2026年9月15日火曜日

イスラエル・フェルナンデス『オロ・イ・マルフィル』

スペインで今、人気のあるフラメンコアーティストといえばマドリードで1ヶ月以上のロングラン公演を毎年上演するサラ・バラスを筆頭に、ミゲル・ポベーダ、今年の夏各地の音楽フェスティバルで満員札止めのギターのジェライ・コルテス、そしてこのイスラエル・フェルナンデスなわけで、今回のアルカサルでの公演ももちろん満員。

私は8月にラ・ウニオンのフェスティバルでも見てきたわけなんだけど、その時に比べてこの日は調子が良くないな、というのがまずは大雑把な感想。

会場は世界遺産だし、宮殿の美しいアラブ装飾をバックとした舞台も美しく、舞台からはヒラルダが見えるというのは最高なはず。ビエナルの会場として、ここでいくつも美しいもの素晴らしいものを見てきた。マティルデ・コラルへのオマージュ、パケーラの熱唱…

でもこの日の公演はそういった長く記憶に残るものとはけしいてならないだろう。女性の弦楽トリオ(バイオリン、ビオラ、チェロ)が参加しているのだけど、ごめん、クラシックのプロじゃない私が聴いても上手じゃないというのはよくわかる。耳栓必須の音響のボリュームと愛かってうるさい。続いて無伴奏でのブレリア、イスラエルのピアノでの弾き語りからギターのディエゴ・デル・モラオが登場してのアバンドラオ。そのディエゴのギターもなんかいつもとtがう。え?この日は暑かったし、屋外の公演ということもあってチューニングが難しかったとかあるのかな。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

パッヘルベルのカノンがフラメンコとなんの関係があるのか知らないけど、アレグリアス、メルセも歌ったポピュラーなプロテストソング『アル・アルバ』、ソレア、ティエント、ディエゴのソロでブレリア。ディエゴ伴奏でシギリージャ、ピアノでグラナイーナ、ブレリア…

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

たくさん歌ったし、弦楽トリオの他にも3人の女性コーラス、男性パルマ2人、パーカッションにアネ・カラスコ、そしてディエゴと舞台の上に10人のミュージシャン。でも舞台の出入りとか整理されてないし、女性コーラスも自分の出番まで舞台上にいるのに手持ち無沙汰みたいにしてるし、ちょっとカオス。

2年前のアラメーダ劇場の公演での方がずっと良かったように思う。

アーティストも人間、調子の良くない日もあるよね。でも弦楽トリオ、入れるならもっと上手な人にしてください、と思ったことでありました。

2026年9月14日月曜日

ホセ・フェルミン・フェルナンデス『ギターラ・デスヌダ』、ホセ・マジャ『レハノ』

 19時からはトゥリナでギター公演。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

タイトル通り、全くのソロ、歌もパルマも何もない、ギター一本だけでの公演。最初の一音でもうただものじゃない感。音だけですごいギタリストだというのがわかる。最初はロンデーニャ、パコ・デ・ルシアのをマノロ・サンルーカルが演奏したら、みたいな感じ。巧い。そう、巧いんですよ、音も綺麗だし、いろんな要素を詰め込んで、オリジナリティもある。あるんだけど、音数が多く、息ができないくらいに詰め込みすぎで、しかも全体の曲調がブレリアすらも哀調を帯びているというか、どこか悲劇的でずっと聴いていると鬱になりそう、と言ったら言い過ぎかもだけど、オレな瞬間はない。あったとしても音が詰め込みすぎなので口にできない。ビエナルでソロを弾くのは夢だったと語るなど、人間的にも感じがいいんだけど、彼の演奏はすごいことは認めるけど、私はもっと余白のあるフラメンコが好きだなあ、と確認。はい、個人的な好みの問題です。

22時半からはセントラル劇場でホセ・マジャ『レハーノ』。いやすごかった。幕開けの、彼自身が歌うシギリージャからして絶品で、踊り手の余技のレベルじゃなく、うならされる。全身フラメンコなのだ、この人は。そして全身全霊でフラメンコと対峙し、フラメンコを体現していくのだ。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

タラント、カーニャ、カンティーニャ、ブレリア…フラメンコのさまざまな顔を見せながら進み、最後のソレア。これがすごかった。彼の師の一人であるグイトのソレア。心からの敬意が、愛があってこその踊りで、まるで二人で踊っているようで。目線に至るまで細やかに再現されて、フラメンコはこうして受け継がれていくのだな、と、しみじみ感じさせてくれた。

途中から彼自身の振りのソレアになっていくのだけど、それもまた、伝統に学び、自分の表現を作り上げていくフラメンコの歴史と重なるようで胸が厚くなる。

身体づかい、回転。昔ながらの振りや形も彼のよって新しい命と輝きを得るのだ。もうほんと、最高! こういうのを見るとやっぱ私フラメンコ好きだわ、フラメンコが私を元気にしてくれる、って思うんですよね。ありがとうホセ。

音響のボリュームちょっと大きすぎたのと、大汗かいているのに最初から最後まで1着の衣装だけというのだけはちょっと残念だったけど、とにかく良かった。いいフラメンコを浴びることができて幸せでありました。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León 


2026年9月13日日曜日

ラウル・ロドリゲスとカニート『ラ・クエルダ・アル・アイレ』、アンヘレス・トレダノ『ラ・ミスマ・サングレ・デル・クエルポ』

 19時から市立ホール、サラ・トゥリナでラウルとカニートのギター公演。

この会場、昔はエル・モンテ(のちカハソル)が管理しててフエベス・フラメンコスなんかも行われていたとこですが、現在はセビージャ市立の音楽ホールとしてジャズや現代音楽、クラシックなどの公演も行われています。ビエナルではギター公演の会場としてお馴染み。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

キューバの弦楽器トレスを操りフラメンコを演奏するラウル・ロドリゲスはかつて、ソン・デ・ラ・フロンテーラで活躍、ヘレスのフェスティバルなどにも出演したことを覚えているかも?彼と、舞踊伴奏で活躍し、東京のタブラオに出演していたこともあるカニート。二人のオリジナリティあふれるアルティスタをくっつけたのはビエナル監督だったそうですが、すぐに友情がはぐくまれたそうで、二人の、フラメンコだけでなくいろんな音楽世界に開かれた才能が交差する楽しいコンサートとなりました。二人ともずっと立ったままで、まずはデュオで2曲演奏。近づいたり離れたりと舞台上で動くのも面白い。

そのあとはソロで3曲あってまたデュオに。そしてまたデュオというシンプルな構成。最後のブレリアとタンゴが最高でございました。


20時からのドランテは間に合わないのでパス。

22時半からのアンヘレス・トレダノを観にアラメーダ劇場へ。ハエン出身の若手実力派。彼女と共にペーニャなどで一緒に歌っていたという3人のカンタオーラと共に、セビージャの演劇学校生徒が登場。アンヘレスも含め、全員が白い下着姿(プラスアルファの羽織ものみたいなものやスカートを履いていたりもするけど)。女優さんが演出しているらしいけど、下着姿で半分お尻が見えてたりとか、うーん、美しくない。多分フェミニズム的理由とか、みんな違ってみんないい、いろんな身体があってそれを全部肯定するという感じなのかなあ、とかは思うけど、うーん。

パレハ・オブレゴンのセビジャーナスをピアノで弾き語りするところではみんなで踊るけど、うーん、名曲に合ってたかというと、うーん。


アンヘレスは無伴奏で舞台のヘリに腰掛けて歌ったカーニャやタラントなど色々、同輩たちもちょろっとファンダンゴ・デ・ウエルバのメドレーでソロで歌ったり。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León


以前見たロシオ・マルケスの舞台もそうだったけど芝居仕立てのカンテ公演ってのが流行ってるのかな。見せる工夫なのかもしれないけれど、うまいし、普通に真っ直ぐ歌っているのを聴きたいなあ、って思ってしまうのであります。余計な情報はいらないよー、シンプルにいい歌は芝居の真似事なんか必要じゃないのに、と。ま、みんな色々試行錯誤して自分の表現探すんでしょうね。

2026年9月12日土曜日

サラ・バラス『インフィニータ』

スペインで最も人気のあるフラメンコ舞踊家、サラ・バラスの新作初演。満員御礼。

アンダルシア8県をテーマにしたプログラムで、舞踊団群舞のマントンを使ったブレリアからファンダンゴ・デ・ウエルバに始まり、黒い衣装のサラのタラント/タンゴはアルメリア、


このビデオは暗く見えるけど、実際はもう少し明るいです。

ギターソロでのマラゲーニャに続くお祭り風のベルディアーレスはマラガ、コルドバはパンタロンに乗馬用の足あて、サホネスをつけたセラーナで、サラのソロに群舞が加わり表現、ハエンはホセ・メルセが歌ったトリージャでと言った具合。ここで聞かせたソロ・デ・ピエのクリアさは健在。さすが。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

踊り自体は90年代ぽい感じというか、今風の身体表現や超絶技は登場しません。グラナダはギターソロのグラナイーナとカンテのアバンドラオ。セビージャはソレアで始まりそれがシームレスにセビジャーナスへ。最後は彼女の生まれ故郷のカディスで、アバニコとコルドベスを手にした群舞のタンギージョからサラのアレグリアス。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

オスカル・デ・ロス・レジェスの照明は綺麗だし効果的。靴音が明確に聞こえてくる音響もよく、華やかな仕上がりはさすが。一方、踊りそのものは、現在のフラメンコ舞踊のような、体幹の強さを感じさせるような、超テクニックは登場しないし、群舞も基本全員同じ振りという感じで特にこれと言って見るべきところはないような。彼女が頭角を表した90年代ぽい感じの踊りというか、今となってはちょっと時代を感じさせる。ただ、それはきっと、あの時代から今までずっと舞踊をその移り変わりも含めて見ているからそう思うのであって、サラの名前に惹かれて見にきた観客は、美しい舞台に満足して家路を辿ったことでしょう。

なお19時からはサラ・トゥリーナでアントニオ・レイ、

22時半からはセントラル劇場でトレメンディータ公演がありました。
Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León




2026年9月11日金曜日

ビエナル2026開幕ガラ『エル・ムンド・ポル・モンテーラ』

 2年に1度の世界最大のフラメンコの祭典、ビエナルが開幕いたしました。

会場はマエストランサ闘牛場。闘牛場のアレーナに座席が並べられ、闘牛場の座席も4分の1くらいでしょうか、使っていたのでお客さんも結構入っていたと思います。

およそ100年前、スペイン各地の闘牛場などを舞台に“オペラ・フラメンカ”と題された公演が繰り広げられていました。オペラと題したのは、オペラが他の公演よりも税金が安かったからということですが、またオペラと名乗ることで、フラメンコを酒場の音楽ではなく文化であることを主張していたのだともいいます。

その時代。1920年代へのオマージュとしてのこのガラ公演。ビエナル監督ルイス・イバラとアンドレス・マリンが構成演出。通常なら各自でリサイタルを行うだろう(実際今回のビエナルでソロ公演を行う人もいる)、ホセ・メルセ、ホセ・デ・ラ・トマサ、アルカンヘル、トレメンディータ、スペイン歌謡系のマルティリオ、パトリシア・ゲレーロ率いるアンダルシア舞踊団、若手のマヌエル・デ・ラ・トマサ、ペレーテ、アンヘレス・トレダーノをマノロ・フランコ、アルフレド・ラゴス、ダビ・デ・アラアルと名手たちの伴奏で、というもの。全体の統一感や流れなど、一つの作品としてのまとまりは感じられなかったけど、ガラ公演だし、元々のオペラ・フラメンカもそういうものだったのかも。2時間。私は闘牛場の石の座席だったのでお尻が痛くなりました。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León


サックス演奏によるファンダンゴなどに始まり、若手3人によるカーニャ、3人それぞれのソロ、そしてバタ・デ・コーラのエドゥアルド・レアルとアンダルシア舞踊団による群舞へとt付きます。これがバックが黒、衣装も黒、照明は暗く、舞台は遥か彼方でよく見えません。うーん、こういう大きな会場ではラ・ウニオンのフェスティバルように大画面を設置して遠くからでも舞台の様子がわかるようにして欲しかったですね。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

同舞踊団監督パトリシア・ゲレーロは白い衣装でサックスによるグラナイーナを踊り、これは良かった。とにかく舞台が遠いから表情までは見えないわけですが、それでもサックスが奏でる歌をしっかり聴いての表現、間合いの良さなどの感覚は伝わってくるわけです。



舞踊団によるコロンビアーナとタンゴ。舞踊団の振り付けは、群舞らしくなく、というか、個人で踊る振りを全員で同時に踊っているというのが大部分で、フォーメーションも含め、もっと工夫があっても良いかと思ったことでありました。

エレキベースの弾き語りでトレメンディータがティエントを歌い、アルカンヘルはビダリータとグアヒーラを。マルティリオはサエタとカンシオン・ポル・ブレリア。ホセ・デ・ラ・トマサのソレア、そしてホセ・メルセのシギリージャ。いずれも伴奏はダビ・デ・アラアル。

最後は当時の人気曲だったファンダンゴ大会で幕。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

うん、志は伝わるけど、闘牛場という会場をいかしてもいないし、むしろその欠点が目立つ公演だったように思います。せっかくの機会だったんだけど、っていう感じ。これなら劇場公演で十分だったのでは?それぞれの演者も一流だけど、各自のベストなパフォーマンスだったかというと疑問も残るし。いや、一つの公演を成功させるって難しいですね。

2026年8月31日月曜日

エンリケ・ソト!追悼

 

8月27日にエンリケ・ソトが亡くなったのを知ったのも、起き抜けにのぞいたフェイスブックでだった。

ショックだった。病気してたけど、打ち勝ったんじゃなかったの?ヘレスで会った時は元気だったよね。

知り合ったのは80年代末だと思う。初めてのフェリアで迷い込んだ、パケーラやソルデーラ、カニェータなど、ものすごいメンバーでフラメンコやってたカセータで歌っていた一人がエンリケだった。

マリア・ソレアの後ろにエンリケ。ギターはピリピ。


その後、ペーニャ・エル・ボージョやチリンギートなどで顔を合わせ、仲良くなったのだと思う。

カンデラリアのフィエスタで。向かいにレメディオス・アマジャ。

ビセンテ・アミーゴのグループで歌っていたのは91年だったかな。あとジェルバブエナの舞踊団でも長らく活躍していた。

舞踊伴唱が多く、どちらかという地味な存在だったかもしれないけれど、知る人ぞ知る実力派。このソロアルバムの共演者見てみてください。




この録音してたマドリードのスタジオに連れて行ってくれたのは誰だったか。



追悼ポストに、日本のアフィシオナードたちも追悼のコメントを多く寄せていて、その飾らない人柄が偲ばれる。安らかに。

2026年8月21日金曜日

リカルド・パチョン逝く

 8月18日、プロデューサー,リカルド・パチョンが亡くなりました。89歳でした。

セビージャ出身、弁護士としてオリベッティで働いていた彼が、アンダルシア・ロックの草分け,スマッシュを皮切りにスマッシュと録音したマヌエル・モリーナとその妻(当時)ローレのローレ・イ・マヌエルやパタ・ネグラなど次々と、旧来のものとは一味違う新時代のフラメンコを次々と手がけた.だがその代表作といえば誰もがカマロンの『レジェンダ•デル・ティエンポ』をあげることだろう。

エレキギターにドラム、フルート,ベースにシタール… それまで誰もが考えなかった正統派の歌い手とロック系,ジャズ系ミュージシャンとの共演でフラメンコファンの度肝を抜いた。


私が知り合ったのはカマロンの『ソイ・ヒターノ』録音中のこと.その後,ディエゴ・カラスコのある録音に参加させてもらったり、カマロン没後のアルバム発表記念の夕食会に招待してもらったり(ファルーコ,ファルキートと一緒のテーブル!)、などもした。

フラメンコの好みや意見は一致しないことも多々あったけど、食べ物と飲み物をふんだんに用意して気分良くなってもらってのフィエスタを撮影したシリーズ『エル・アンヘル』の話とか,こぼれ話が面白かった。

素敵な奥さん、ドラマーだった息子さんを亡くし,踊り手で教授活動を行っている娘さんの手伝いで自分のアーカイブを整理,デジタル化したり、と晩年も活動していた。

安らかに。


カマロンのソイ・ヒターノ録音のスタジオへ向かう車で。手前はカルラス・ベナベン