2023年11月26日日曜日

平富恵スペイン舞踊団『フラメンコ アレグリアス 〜生きる喜び〜』

11月25日、急に寒くなった東京ですが、夜は平富恵スペイン舞踊団公演を観に大手町の日経ホールへ。フラメンコだけでなくスペイン舞踊をも教える、日本では数少ない存在である、平が、スペインから元スペイン国立バレエ団の第一舞踊手、ルイス・オルテガらをゲストに迎えての公演。作品といってもストーリー性があるものではなく、フラメンコやスペイン舞踊のナンバーを繋いでいくコンサート形式というか、ガラ公演風というか、のスタイルです。



開演前に本編にも出演しているフラメンコ歌手、石塚隆充がビーチバレー選手と一緒に登場し、幕前でフラメンコとは、スペイン舞踊とは、と解説をするのは、フラメンコを初めて見るような人にも親しみを持ってもらおうとする試みだろうと思うのですが、内容がぼやっとしすぎていて、研究家としては複雑な気分。もやもやしました。簡単に、わかりやすく、と思ってのことでしょうが、スペイン舞踊の四種(エスクエラ・ボレーラ、エスティリサーダ、民族舞踊、フラメンコ)のうち、民族舞踊をホタだけにしてしまったりは流石にまずいかと重ます(ホタは各地に伝わる民族舞踊の中の一つでしかありません)。大雑把でも、もっと端的に説明できると思うので次回はぜひそのあたり修正していただけると幸いです。フラメンコやスペイン舞踊を知ってもらおうとする試みはとてもいいと思うのですが、せっかくなら正しい知識を持って帰っていただきたいです。

さて本編。オープニング、エスパーニャ・カニ。スペイン舞踊の名手、ヘスス・ペロナが、今回スペイン舞踊に初挑戦?な出水宏輝と舞踊団員、すなわち平の門下生たちを従えて登場します。そこに平やルイスも加わりパソドブレで華やかに。次はリカルド・モロのソロでサラサーテのサパテアードを。スペイン国立のバージョンとは違うと思いますが、きっちり踊ります。続く『デリリオス・イベリコス』は舞踊団員たちとヘスス、出水らによるスペイン舞踊のナンバー。振り付けがいい。ここまでがスペイン舞踊で、続くルイスのソロによるハレオからフラメンコ開始。ルイスはとにかくブラソやマノ、腕や手の動きが繊細で美しく魅了されます。こんなにも美しく、表現力豊かなブラソやマノ、久しぶりに見たような。フラメンコは野生的だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、優美なフラメンコもいいものだし、酔わせてくれます。

続くクアドロは舞踊団員3人の帽子をかぶってのガロティンからの小松美保の歌ソロも入るタンギージョへ。全体のバランス、それぞれの見せ所、フォーメーションの変化、これも振り付けがいい。ヘススのソロはタラント。伝統的なフラメンコに敬意を表しつつも独特な回転などで現代的でもあり、見応えがありました。平はバタ・デ・コーラにカスタネットのカラコーレス。バタのカラコーレスはよくあるが、カスタネットは珍しい。素早い動きでもきちんとバタをコントロールしているのはさすが。個人的にはゆっくりした動きでアルテを感じさせるような動きが好きなのだけれど、切れ味のいいバタさばきは小気味がよく、アスリートぽくてかっこいい。出水と舞踊団員とのファンダンゴで一部終了。

二部の前にもまた幕前の前説。そこで話していた石塚が引っ込んだかと思うと歌い出したファルーカは平とルイス、ヘスス、リカルドの4人で踊ります。フォーメーション替えとかはあるもののほぼ全編、同じ振りを踊る感じ。歴史的に男性の曲として踊られてきて、女性が踊る場合も男装や乗馬服で踊ることが多かったこの曲を平はジャンプスーツ(?パンタロンスーツ?)で。だったらもっと、彼女が目立つというか主役であることをアピールするような振り/構成にしても良かったかもですが、スペインの第一線で活躍する男性ダンサーたちと肩を並べて同じように踊ることができるのは本当にすごい!。

舞踊団の宮北華子と出水のパレハでのソロンゴ。若い才能の活躍を見ることができたのは収穫。でも、どちらもパレハはあまり踊り慣れていないのかな、などと思うようなところもあり、でもそれは伸びしろでもあるので今後に期待していきたいと思います。

平とルイスのカスタネットでのシギリージャがこの日の白眉。会話のように鳴らされるカスタネット。両袖から登場し、またそれぞれ反対側に去っていく構成も、出会っても交わらない人生のようにも思われ、心に染みます。最後はタイトルにもあるアレグリアス。休憩の幕前トークで、練習したフレーズを客席とともに歌う、なんていう試みもあり、明るく楽しく華やかに歓喜の宴で幕を閉じました。

アンコールでルイスにハグする平のちょっとした仕草が、彼女の師である小松原庸子氏を思い起こさせます。平も、平と同じくスペイン舞踊を大切にして後進にも指導しこの夏全国ツアーを行った石井智子も、文化の日にスペイン人を招いた劇場公演を行った田村陽子も、皆、小松原門下。スペイン人を招いた大掛かりな公演を長年行ってきた小松原スペイン舞踊団だから、出身者は舞台の、作品作りの魅力を知っているのでしょう。こうして、日本でも、フラメンコの伝統が受け継がれていくのでしょうね。

フラメンコの力強さ、勢いに押されがちなスペイン舞踊だけど、バレエの要素があったりとその習得は難しいけれど、姿勢をはじめ、シンプルなフラメンコを踊る時にも必ず役立ちます。この公演でも舞踊団員の方たち、姿勢がいいのできれいです。美人度アップしてると思います。
姿勢ってとても大切です。いくら複雑な足ができても、姿勢が悪ければ台無し。凄さが観客にも伝わりません。
フラメンコ同様、スペイン舞踊もよろしくお願いします。


平富恵スペイン舞踊研究所創立25周年 / 平富恵スペイン舞踊団結成15周年記念公演 「FLAMENCO ALEGRÍAS~生きる喜び~」

11月25日(土)13時、18時
日経ホール

出 演 / 
【舞踊家】
平富恵、ルイス・オルテガ、ヘスス・ペローナ、リカルド・モロ、出水宏輝

[平富恵スペイン舞踊団]
宮北華子、菊池和緒子、濵野紗帆
松下弘実、秋山千草、小黒瑞紀、井上亜紀、安藤麻紀子、田中英恵、井上洋子、平クリオ
須藤 絵里子、平野 聖美、杉島直美、後藤 雅枝、石谷 優枝、蓮池 良美、大貫 智子、星野 知恵、小山 真理子、鈴木 由香、海貝 佐和、松村 彩、村田 愛、飯森 詩織、照沼 かおり

【音楽家】
ミゲル・デ・バダホス[歌手]、石塚 隆充[歌手]、小松 美保[歌手]、徳永 健太郎[ギター]、福嶋 隆児[ギター]、橋本 容昌[パーカッション]

【プレトークショー】
スペシャルナビゲーター:石塚隆充
ゲストアスリート:ビーチバレー庄司憲右

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