思いは伝わる。
思いにあふれた舞台だった。
小松原のフラメンコへの思い、そのルーツである常磐津への思い。
舞台への思い。美への思い。
そして彼女を支える出演者たち、スタッフたちの思い。
その思いはまっすぐに私たち観客の心に飛び込んできた。
舞台を見に来た観客たちの、小松原への思いが加わる。
音楽の美しさ!
中国の古箏とフラメンコ、常磐津、チェロとシンセサイザーと、一見かけ離れた、異なるジャンルの音楽が一体となってつくりあげる空気の美しさ。
とくに常磐津とフラメンコは遠く離れた音楽のようでいて、声と弦という組み合わせゆえもあるのだろうか、実はそれほど遠いものではないように思えた。
とくに常磐津の音で小松原が花道から現れる場面は、バタ・デ・コーラで、スペイン舞踊の動きをしているのに、あまりにも自然にあっているのに驚かされた。 花道やすっぽん(花道にあるセリ)などの使い方のうまさも、幼い頃から伝統芸能と親しんできた彼女ならではなのだろう。
宴の場面以外はほぼ舞台にでずっぱりというのにも驚いた。あふれるばかりのエネルギー。それも彼女の思いゆえだろう。
長年の共演者であるクリージョもみせかたをよく心得ている。まるで年をとっていないかのような、スペイン国立バレエ団で第一舞踊手をつとめ、主役を踊っていた頃とまるでかわらないアントニオ・マルケスの小松原をたてる美しいサポート。クリージョとアントニオのデュオも美しい。スペイン国立バレエの黄金時代を思い出させる。
ビデオの使い方や照明、装置など美術も細かいところまでよく考えられている。
主にクリージョのものだという群舞の振付も、大人数をうまく処理していた。
公演なかばの宴の場面は、それぞれの踊り手に見せ場を用意するだけでなく、群舞のバリエーションも豊富で、歌い手も加わり、まさに華やかに繰り広げられる宴そのものだ。 スペインからきた若手男性ダンサーたちのレベルの高さ。フラメンコだけでなくスペイン舞踊全般を学んでいるからこその身のこなし。日本人ダンサーでも、今のスペインを感じさせる里有光子、優雅な入交恒子、ベテラン、鈴木敬子、中島朋子らが華を添えた。
一番最初、緑の山の映像の中にうかびあがった小松原の、すっと天に伸ばしたその腕のかたちの美しさ。長年のフラメンコ、スペイン舞踊への愛はかたちになって現れる。
その瞬間から最後の挨拶まで、彼女の思いがいっぱいにつまった舞台は、確実に私たちの心に届いた。
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