2017年12月23日土曜日

エバ・ジェルバブエナに芸術功労金章

2017年度の芸術功労金章をエバ・ジェルバブエナが受賞する。
12月22日に発表された24人の受賞者の一人として発表された。
これはスペイン、教育文化スポーツ省が1969年より、毎年、文化芸術の功労者におくっているもの。今年の受賞者には、シンガーソングライターの、ホセ・ルイス・ペラーレスやルイス・エドァルド・アウテらとともにアンディ・ガルシアの名も。

おめでとうエバ!

2017年12月22日金曜日

スペイン国立バレエ「エレクトラ」

スペイン国立バレエの新作「エレクトラ」
振り付けはコンテンポラリーのダンサーながら、フラメンコとの共演も多い、コルドバ出身のアントニオ・ルス。ということから、ちょっとどきどきしながら観に行ったのだが、これが想像以上に素晴らしかった。

バレエ団にとっても非常に重要な作品となるだろうことを確信させる。いや、スペイン舞踊の流れを変えることになりうるのかもしれない、そんな作品だ。
このバレエ団にとっては珍しい、一本もの、つまり一作品だけでの公演だが、この作品のクオリティがおそろしく高く、クラシックバレエの名作にも匹敵するほどでは、と思わせるのだ。


ギリシア神話の、「エレクトラ」の物語は日本ではあまり知られていないかもしれない。
簡単に言ってしまうと、愛人とはかって、父を殺した母を、今度は弟ともに彼女が殺す、という、なんとも殺伐とした話。が、その母はかつて娘/エレクトラの姉を戦に勝つために人身御供として殺されたことを恨みに思っていた、などということもあり、誰が悪いと簡単には言えない。憎しみと殺しの連鎖の虚しさ。
その物語の舞台をスペインのどこかにある、どこにでもある、村に移した。
スタイリッシュな装置と衣装。
サンドラ・カラスコが歌う歌詞が状況、ストーリーを説明しつつ、舞台は進む。サンドラは口跡が良く、歌詞が非常に聞き取りやすいが、スペイン語の問題などでもし歌詞を聞き取ることができなくとも、上記のざくっとしたストーリーさえ頭に入っていれば、問題はないだろう。わかりやすく、観る者を引き込んでいく。その求心力の強さ。

振り付けは、コンテンポラリーをも含め、フラメンコ/エスティリサーダ/民族舞踊、など、スペインの舞踊全般を網羅したような、いわば新しいスペイン舞踊の形をとっている。フラメンコではオルガ・ペリセの協力をえているが、それとそれ以外の部分も全く違和感がなく、シームレスにつながっている。音楽も同様。カンテとオーケストラ、コントラバスとボーダーレスでつながっている。
国立のダンサーは、幼い時から舞踊学校出身者が多く、スペイン舞踊だけでなく、バレエもみっちり叩きこまれてきており、今でも、公演中も毎日、バレエのレッスンを行っている。だからこそ、ボーダーレスなこんな作品が可能だったのだろう。スペイン国立のダンサーにしか踊れない作品だ。
伝統をなぞるだけではなく、そこに新しい要素を加え、新しいスペイン舞踊を生み出す。
要素というのは単なるパソではなくコンセプトや音楽の使い方、装置や衣装なども含めたすべてを言う。
最初と最後の結婚式のシーンが、アントニオ・ガデスの「血の婚礼」を思わすのは偶然ではないだろう。先達へのオマージュ、伝統への敬意を強く感じる。

主役を踊った第一舞踊手のインマクラーダ・サロモンをはじめ、母のエステル・フラード、姉サラ・アレバロ、父アントニオ・コレデーラ、弟セルヒオ・ベルナルらに加え、母の情夫役で芸術監督のアントニオ・ナハーロも出演している。監督就任後、振り付けはするものの舞台からは遠ざかっていたのだが、そのブランクを全く感じさせない存在感だ。また、父王の死後、エレクトラを娶った農夫役のエドゥアルド・マルティネスが素晴らしい。

世界中の劇場ででも上演されるべき名作が、スペイン舞踊の歴史の新しい1ページを開いていくことだろう。






2017年12月20日水曜日

スペイン国立バレエ「マリエンマへのオマージュ・ガラ」

12月19日、マドリードのサルスエラ劇場で開催されたマリエンマへのオマージュ・ガラ。
マリエンマは1917年バジャドリードのイスカル村に生まれ、2歳で家族と共に移住したパリで育ち、そこで舞踊を学び、初舞台を踏んだ。1940年にスペインに帰国してからは、マドリードのテアトロ・エスパニョールを始め、スペイン国内はもとより、ヨーロッパ、アメリカなど世界各国で公演したスペイン舞踊家。マドリードの王立演劇舞踊学校の校長を務め、スペイン舞踊をエスクエラ・ボレーラ、民族舞踊、ダンサ・エスティリサーダ、フラメンコの4ジャンルに分類するなど、教授/勉強法を確立した。2008年に亡くなったが、現在、王立舞踊学校にもその名を残す、スペイン舞踊の歴史を語る上で欠かせない存在。
スペイン国立バレエに振り付けた「ダンサ・イ・トロニオ」はかつて日本で上演されたこともあるのでそれを覚えている人もいるかもしれない。
この公演は彼女の生誕100周年を記念するもので、国立バレエによる「ダンサ・イ・トロニオ」再演に加え、マドリードの二つの舞踊学校の生徒たちによるものを加えて、マリエンマの振り付けを改めて見ようという試み。

最初は「ファンダンゴ」。マリア・デ・アビラ舞踊学校生徒6人によるものだが、もともとはスペイン国立バレエのために振り付けされたもので、いにしえのファンダンゴのパソをなぞってもいる、ダンサ・エスティリサーダの作品。
続いてバレエ団のサラ・アレバロによる「アンダルーサ」、ピアノ伴奏でのダンサ・エスティリサーダの小品。佳作。スペイン人舞踊家として初めて日本を訪れたアルヘンティーナも、ピアノ伴奏での公演だった。かつてのスペイン舞踊のエッセンスを感じさせる。
3曲目は国立の第一舞踊手エドゥアルド・マルティネスによる「ボレロ1830」。この作品はマリエンマが2002年、彼のために振り付けた、マリエンマ最後の振り付け作品。見事なボレーラのテクニックで魅せる。巨匠の振り付け意欲をかきつけたダンサーだけに、さすがの出来。
そして最後は、王立マリエンマ舞踊学の生徒たちによる「イベリカ」。ラベルの「ボレロ」に振り付けた1964年の作品。これが素晴らしかった。イビサやアストゥリアスなど、スペイン各地の民族舞踊に始まり、ボレーラ、フラメンコ、エスティリサーダへと進んでいく。さながら、スペイン舞踊の歴史を見るような、振り付け。エスティリサーダでは国立バレエのクリスティーナ・アギレラも出演。
日本でおなじみのホセ・グラネーロの振り付けにヒントを与えただろう振りもそこかしこに。

休憩を挟んでの第2部は国立バレエによる、「ダンサ・イ・トロニオ」
ボレーラ、エスティリサーダ、フラメンコ。スペイン舞踊のエッセンスを美しく表現している。

歴史あってのスペイン舞踊。スペイン舞踊の歴史を振り返る一夜だったと言えるだろう。

追悼マヌエル・モネオ

12月19日、へレスの病院で歌い手マヌエル・モネオが亡くなった。67歳。

1950年ヘレスのプラスエラ地区の生まれ。
フアン・モネオ“エル・トルタ”(1953)、ルイス・モネオの兄。
マヌエル・トーレの伝統とアントニオ・マイレーナの正統の流れをくむカンテヒターノの名手。
マヌエル・モラオのフラメンコ公演、フエベス・フラメンコスで頭角を表す。
1987年へレスのアルティスタにおくられるコパ・へレスを受賞。翌年、マヌエル・モラオの作品「エサ・フォルマ・デ・ビビル」に出演。1991年にはフランス、アウディビス社の「へレス、フィエスタ・イ・カンテ.ホンド」を弟フアンと、モライートの伴奏で録音。99年にもファミリーでのアルバム、2007年にはソロアルバムもリリースするなど録音もいろいろ。1995年の映画「フラメンコ」で、アグヘータスとともにマルティネーテを歌っていたのも印象に残る。
ソレア、シギリージャなどを得意とする、真面目な歌いっぷり。が、フィエスタで一節唸るのも厭わない。
息子バルージョ、マカレーナも歌い手、息子フアンはギタリスト。

ここ数年は持病の悪化もあって舞台からは遠ざかっていた。
冥福を祈る。