2023年11月27日月曜日

田村陽子『ラ・セルピエンテ 蛇になった女』配信

 芸術の秋、パンデミックによる公演休止などを経て、フラメンコ公演も戻ってきました。

スペインからの舞踊団公演こそ、まだ昨年のアントニオ・ガデス舞踊団のみだけれど、日本人アーティストの公演で久々に来日するスペイン人アーティストは増えているようです。先日の小林亮の新譜発表記念リサイタルでもヘレスの名手たちが来日したし、小島章司/北原志穂公演ではチクエロ、エル・ロンドロ、ダビ・ラゴス、ペリーコ・ナバッロと小島の舞台作品を長年にわたって支えている仲間たちがやってきた。そして、小島と同日に公演だった、田村陽子の公演『ラ・セルピエンテ 蛇なった女』でも、田村の長年の共演者、舞踊家ヘスース・オルテガ、ギタリスト、ラモン・アマドールをはじめ、舞踊家クリスティアン・ペレス、歌い手ロサリオ・アマドールが来日しました。




残念ながら私は公演会場に出向くことはできなかったのですが、出かけて行った人たちが皆、口を揃えて絶賛していたので興味津々。公演録画を配信えするとのことで、配信にさきがけて拝見しました。配信はこちらでチケット購入できるそうです。4200円とのこと。https://t.livepocket.jp/e/t8s3a

なるほど、と納得したのは、これ、舞台作品としてのクオリティが非常に高いのです。

ストーリーのある作品ですが、物語はチラシに書いてある9行を読んでおけば十分理解できるほどシンプル。不実な男に恋した女が情念のあまり蛇と化し…舞踊作品は、舞台を観るだけでわかるのが基本。よくわからないけどよかった、すごかったと思うならいいのだけれど、よくわかんなかった、だけが残るのはうーん、問題ありかもしれません。

チラシに、原案:安珍と清姫とありますが、安珍と清姫の物語から借りてきたのは、情念が蛇になって相手を滅ぼすというコンセプトのみで、女に恋される男は僧ではないし、鐘の中に隠れるわけでもありません。出会いもその後の展開もオリジナルです。男は妻帯者で、というのは、主役の女にとってはライバルがいるわけでより恨みは強くなりそうですよね。

妻帯者である男と妻の場面はアントニオ・ガデス『血の婚礼』を、ラブシーンは『メデア』を思い出させますが、それをコピーしているというわけでは無論なく、フラメンコ舞踊史に残る名作(どちらの作品も前知識なくとも大まかな物語は理解できる作品です)への、リスペクトのある目配せ、といったところかと思います。

舞台作品のクオリティの高さは、全てに手を抜かずに作り上げていることによるのでしょう。物語のそれぞれの場面を表現するためのフラメンコの曲の選択もなるほど、と思わせるものだし、違う曲種へのつなぎ方も自然。舞台の使い方がとにかく上手いのです。大きな舞台での人物の配置、そして舞台空間を生かした動き。特に群舞、全員が登場する場面 が素晴らしいのです。ダイナミックな振り付けを踊る群舞メンバーたちのレベルの高さ。ようやく日本でもこのレベルの群舞を見ることができるようになったんだな、と感動。普段、ソロで活躍している彼らにとっても今回の舞台はいい経験になったと思います。場面場面の雰囲気づくりもうまいですね。最初の宴(祭り?)の場面でも、人物をベターっと一直線に置くのではなく座らせるなど立体的に配置し、全員で同じ振りを踊る時もフォーメーションに変化をつけたりするので発表会風にはなりません。

主役の田村は表現力、演技力が豊かで引き込まれます。一つ一つの動きのセンティードを理解した上で踊っている、というか、いまどういう気持ちを踊っているのかが明確に伝わってくるのです。ストーリー性のある作品では特に大切なところです。スペイン人の二人の踊り手と共演しながらも、主役としての存在感で引けをとらなかったのも素晴らしいですね。

共演のヘスス・オルテガの重厚さ、群舞をリードして炎を踊ったクリスティアン・ペレスもキャラクターダンサーとしての才能を発揮して見せ場を作っていたし、照明や舞台効果、衣装、メイクに至るまで本当によく考えて作っていたと思います。

舞台は総合芸術。一朝一夕にはいかないけれど、たくさんの舞台を見て何度も悩みながら作品を作っていくことでしか、演者にも観客にも納得のいく作品というのはできないのではないでしょうか。これからの展開にも期待しています。

『La Serpiente ~蛇になった女』 原案:安珍と清姫 日時 2023年11月3日金曜日 文化の日 17:30 開場 18:00 開演  場所 セシオン杉並ホール https://www.sesion-suginami.jp/ 助成 スペイン舞踊振興MARUWA財団 令和2年度 助成事業 後援 スペイン大使館 一般社団法人 日本フラメンコ協会 一般社団法人 現代舞踊協会

Cast Baile 踊り 女/蛇:田村陽子 男:Jesús Ortega 炎:Cristian Pérez 妻:浅見純子 正木清香 ヴォダルツ・クララ 久保田晴菜 脇川愛 松田知也(小島章司舞踊団所属) 中原潤 Cante 唄 : Rosario Amador/Paco El Plateao Guitarra ギター:Ramón Amador Violín バイオリン:平松加奈 Percusión パーカッション:海沼正利 Staff 構成・演出・振付・題字:田村陽子 振付:ヘスス・オルテガ/クリスティアン・ペレス 舞台監督:葛西伸一 音響:三上修次(東京音研) 照明:石島奈津子(東京舞台照明) 題字指導:柏木白光 へメイク:渡部圭依子 写真撮影:武重到 衣装デザイン:甲賀真理子(Mariko Kohga) チラシ制作:今井悦子 主催・運営:エストゥディオ・ラ・フエンテ

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