2021年5月25日火曜日

ヘレスのフェスティバル2021総括

とても特別な年でした。

25周年。本当なら大々的にお祝いしたはずです。

クルシージョ数も参加者も例年より大幅に少なく、公演数も減少していても、そのクオリティは例年に劣らず、素晴らしいものでした。

特に強い印象に残った舞踊作品は、

シンプルでよく整理された舞台でヘレスのアルティスタだけで最高のフラメンコを見せてくれたアンドレス・ペーニャ『ラス・カンパナス・デ・サンティアゴ』。シンプルに見せるための裏の努力が計り知れない。素晴らしい公演でした。

©︎Javier Fergo Festival de Jerez

パリ初演、ビエナルで作品賞を受賞した、どこのオペラハウスでも上演できるようなクオリティの高い作品ダビ・コリア&ダビ・ラゴス『ファンダンゴ!』。ラゴス兄弟のフラメンコ性、音楽性とコリアをはじめとする高い技術のダンサーたちの表現力が見事に融合。
©︎Javier Fergo Festival de Jerez

ビエナルで初演、でもヘレスでの公演の方がより素晴らしかったロシオ・モリーナ『アル・フォンド・リエラ』。伴奏はギターだけで歌はなく、でも最高にフラメンコな作品。ロシオの中にあるフラメンコ舞踊の情報量の多さがわかるというもの。
©︎Javier Fergo Festival de Jerez

12月セビージャで初演後、改訂し、わかりやすく見やすくなったヘスース・カルモナ『エル・サルト』はとにかく、へスースをはじめ男性ダンサーたちの超絶技と美しい形で、メッセージを伝えてくれる。
©︎Javier Fergo Festival de Jerez

と、4枚の写真を見てもわかるように、全体的に黒。暗いイメージのものが多かったように思います。時勢柄、なのかもしれません。外出禁止期間はもとより、公演もクラスも思うようにできない中、アルティスタたちの気持ちが沈んだこととも無関係ではないでしょう。自己の奥底と対峙した人もいれば、そうするうちに自分の希望を発見した人もいるでしょう。

また、通常よりも録音を使った作品も多かったように思います。これも、思うように集まれなかった時勢の反映のように思います。また反対にマドリード、セビージャ、

舞踊の表現はより自由になり、伝統的なフラメンコにはなかったような表現がどんどん出ています。イスラエル・ガルバンやロシオ・モリーナの活躍が、若手を刺激していることは確実です。枠にとらわれない表現が増えています。

音楽面ではノイズも含めたコンピューター音楽がかなり市民権を得てきているという感じです。以前は珍しかったものも、カホンのように当たり前の楽器の一つになっていくのかもしれません。またビデオを効果的に使っているものもありました。

25年。クルシージョの教授陣もだいぶ変わりました。マティルデ・コラル、ビクトリア・エウヘニア、ホセ・グラネーロ、メルチェ・エスメラルダらから、初期のフェスティバルのクラスに参加していたロシオ・モリーナやマルコ・フローレスらへ。初期から続いているのはハビエル・ラトーレ、今年は中止になったけどアンヘリータ・ゴメスぐらいかな?

フェスティバルの舞台に立つ顔ぶれもだいぶ変わってきました。マノレーテ、グイト、メルチェらは舞台からは引退。マリア・パヘスやカナーレス、サラ・バラス、ジェルバブエナらはいつの間にかベテランとなり、また地元のホアキン・グリロ、アントニオ・エル・ピパ(今年は昨年度の賞の授賞式で踊った)、マリア・デル・マル・モレーノ、アンドレス・ペーニャ、メルセデス・ルイス(1年目はプロ対象クラスに出席、今年は妊娠で公演中止)らも頑張っています。エステベス&パーニョス、マヌエル・リニャン、マルコ・フローレス、モネータ、アナ・モラーレス、エドゥアルド・ゲレロ、パトリシア・ゲレーロなど、小劇場からビジャマルタへ、舞踊団メンバーから単独公演へ、と皆それぞれ成長してきました。

また今回で言えばホセ・マルドナード、ホセ・マヌエル・アルバレス、フロレンシア・オスら、他にも昨年の新人賞パウラ・コミトレなど、意欲的な新人たちがチャンスをものにしています。

見続けているとアーティストたちの成長だけでなく、フラメンコ/スペイン舞踊の移り変わりも見えてきます。パフォーマンスだけでなく、作品としての仕上がりもアーティストの評価につながるようになり、個人としてのパフォーマンスはよくとも作品作りが苦手なアーティストの出演機会は減少しているように思います。フェスティバル主導のガラ公演などでそういうアーティストも出演できるようにしてほしいと切に願います。


去年、フェスティバルの頃から感染の話が始まっていました。中国からの参加者はキャンセルしたとか、後半のイタリアからの参加者もキャンセルしたとか。スタジオに消毒液があったり。どうにか無事フェスティバルは終了。そのすぐ1週間後だったでしょうか、厳しい外出規制が始まったのは。それもどうにか峠を越え、7月ごろから各地での公演も再開され始め、セビージャのビエナルも無事開催できたのですが、秋にまた波がくるなどもあって、通常2月のヘレスのフェスティバルも12月に、5月への延期が発表されました。すでに8月に発表されていたクルシージョの予定も組みなおし、この時点ですでにいくつかのクラスがなくなりました。

欧州内でも国境を越えての移動が禁止されるなどの事態もあり、開催が危ぶまれるのでは、と思われる時期もありましたが、ワクチン接種が進むにつれ事態は徐々に落ち着き、国境越えるためにPCR検査が必要などの条件はあるものの欧州からの参加は可能になりました。

とはいえ、大多数の参加者が海外からというフェスティバル。逆境下での開催にはさまざまな困難があったことは確実でしょう。それでも開催に漕ぎつけたのは、フェスティバル監督のイサマイ・ベナベンテをはじめ多くのスタッフの苦労の賜物でしょう。心から感謝です。


なお、24日、ヘレスの新聞ディアリオ・デ・ヘレス(ヘレス日報、ですな)の読者が選ぶ観客賞にアントニオ・マルケス舞踊団『メデア』公演が選出されたとの発表がありましたが、これもまた素晴らしい舞台でした。この時代、個人で作品制作、舞踊団を維持することがどれだけ大変なことか、なんてことを抜きにしても、フラメンコ/スペイン舞踊史に残る名作を再び観させてくれたことに感謝、感謝です。

©︎Javier Fergo Festival de Jerez

そう、フラメンコだけでなく、スペイン舞踊もヘレスのフェスティバルの重要な要素。昨年のスペイン国立バレエのようなスペイン舞踊の大作だけでなく、フラメンコとスペイン舞踊の要素、両方がある今年の『エル・サルト』のような作品にも拍手を送りたい。


ありがとうヘレスのフェスティバル!

来年はまた通常通り2月末から3月第一週にかけてです。来年こそ、日本のみんなも来ることができますように。






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