2017年11月27日月曜日

アルカンヘル「アベセダリオ・フラメンコ」

セビージャのマエストランサ劇場でのアルカンヘルのリサイタル、「アベセダリオ・フラメンコ」。
通常のフラメンコのリサイタルとは、全く違うものだった。

オープニングは、シギリージャ、「カンパナス・デル・アルバ」。
カマロン・デ・ラ・イスラ、1984年のアルバム「ビビレ」に収録されたもので、オーケストラ伴奏で歌われた、斬新なもの。当時は反発もあったろう。
続く曲はローレ・イ・マヌエルの「ヌエボ・ディア」1975年発表の曲だ。

そう、これは、現代フラメンコの名曲を歌い継いでいくという試み。

その後も、ホセ・メルセが歌ったアレグリアス「ビボ・シエロ」(アルバム「アイレ」2000年収録)、カマロン「カナステーラ」(1972年)、ミゲル・ポベーダのタンゴ「ブエナ・インテンシオネス」(「ティエラ・デ・カルマ」2006年)とつづく。

どの曲もオリジナルをリスペクトしながらも、彼らしい味わいも付け加えている。
ミゲル・アンヘル・コルテスとダニ・デ・モロン、二人のギター伴奏も素晴らしい。

その二人が、エンリケ・モレンテ「ペケーニョ・ワルツ・ビエネサ」(「オメガ」1996年)やマノロ・サンルーカル「タウロマヒア」の「マエストランサ」なども散りばめて演奏したソロも良かった。

ローレ・イ・マヌエルの「ディメ」(「パサヘ・デル・アグア」1976年)、マイテ・マルティン「SOS」(「ムイ・フラヒル」1994年)、エンリケ・モレンテ「ペケーニョ・レロッホ」(2003年)、ディエゴ・カラスコ「ナナ・デ・コローレス」(「ボス・デ・レフェレンシア」1993年)、カマロンのファンダンゴ・デ・ウエルバ「センタオ・エン・エル・バジェ」(1981年)、ミゲル・ポベーダ「アルフィレレ・デ・コローレス」(2006年)、エンリケ・モレンテのタンゴ「カンシオン・デ・ラ・ロメリア」、「タンゴス・デ・ラ・プラサ」(1992年)そしてホセ・メルセの大ヒット作「アイレ」まで。

フラメンコで、他の人の曲を歌うということはあまりないが、名曲は名曲。
アントニオ・ガデスの振り付けがガデス亡き今も踊られるように、名曲はいろんな人が歌っていい。
アルカンヘルの声との相性もあるのか、エンリケ・モレンテの曲や「カナステーラ」はよかった。でもカンシオン風のフラメンコが多く、フラメンコ好きにはちょっと物足りなく感じられたのではないだろうか。

それでも満員の観客がスタンディングオーベーションで、最後、一緒に、ファンダンゴ・デ・ウエルバを合唱したのは鳥肌ものだった。

リサイタル終盤に、ジャズやロックでもスタンダードナンバーがある。フラメンコでも他の歌い手の曲でも歌ってもいいのではないか、云々、とこのリサイタルの動機を語っていたが、フラメンコのスタンダードナンバーは、メジーソのマラゲーニャだったり、グロリアのファンダンゴだったりするのではないだろうか。
最近の曲を中心にした結果、フラメンコ・フラメンコと言うよりも、フラメンコなカンシオン集になってしまった感がある。ベストヒットフラメンコ、的な。

エンリケの曲だけのアルカンヘルのアルバム、というのはちょっと聞いてみたい気がするけれど、ストレートなフラメンコと、カマロンやエンリケのレパートリーというコンサートの方が私好みではある。








2017年11月25日土曜日

サラ・バラス新作「ソンブラス」

マラガ、セルバンテス劇場での、サラ・バラスの新作「ソンブラス」。
これがアンダルシアでの初演と成る。5日間の公演がすべて満員御礼。
さすがの人気、そしてそれに応えた、彼女の熱い心がダイレクトに伝わってくるようなパフォーマンス。

前作「ボセス」は、彼女が敬愛する6人のアルティスタへのオマージュということもあるのか、ベースにどこか悲しい気持ちが流れているような感じがあり、抑制された雰囲気もあったように思うのだが、この「ソンブラス」は100%サラ!な作品。
明るく華やかで、エネルギーに満ち溢れている。

ソンブラスとは影のこと。
なので、影、シルエットを効果的に使いっているのはもちろん、ダンサーを描いた絵の幕も、写真で見るよりもずっと素晴らしく、そこにショーアップされた華やかな照明が加わり、雰囲気を盛り上げる。

シルエットでのオープニングから、「ボセス」でも踊っていた、ファルーカへ。
最近、各地のペーニャやフェスティバルで引っ張りだこの、歌のイスラエル・フェルナンデス、ルビオ・デ・プルーナが素晴らしい。
サラは水玉のシャツに黒いパンタロン、ベスト、スカーフといういでたち。
ギターやパーカッションとの掛け合いで聴かせるサパテアードは楽器のようで、フラメンコは音楽を生む舞踊なのだと改めて感じさせられる。

群舞でのバストンを使ったロマンセを挟んで(ここでも歌の良さが光る)、トルコブルーの衣装でサラが踊るのはセラーナ。多分、彼女がこの曲を踊るのは初めてではないだろうか。

サラの言葉の録音で影が踊る。

アバニコを使った群舞にティムのサックスが絡む。

黒い衣装のホセ・セラーノと真紅のサラとのワルツ。青い光の中、楽しそうに踊る、ロマッチックなシーンだ。ロルカの詩「ペケーニョ・ワルツ・ビエネサ/小さなウィーンのワルツ」をレナード・コーエンが歌った「テイク・ディス・ワルツ」。エンリケ・モレンテも歌った、この曲のノスタルジック

群舞のマリアーナ。
バタとマントンの群舞にティム。
ホセのソロは生き生きと本領発揮。レマテのかっこよさ。
アラ・マリキアンのバイオリン録音による群舞での男性のスカートをマントのように使う不思議な場面。

サラのアレグリアスは赤いマントンで。それがティムとのナンバーになり、二人の掛け合いで見せる。サパテアードの音は正確で美しく、エネルギッシュ。
終幕でのこのパワー。どこからこんな力が湧き出てくるのだろう。

全員でのブレリア、そしてフィン・デ・フィエスタに至るまで、力を抜くことなく全力投球。
最後はもちろん劇場全体がスタンディングオーベーション。
すべての観客を満足させるエンターテイナー。
スペイン語でいうシャポー、まさに脱帽だ。








2017年11月24日金曜日

ニームのフラメンコ祭

フランス、ニームのフラメンコ祭の記者会見がセビージャの、アンダルシア舞踊団稽古場で行われた。

来年のフェスティバルに出演する、マリ・ペーニャも歌い、雰囲気を盛り上げる。
最近のスペインのフェスティバルの記者会見よりも気合が入っている。

そしてプログラムももちろん充実。
アンドレス・マリンの新作「ドン・キホーテ」で開幕し、イスラエル・ガルバンで閉幕。
間にはカンテのリサイタルあり、リケーニの公演あり、
若手も踊りではダビ・コリア、歌ではダビ・カルピオ、アルコス出身のファビの公演あり、とバランスとれたプログラム。
エストレマドゥーラの公演では、エストレマドゥーラ出身ながらセビージャ在住のエンリケ・エストレメーニョとマドリー在住のグアディアナも出演するのが嬉しい。
こういうのって初めての試みでは?楽しみだ。




◇第27回ニーム フラメンコ祭
1/11(木)20時「ドン・キホーテ」
[出]〈b〉アンドレス・マリン、パトリシア・ゲレーロ、アベル・アラナ、〈perc, drums〉ダニエル・スアレス、〈c, エレキベース〉ロサリオ“ラ・トレメンディータ”、〈チェロ〉サンチョ・アルメンドラル、〈エレキギター〉ホルヘ・ルビアレス
1/12(金)20時「アル・ソン・デ・エストレマドゥーラ」
[出]〈g〉ミゲル・バルガス、フアン・バルガス、〈c〉アレハンドラ・ベガ、エンリケ“エル・エストレメーニョ”、“グアディアナ”、“ラ・カイタ”、〈b〉アントニオ・シルバ“エル・ペレリグリーノ”
1/13(土)20時「エル・エンクエントロ」
[出]〈b〉ダビ・コリア、アナ・モラーレス、フロレンシア・オリャン、パウラ・コミトレ、ラファエル・ラミレス、〈c〉アントニオ・カンポス、エル・ロンドロ、〈g〉ヘスース・トーレス、ホセ・ルイス・メディーナ、〈perc〉ダニエル・スアレス
1/14(日)20時「パルケ・デ・マリア・ルイサ」
[出]〈g〉ラファル・リケーニ、フアン・カンパージョ、パコ・ロルダン、〈チェロ〉グレッチェン・タルボット、ゲスト〈b〉ハビエル・バロン
1/16(火)20時
[出]〈c〉マリ・ペーニャ、〈g〉アントニオ・モジャ、〈violin〉ファイサル・コウリチ、〈perc〉パコ・ベガ、〈palmas、b〉ロシオ・ラ・トゥロネーラ、フアン・アマジャ、ゲスト〈b〉カルメン・レデスマ、〈piano〉ペドロ・リカルド・ミーニョ
1/17(水)20時
[出]〈c〉ルイス・モネオ、アントニオ・レジェス、〈g〉フアン・マヌエル・モネオ・カラスコ、ディエゴ・アマジャ、〈palmas〉マヌエル・モネオ・カラスコ、アントニオ・ホセ・サンチェス・ヌニェス
1/19(金)、20(土)20時「ラ・フィエスタ」
[出]イスラエル・ガルバン、ボボーテ、エロイサ・カントン、エミリオ・カラカフェ、ラモン・マルティネス、ニーニョ・デ・エルチェ、アレハンドロ・ロハス=マルコス、アリア・セジャミ、ウチ
[場]フランス ニーム ベルナデッタ・ラフォン劇場

1/13(土)17時
[出]〈c〉ぺぺ・デ・プーラ、〈g〉フアン・カンパージョ
1/20(土)17時
[出]〈c〉ラ・ファビ、〈g〉アントニオ・モジャ
[場]フランス ニーム エマニュエル・ダルソン高校

1/14(日)15時「パシオナリア」
[出]〈c〉クララ・トゥデラ、〈g〉グレゴリオ・イボル・サンチェス、〈piano〉ラファエル・レモニエル、〈コントラバス〉ペドロ・マルティネス、〈perc〉シャビエル・ダサンドレ
1/18(木)20時「ソロス」
[出]〈c〉ダビ・カルピオ、〈g〉マヌエル・バレンシア、〈コントラバス〉パブロ・マルティン、ゲスト〈b〉マヌエル・リニャン
[場]フランス ニーム オデオン

1/15(月)20時「クラロオスクロ」/「エレクトロフラメンコ」
[出]〈b〉アンヘル・ムニョス、〈c、g〉ミゲル・オルテガ、〈fl, sax,クラリネット、ハーモニカ〉ディエゴ・ビジェガス、〈サンプラー他〉アルトマティコ/ゲスト〈b〉ダビ・コリア
[場]フランス ニーム ラ・パロマ


[問]www.theatredenimes.com



2017年11月22日水曜日

へレス・オフ・フェスティバル

へレスのフェスティバルに合わせて、開催されているオフ・フェスティバルのプログラムが発表になった。
今年はアンヘリータ・ゴメスに捧げられている。
他にもカプージョやペリキン、フアナ・ラ・デ・ラ・ピパ、ドローレス・アグヘータら地元のベテランが出演するほか、ラファル・カンパージョ、アデラ・カンパージョ、トゥルコなど、実力派踊り手たちの名前も。



初日は去年同様、日本人アルティスタたちが出演する。

◆第7回ヘレス・オフ・フェスティバル 
2/23(金)17時[出]〈b〉マリア・バルガス舞踊学校
      19時[出]〈c, piano〉コザトアヤ
      21時[出]〈c〉ハタハルミ
      22時30分[出]〈c〉エル・カルテーロ
      23時59分[出]〈g〉ニーニョ・ヘロ
2/24(土)17時[出]〈b〉カルメン・エレーラ舞踊学校
      19時[出]〈b〉ファビオラ・バルバ
      21時[出]〈b〉ジェシカ・ブレア
      23時30分[出]〈c〉カプージョ・デ・へレス
2/25(日)17時[出]〈b〉マリア・バルガス舞踊学校
      19時[出]〈b〉ラファエル・カンパージョ
      21時[出]〈c〉ルイス・バルガス“エル・モノ”
      23時映画「スエニャ・コンミーゴ」
2/26(月)19時[出]〈b〉フアン・ポルビージョ
      21時[出]〈c〉エルー・デ・へレス
      23時[出]〈c〉ナタリア・デル・マル“ラ・セラータ”
2/27(火)21時[出]〈c〉ルイサ・ムニョス
      23時[出]〈c〉サムエル・セラーノ
2/28(水)19時[出]〈b〉チキ・デ・へレス舞踊学校
      21時[出]〈b〉マリアン・ヒメネス
      23時[出]〈c〉アントニオ・マレーナ
3/1(木)19時[出]〈b〉パウラ・シエラ
      21時[出]〈c〉ファリーニャ
      23時[出]〈b〉アデラ・カンパージョ
3/2(金)17時[出]〈b〉スサナ・チャコン舞踊学校
      19時[出]〈b〉フェルナンド・ガラン
      21時[出]〈b〉マヌエラ・カルピオ
      23時[出]〈c〉エル・キニ
3/3(土)17時[出]〈b〉ベアトリス・モラーレス舞踊学校
      19時[出]〈b〉ベアトリス・モラーレス
      23時[出]〈c〉アントニオ・レジェス
3/4(日)17時[出]〈b〉マリアン・ヒメネス舞踊学校
      19時[出]〈g〉〈g〉ヘスーレ・カリージョ
      21時[出]〈b〉マルタ・ラ・トロジャ
      23時[出]〈b〉マリア・フンカル
      00時30分[出]〈c〉ホセ・ソト“ソルデリータ”
3/5(月)19時[出]〈b〉サライ・ガルシア
      21時[出]〈c,g〉リカルド・ピニェーロ
      23時[出]〈c〉ドローレス・アグヘータ
3/6(火)19時[出]〈b〉カルロス・カルボネル
      23時[出]〈c〉ロサリオ・エレディア
3/7(水)19時[出]〈b〉ダビ・ロメーロ
      21時[出]〈b〉フェルナンド・ヒメネス
      23時[出]〈c〉ティア・フアナ・ラ・デル・ピパ
3/8(木)19時[出]〈b〉ラ・トゥルコ
      22時30分[出]〈g〉ロマン・ビセンティ
      00時30分[出]〈c〉マラ・レイ
3/9(金)17時[出]〈b〉マリア・デル・マル・モレーノ舞踊学校
      19時[出]〈c〉マリア・フェルナンデス
      21時[出]〈b〉パルミラ・ドゥラン
      23時[出]〈b〉マカレーナ・ラミレス
3/10(土)17時[出]〈b〉スサナ・チャコン舞踊学校
      19時[出]〈b〉フアン・アベシージャ
      21時[出]〈b〉ビセンタ・ガルベス
      23時[出]〈piano〉レイナ・ヒターナ
[場]へレス ラ・グアリダ・デル・アンヘル

[問]https://www.facebook.com/laguaridadelangel/

2017年11月13日月曜日

キンテーロ劇場のフラメンコ

セビージャの中心部、カンパナからほど近い、キンテーロ劇場でのフラメンコ公演。
カルペータやファルー、ヘレスのアルティスタによるクリスマスコンサートなどいろいろ楽しそうだ。





◇セビージャ、キンテーロ劇場のフラメンコ
11/25(土)21時
[出]〈b〉カルペータ、〈c〉エル・ネグロ、〈g〉ラウル・ビセンティpiano、ベース〉メルチョール・ボルハ、〈perc〉ファリ・デル・エレクトリコ
[料]15ユーロ
11/30(木)、12/1(金)21時「テレモートのクリスマス」
[出]〈c〉マリア・テレモート、エル・ペチュギータ、ラ・カルボネーラ他、ゲスト〈b〉ラ・ルピ
[料]20ユーロ 12/1売り切れ
12/18(月)、19(火)21時
[出]〈b〉ファルーコ、バルージョ、ファルーカ、カルペータ(18)、ぺぺ・トーレス(19)
12/30(土)21時 「アシ・カンタ・ヘレス・エン・ナビダ」
[出]〈c〉レラ・ソト、フェリパ・デル・モレーノ、マヌエラ&ドローレス・デ・ペリキン、ラ・フンケーラ、エステファニア・サルサナ、フアン・デ・ラ・もれーな、ホセレーテ、ノノ・デ・ペリキン、マヌエル・デ・カンタローテ、ホセ・デ・ラ・メルチョーラ、〈perc〉フアン・ディエゴ・バレンシア、〈g〉フェルナンド・デ・ラ・モレーナ・イーホ、特別協力〈c〉ヘスース・メンデス
[場]セビージャ キンテーロ劇場

[問]http://www.teatroquintero.es

2017年11月11日土曜日

さよなら チキート

チキート・デ・ラ・カルサーが、11月11日、故郷マラガの病院で亡くなった。
1932年マラガ生まれの歌い手。
90年代に得意とするチステ、小話でテレビに出て有名になり、映画に主演するなど人気を博した。

本名グレゴリオ・エステバン・サンチェス・フェルナンデス。
マラガのラ・カルサーダ・デ・ラ・トリニダー地区の生まれ。8歳の時から地元のタブラオで歌っていたという。
踊り伴唱で数々のアルティスタと共演。マドリードの大きな劇場にも出演し、
1964年には国営放送のフラメンコ番組に出演している。



日本にも、1973年秋から1974年春にラウルのグループで、1975年秋から1976年にかけて、リカルドのグループで、と2回ほど、新宿「エル・フラメンコ」に出演した。




80年代にはマラガ、トレモリノスにあった、踊り手マリキージャのタブラオで、高橋英子、俵英三とも共演していたという。

ずいぶん前に引退し、2012年に妻を亡くしてからはマラガで一人暮らし。
10月、家で倒れていたのを発見され、そこからは回復したものの
10月30日、狭心症で入院し、昨夜容態が悪化したという。

冥福を。



2017年11月5日日曜日

日本のフラメンコ 石井智子「ちはやふる 大地の歌」

素晴らしかった。いやあ、本当に素晴らしかった。
これが二日間、2回の公演だけなんてもったいなさすぎる。
美しく、楽しい。非常に完成度の高い作品。
フラメンコが好きな人だけでなく、広く一般に楽しむことができる、そんな作品。

石井智子スペイン舞踊40周年記念公演は11月4日、5日に 北千住シアター1010で。
その4日の公演を見た。第一部は百人一首をテーマとした、和とフラメンコとの競演、第二部はフラメンコだけでなく、民族舞踊であるホタやエスクエラ・ボレーラも取り入れて、広くスペイン舞踊の世界をみせると言う二部構成。その構成も見事なら、それぞれの演目もしっかりと作られていて破綻がない。
独りよがりになることも、観客におもねることもなく、観て美しく、楽しい。

かるたが、花が舞い、水が流れ、モチーフとなった歌の書(桃果)がプロジェクションマッピングで描かれる中、和歌の世界がフラメンコと和の楽器で展開されていく。
太鼓の上でのサパテアード。和のテイストのフラメンコ衣装。
小野小町に扮した石井の美しさ。
和太鼓と尺八に絡む在原業平となったフンコのサパテアード。「Pasión 情熱」
「Melancolía  憂い」での、小町の黒い長い髪はフラメンコ的でもあり、遠くて近い、スペインと日本、フラメンコと私たちを象徴しているようでもある。
客席から登場した太鼓隊とカスタネット鳴らす群舞が競演する「Brisaそよ風」の場面の楽しさは特筆ものだ。太鼓の音にカスタネットも負けていない。フォーメーションでみせる美しさは群舞の醍醐味だろう。モチーフとなった持統天皇の時代、万葉集的なおおらかさが感じられる。
「Lamento 嘆き」ギターと琴の競演は初めて見たが、美しい。お互いを引き立てあうのは、演者の互いへのレスペト、敬意ゆえのことだろう。
「Destino宿命」はチェロと尺八による、スペインを代表する作曲家の一人、アルベニスの「アストゥリアス」で、ふた組のパレハが踊るという趣向。スペインのクラシック音楽と和楽器の出会いは新鮮。また振り付けも美しい。客演の松田知也、土方憲人も好演。
「Firmamento天空」は圧巻の一言。太鼓や琴の音で、華やかに踊る群舞は風であり雲、その中に、天照大神のように降臨する天女、石井智子。その存在感。タイプは違うが、マヌエラ・カラスコのような、女神感が確かにある。よく揃った群舞も華やかで楽しい。


第二部のオープニングはホタ。
跳躍が特徴的なこの舞踊を、子供の時から毎週習っている、地元の人やスペインの公立舞踊学校スペイン舞踊科出身者以外で、これだけ踊るのは珍しい。かつてはスペイン舞踊団の演目としてよく取り上げられ、若き日のファルーコらもピラール・ロペス舞踊団などで踊っていたという。小松原舞踊団時代に、ホタ中興の祖とでもいうべき、ペドロ・アソリンの直接指導を受けた石井が男装で、舞踊団の後輩、中島朋子とパレハで踊る。
足を高く上げるその角度! そして跳躍。男性顔負け。ダイナミックで楽しい。
エル・フンコは椅子に座ってはじめるソレア。シンプルだが、フラメンコのエッセンスが強く感じられるソレア。椅子1脚だけで、ドラマチックに見えてくる。
エスクエラ・ボレーラのセビジャーナスも日本で踊られるのは珍しい。バレエの素養のない人がここまで踊るまでにはどれだけの苦労があったろう。いや、素養があっても、ボレーラ独特の、首のラインとか、軽く曲げた腕のラインとか、非常に難しいはずだ。
真紅のバタ・デ・コーラの石井によるシギリージャ。カスタネットとマントンを使っての伝統を感じさせるシギリージャ。カスタネットの音色に至るまでひたすらに、これもまた美しい。ミゲル・ペレスのギターの素晴らしさ。フアン・ホセ・アマドールの声の深い響き。バックを飾る、堀越千秋の幕が、モライートのシギリージャの調べを思い起こさせる。二人とも今はいない。オマージュを感じる。
同じく堀越の幕が舞台を額のように彩り、洞窟を作り、モスカ、カチューチャ、タンゴなどグラナダのフラメンコをみせる。洞窟のフラメンコの店で踊られているものよりも、より洗練された、舞台のための、舞踊団のための、という感じ、だけど、それは決して悪いことではない。群舞のフォーメーションや子供を使ってのちょっとした芝居風の動きなど、“みせる”工夫が随所に施されている。モスカやカチューチャのコーラスも良かった。
ファルーカはモダンな男装だったが、個人的には、彼女の雰囲気から、クラシカルなアマソナ風の、巻きスカートに丈の短いジャケットといった乗馬服風のものなどもよかったのではないかと思う。
フンコと石井の息子、岩崎蒼生が二人でみせるブレリアも、ちょっと芝居が入った二人の掛け合いが楽しい。それにしても上手くなった。フラメンコを踊る子供、ではなく、踊り手として評価される時が来た。ちょっとした間合いや回転に味があり、スペインで多くの師に学んでいるだけのことはある。
最後はアレグリアス。バタ・デ・コーラでの群舞、最初、練習の時と歌が変わったのか、きっかけが上手くわからなかったような出足の不揃いなどはあったものの、すぐに取り戻す。石井とフンコのパレハも、長年の共演の成果もあるのだろう、息が合っていて、安定感がある。
最後はフンコが歌うタンギージョ。第一部に出演していた太鼓隊なども加わり、楽しいフィエスタ。色とりどりの衣装も、それぞれがある程度自由に踊っているのだろう部分もあって、とにかく楽しく、気分が上がって閉幕を迎える。
ブラボー!

石井の存在感、それをサポートするスペイン人アルティスタたちも一流。
和を意識した衣装や和楽器とのコラボレーションも楽しく、それを彩る、プロジェクションマッピングなど、美術も素晴らしい。照明は、時に、ここはスペインですか?というくらいに暗めだったのがちょっと残念だったけれど。(やっぱ私は踊り手の顔が見たい)
フラメンコを知らない人でも楽しめる内容、構成。作品としての完成度はピカイチ。
衣装も華やかで素晴らしい。
小松原舞踊団での経験、大学の芸術学部での学び、スペイン人たちとの共演、そして自らが主となって作ってきた数々の舞台。そんな経験がぎゅっと凝縮されての舞台だ。
特に良かったのが振り付け。群舞も、全員が同じ振りを客席に向かってするだけではなく、フォーメーションを考えて、工夫されている。また、一人だけがいつも前のセンターというわけではなく、それぞれに見所をちゃんとつくっている、という感じ。また、群舞でも違う振りをするところもあり、タンギージョなどでは個性も垣間見える。
40年のキャリアはだてじゃない。

さて、次は何を見せてくれるのか? 楽しみなことである。

でもその前に、これ、文化庁かどこかお金出してもらって、ぜひ、スペインでもやってもらいたい。日本とスペインの文化の融合、このレベルまで、ってあまりないですよ。








 

2017年11月3日金曜日

日本のフラメンコ アルハムブラ、ソラジャ・クラビホ、ホセリート・フェルナンデス

西日暮里の老舗スペイン料理店&タブラオ、アルハムブラで、来日したばかりのソラジャ・クラビホとホセリート・フェルナンデスを迎えての西日フラメンコ交流とでもいうべきライブ。

1部のトップバッターは田中菜穂子。男装でのファルーカ。男装がよく似合う。
ファルーカというと、男性的な直線的な動きで、ギターがサパテアードと絡んでいく、というのが定番。が、ここではパリージョ、カスタネットを使うのだ。初めて見た。
彼女が師、ロシオ・アルカイデに学んだものだという。
通常は歌は最初に少し入るくらいなのだが、ここでは歌もたっぷり、というのも珍しい。
カスタネットを手につけているので、ファルーカの特徴である直接的な腕の動きが少なくなってしまうのはちょっと残念。また、せっかくカスタネットを使うなら、サパテアードとギターの掛け合いで見せるような、音の競演が見たかったかも。
通常、それを使わない曲目で使うならば、ああ、これだから使うんだ、と納得させることが必要なように思う。それだけ難しいことにトライしたわけで今後が期待。

二人目の野上裕美はアレグリアス。ここで出演者全員が舞台に上がってクアドロ風に。
上がっていたのだろうか。曲の間中、ずーっと怖い顔。真剣さの表れかもしれないが、アレグリアスには似合わない。ニコニコ笑わなくとも、せめて口角上げて、アレグリアスのアイレ、空気を表情でも表現するべきだと思う。踊りは体の動きだけでなく、顔の表情や衣装なども含めて表現するものだ。

1部の最後を締めたのは、お久しぶりなホセリート・フェルナンデス。
フェステーロ風にブレリアを歌い、そこからソレアへ。
サパテアードで押していく、きっちり構成された今風のソレアではなく、マルカールとサパテアードでの、昔風の、アイローサな、雰囲気のあるソレアで、かえって新鮮。とにかくナチュラルなのだ。気負ったところの全くない、普通の、自然なフラメンコ。ああ、こういうのって、日本にはないよなあ。

2部はクアドロ風に全員舞台に座って。
瀬戸口琴葉はシギリージャ。動きはいい。が、シギリージャらしい重みが感じられない。フラメンコのペソは年齢によって得られるところも多いので仕方ないのかな。フレッシュなシギリージャも決して悪くはないのだが、やはり重みが欲しい。振り付けのメリハリ、歌との関係、まだまだ学ぶことは多いだろう。他の曲を見てみたい。

正路あすかはソレア。以前見たものとは全く違う、ドラマチックなもの。といっても芝居仕立てなのではない。表現がドラマチックなのだ。グラナダ風の小さなブラソが彼女らしさになっている。ただ少々長い感じがあるので、あともう少し整理できればもっと良くなるのではないか。

閉幕を飾ったのはソラジャ。バタ・デ・コーラでのアレグリアス。シンプルなバタはセビージャ風の豪華なバタではない。が、元気はつらつなソラジャには似つかわしい、かも。
歌と掛け合いしたり、鉄火肌フラメンコの面目躍如。
慣れない共演者でも、ミュージシャンをリードしてしっかり仕事をしているソラジャはやっぱりすごい。キャリアはダテじゃない。

最後は全員でフィン・デ・フィエスタ。
フラメンコはいいなあ。日本とスペイン、距離が一挙に縮まる。

追記
舞台で、日本人のカンテでスペイン人が踊るのを見たのは今回が初めてだったので感慨ひとしお。私がスペインに行った三十年前は、日本人のライブはギター伴奏のみが定番で、歌が入るのは特別な公演の時くらい、という時代でありました。それが今や、プロではない生徒さんクラスのイベントなどでも歌が入る。すごいなあ。もちろん、スペインのレベルからしたらまだまだです。
今回の歌い手さんも、口跡がいいというのか、レトラが聞き取りやすいな、いろいろなレトラをよく知って歌ってらっしゃるな、すごいな、とは思いましたが、正直、あれ、ここでそのレトラはないんじゃないか、とか思ったり、タイミングにうーん、と思ったりもしました。
ここでそのレトラ、という感覚、これはどこかに決まりが書いてある、とかいうわけではないので、あくまで例えばですが、リズムを上げた後とかにはシリアスすぎるレトラは来ないよなあ、とか、そういう感じのことなのですが。スペイン人の歌い手を見ていてこんな風に思うことはほぼないので、なんか不思議な感じでした。ちなみにこれは彼女にだけでなく、他の日本人の歌い手さんでも感じたことはありますよ。念のため。
ま、踊りが歌を引っ張るわけではあるのですが、歌が始まってしまえば、踊りもそちらに合わせねばならないところもあり、なので、難しいですね。
いい歌があると自然に体が動く、というようなことは実際あると思いますし、ソロとしてのカンテは上手でも舞踊伴唱の経験がない場合、うまくいかないこともあるでしょう。
ソラジャは日本人の歌い手の歌を、引っ張って、自分の踊りの中に入れていきました。すごいなあ。今へレスに住んで、若手の歌い手やギタリストたちも、彼女との共演で学ぶことが多いと感謝されているそうですが、さもありなん。彼女からは踊り以外にも学ぶことがたくさんあるはず。共演の機会がある日本人はラッキーです。

追記の追記
今日、あるアルティスタと話していて気づいたのですが、レトラの選び方が、という批評ということは、それだけレベルが高いアルティスタだから、ということでもあるのですよね。発音、コンパス、音程、レトラの知識、踊りの知識、と一通りのことができているからこそ、歌詞の選び方などで不満が出てくるわけで。
30年前、歌のないフラメンコが普通だったことを思えば、本当、時代は変わりました。
すごいな。頑張れ、日本人カンタオーレス!