌わせるところなどの印象が強くて、また、観客もそれを目当てに来ていたぽい人たちも多く、大盛り上がりな人とかもいるのだけれど、そういうところでなんか冷めていく自分もいたのも事実であります。

エバ・ジェルバブエナのコンテンポラリーみたいなもんで、マリアはこっち系も好きで、彼女のフラメンコを見るためには、こういうのも見なくちゃなんだろうな、とわかってはいるんだけど、観客はわがままなものでございまして、いや、もういっそ、椅子に座って、ギター伴奏で普通にカンテをまっすぐ歌ってくれてた方がいいのに、とか思うのでありました。わかってるんですよ、そういうありきたりのリサイタルにしないよう工夫してるのとかも。でもそれなら映像と歌をもっとリンクさせるべきだとも思うし、衣装も曲に合わせるとかもあってもいい。なんか道半ばなのかな。

とはいえ、舞台から彼女が語った通りまだ25歳。15歳でプロとなりハードな日々を過ごしてきたというのも真実だし、これからもきっといろんな顔を見せてくれるんだろうな、とは思う。舞台演出に、フラメンコの知識がある演出家を使って整理するともっと良くなるだろうし。照明も顔が影になること多かったり、反対に2枚目の衣装では照明で足の形がそのまま透けて見えているのも本意ではなかったろうし。


今年の初めにフランス、ニームのフェスティバルでの公演の模様のビデオ貼っときますね。

衣装、これの方が良かったんじゃないかな。



なお、ノノ・ヘロのギター(ギターソロのブレリアようござんした)も、フアン・ディエゴ・バレンシア、マヌエル・バレンシア、マヌエル・カンタローテ、3人のパルマ、ようございました。パルマ大切。

なお、新譜はYouTubeにもあるよ。

https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mKHbxrhPvEbYu_r5mx438S2Zw7K5MriiE&si=d1WDz98QdSZzA-gg




2025年11月22日土曜日

メルセデス・ルイスとサンティアゴ・ララ『ドゥアル』アンダルシア・フラメンコ

 バイラオーラとギタリスト、夫婦二人だけの舞台。フラメンコのメッカ、ヘレスの二人が作ったのは、カンテ不在のフラメンコの舞台。カンテが空気のように存在するアンダルシアの人にとっては新鮮に思えるのかもしれないけれど、かつて日本ではカンテなしでギターだけでのフラメンコが普通だった時代を知っている私のような者にとっては昔に戻るような感じもちょっとする。

オープニングそして最後が『禁じられた遊び』というのは外国公演とかを考えた選曲なのかな? バタ・デ・コーラのソレア、ラモン・モントージャの録音のロンデーニャ、マヌエル・モラオのシギリージャのソロの映像にカスタネットで絡むメルセデス、白い短いジャケットに細かい花柄の衣装で踊るファルーカはサビーカスの曲で伴奏。ギターソロはブレリア、そしてサラサーテのサパテアードをソフト帽、背広のようなジャケットで踊り、最後フィン・デ・フィエスタという感じでメルセデスがちょっと歌いつつ踊ったのでありました。

マントンやアバニコ、カスタネットというのはなんか、マリア・パヘスの影響なのかな。とりあえず色々全部できるけど、この人のこれは誰よりも魅力的、みたいなものがあるといいんだろうな。一観客が贅沢言ってるんじゃない、って自分でも思うけど、でもそれがあれば強いのにな、と思ったことでした。あと、サンティアゴの先日のリサイタルとレパートリーが、ソレア、ファルーカ、サパテアードとモロかぶりだったこともあって、なんか損した気分で不完全燃焼。いやいつも引き慣れた曲弾いたってだけでしょうけどね。

プロモーションビデオがあったので貼っときます。




作品としてはすでに各地で公演しているようで、作品としてのまとまりはできているし、出演者も二人だけなので出演料や経費も抑えられるからツアーの可能性は高くなるのかもね。と思いつつググると、もうすでにアメリカ、イギリス、中国などあちこちこれで公演しているんですね、なるほど。







2025年11月21日金曜日

パトリシア・ゲレーロenトーレス・マカレーナ

 最高だった。見るだけで幸せになる魔法のフラメンコ、いやフラメンコの魔法?

パトリシア・ゲレーロ、今、私が一番好きな踊り手。それがセビージャの老舗ペーニャ、トーレス・マカレーナで踊るというのだから、そりゃ行くでしょ。幹部会員であるお友達に誘ってもらったので一番前の特等席に座ります。ちなみにこの日は予約だけで超満員。

ギターはダニ・デ・モロン、歌はセルヒオ・エル・コロラオというからいつも劇場で共演しているメンバー。いや、それをマイクなし、息づかいまで聞こえるようなスペースで、っていうのにもドキドキ。


ギターのイントロが始まる。シギリージャ。

フラメンコの曲種の中でも最もシリアスで悲劇的なこの曲を男装で、直線的な表現で。


くっきりと際立つサパテアード。回転ごとに変わるニュアンス。
間合いの良さ。

もっと写真を撮るつもりだったのだけど、見惚れてしまって手が止まってしまった。次は何がくるんだろうと目が離せない。
ギターソロはいろんな曲種のリズムが混在するポプリ。『ピネーダ』でのフレーズもあったように思うのでピネーダ組曲みたいな感じなのかな。

カンテソロはティエント

そこから二曲目のタンゴへ。これがまた素晴らしかった。歌い手もグラナダの人だけど、グラナダにこだわりすぎないフラメンコのタンゴ。


洞窟のおばあちゃんたちが昔から踊り続けている、ティピカルな振りも彼女にかかれば新しく見えてくる。古いものと新しいものの混ざり具合がちょうどいい。


センスがいいのだ。
休憩を挟んだ第二部はカンテソロでのアレグリアス。
そしてソレア・ポル・ブレリア。




圧巻。形と間合いとこころざし。勢い。力、心。
最後、舞台からさっていくところをお裾分け。



最後はアンダルシア舞踊団の若手たちとアナ・モラーレスが舞台に上がってフィン・デ・フィエスタ。

最高のフラメンコ見せていただきました。幸せいっぱい胸いっぱいな夜でございました


2025年11月20日木曜日

カラカフェ en カフェカンタンテ

存在そのものがフラメンコ、という人たちがいる。マヌエラ・カラスコやアウロラ・バルガスがそう。何もしなくてもそこにいるだけでフラメンコを感じさせる。ギターのエミリオ・カラカフェもそんな一人。




その彼が、川沿いの店で10月11月の毎週火曜日にやっているカフェ・カンタンテというライブに出演。観てきました。

何にもしなくてもフラメンコな人が弾くギター。スペイン歌謡集(カルメン・デ・エスパーニャ、ビエンパガー、オホス・ベルデスなどスペイン人なら誰でも知ってるなつかしの歌謡曲)やったり、カマロンも歌ったドミニカの歌手フアン・ルイス・ゲラの『アモール・デ・コヌーコ』やら、その曲と同じアルバムの『ソイ・ヒターノ』を演奏したり、自由自在。なんでもフラメンコになってしまう。音と間合い。音が深いんだよ。
こないだダビ・デ・アラアルを静寂を音楽にすると言ったけど、この人もそうで、音出さずに回っているコンパスをビンビンに感じさせてくれる。
歌い手フアニ・デ・ラス・トレス・ミルが歌ったソレア・ポル・ブレリアとファンダンゴ、最後のブレリアもぜーんぶよかった。彼を最初に聴いたのは鈴木時丹君の公演の時で、その時もどこにこんな才能が眠ってたん?とびっくりしたのだけど、いやいや、マジでいい歌い手です。
ビデオでお裾分け。パーカッションはドクトル・ケリ。長年、カラカフェと一緒にアララという、ラス・トレス・ミルという、低所得者が多く、ヒターノさんもいっぱいな地区で、ドラッグなどに行かないようにとフラメンコのクラスをしている財団で教えている人。サウラ監『フラメンコ』やガトリフ『ベンゴ』にも出演してたベテラン。


なお、このライブ、来週はカニート、再来週はリカルド・モレーノが出演して、11月いっぱい続きます。その次は3月ごろにまた開始するかもとのこと。










 

2025年11月17日月曜日

アンダルシア青少年フラメンコ最終ガラ

左から賛助出演、ピアノのハビエル・セシリア、舞踊のクラウディア・ラ・デブラ、カンテのセリア・オルテガ、ギターのハビエル・アルコス、賛助出演のサルバドール・グティエレス

フラメンコの日、11月16日はセントラル劇場で、アンダルシア州が14歳から25歳までを対象にして、アンダルシア各県のペーニャと協力して4月から行っていたコンクールの優勝者ガラ公演が行われました。
最初はアルメリア出身、16歳のカンタオーラ、セリア・オルテガ。タランタとファンダンゴ。声が前にしっかり出ているし、音程もいい。16歳で?すごいなあ。
続くギタリストも16歳、マラガ県ミネルバのハビエル・アルコス、パコ・ハビエル・ヒメノ門下というけど、パコ・デ・ルシアをバリバリ弾くのがすごい。ミネーラとブレリア。パコ弾けるってだけでもちろんすごいんだけど、いくら上手でも間合いの感覚、音の重さなどパコのようには弾けないわけで、なら自分で考えて、パコの曲をその通りにきちんと綺麗に弾くというクラシックギター方式というかハビエル・コンデ方式にするか、フレーズを入れるにしても自分の曲を作っていくかどっちか選ぶべき、今のパッチワークのような演奏、しかもブレリアのコンパスは凸凹もあるっていうのじゃ難しい。ギターは大変。やっぱ歌伴奏、舞踊伴奏でキャリア積むべきかも。
その他楽器部門はピアノのハビエル・セシリア、セビージャ県の古都、オスーナ出身。クラシックな感じだけど、ちょっとしたデテールが悪くない。
最後のクラウディアは幼い時から活動していて現在、アンダルシア舞踊団にいる実力派。上手。でもここから一歩出るためには“なにか”が必要になるんだと思う。カンテを踊る意識を強めるとかかなあ。間合いとかでオレを引き出すような踊り見せてほしい。

最後は全員で少しやったのも良かった。

なお、準優勝というか、補欠1位に踊りは歌い手ロセンドの娘のローラ、ギターはボリータの息子のホセ・ケベドが入っていたというのを、ネットで見ました。この二人もいつか見てみたいな。あ、ホセはヘーレンのコンクールで伴奏してるの見たけど上手だったよ。




フラメンコ・エクスプエスト/アンドレス・マリン セビージャ アンダルシア現代美術センタセンター

11月16日は. 2010年11月16日、フラメンコがユネスコの世界無形文化遺産に制定されたのを記念して、フラメンコの日、ということになっております。
で、アンダルシア州は、各県の博物館でフラメンコのパフォーマンスを行ったというわけ。


セビージャでは、アンダルシア現代美術館野、昔教会だったスペースで、現在も美術作品が展示されているスペースを舞台に、アンドレス・マリンがサックスとコントラバスとの共演でのパフォーマンス。
©︎ Kyoko Shikaze 

サックスによるトッカータとフーガに始まり、ひょっとこの面にもどこかにた,へんてこなお面をつけ、黒い羽織を着て、頭には折り紙という不思議な姿で登場。サパテアードは確かにフラメンコ舞踊の技術だけど、オーソドックスなフラメンコから遠く旅しているような、現代美術館にふさわしい作品なのかも。

©︎ Kyoko Shikaze 


折り紙と羽織という日本的な要素は、最初に日本を訪れたフラメンコ舞踊家であるアルヘンティーナ、とそれをみて舞踊の道に進んだ大野一雄へのオマージュらしい。
現代美術家がブレーンでついているからってのもあるのかも。ひょっとこ風お面はペトリューシカに見えるようにも思うからニジンスキーも意識してる?考えすぎかな?


©︎ Kyoko Shikaze 
音楽は他にもファリャの恋は魔術師の火祭りの踊りになったり、ソロンゴになったり、それ亜風のメロディをほんの一節だけ奏でたり。

それでもとにかく、緊張感を持続させた、濃密な時間でありました。

いつも思うけど、アンドレスとイスラエルの振りに共通する、オーソドックスなフラメンコではない動きがいっぱいあるなあ、と。後ろに足蹴り上げるのとか。フラメンコンテンポラリーゆえ?

靴にマイク仕込み、大理石の床でサパテアード聞かせたのも珍しい試みですよね。

21世紀のフラメンコらしいといえばそうなのかも。

Junta de Andalucía

ちなみにこの日、アンダルシア8県のミュージアムで同様の公演が同じく正午から行われました。各地の出演者は以下の通り。
ウエルバ 県立ミュージアム ヘロ・ドミンゲス
セビージャ アンダルシア現代美術センター アンドレス・マリン
カディス カディス現代文化スペース アナ・モラーレス
コルドバ C3A  ラ・ベニデラ(アルベルト・エルナンデス、イレネ・テナ)
マラガ マラガ・ミュージアム ダビ・コリア
グラナダ 考古学博物館 レオノール・レアル
ハエン 県立ミュージアム バネサ・アイバル
アルメリア アンダルシア写真センター サラ・ヒメネス

パッとみてわかる通り、コンテンポラリーなフラメンコ舞踊の踊り手たちばかり。今年は枠を超えていく21世紀のフラメンコがテーマだったのかな、という感じ。

 

2025年11月16日日曜日

リン・コルテス アンダルシア・フラメンコ


 

セントラル劇場でのアンダルシア州のフラメンコ公演シリーズ、アンダルシア・フラメンコ。15日は今回のプログラムで一人だけ経路が違う、といってもいいリン・コルテス登場。

歌うけど歌い手ではなく歌手。ギターも弾くけどギタリストではなく弾き語り。リズム的にはブレリアやルンバもあるけど歌うのは基本カンシオン。いわゆるフラメンコ・ポップのアーティスト。コルドバ出身で、昔、ビセンテ・アミーゴやケコらとつるんでたイメージ。その後、ライムンド・アマドールのグループでコーラスとかしてた人。

基本はカンシオンで、その中にパコ・デ・ルシアの『二筋の川』に歌詞つけて歌ったり、ぺぺ・デ・ルシアの『アル・アルバ』歌ったり、ロルカの『血の婚礼』のセリフを歌ったりとかはあって、ぺぺの曲のちょっと前にブレリア、一節だけ歌ったのがフラメンコでした。

フラメン・ポップ、フラメンコ・シンガーソングライター界隈は最近どうなのかな、と思ってきてみたけど、うーん、80年代からそんなに変わっていないと言う感じ。ま、これは人によるのだろうけど。でも確実にこう言うタイプの音楽のファンというのは存在し、こういうのをフラメンコと思っている人もいるのだな、と。いや、フラメンコといえばフラメンコですよ、広い意味では、でも狭い意味では違うよな、と思いつつ。

パーカッションがビセンテとも共演してたセサル・モレノじゃないかと思うんだけど最後まで紹介しなかったので…

日曜夜は新人の公園に行ってきます。