あったかい公演だった。
畳3枚くらいかな、と思うような小さな舞台を三方向、そして斜め上、上から囲む小さな会場にぎっしり詰まった観客たちみんなが大きな家族のような。そんなあったかさに包まれていたのは、やはり主役二人の人柄ゆえなのだろう。
ハカラの録音をアバニコを使って踊って始まり、井上の姉の娘でクラシックのチェロ奏者矢口里菜子とピアノの田口翔のピアノでのゴジェスカス間奏曲へ。チェロが残りギターも登場してはじまるファルーカはフリンジに彩られた幅広の黒いパンタロンスーツで、ギターソロを挟んで一部の最後は腰の後ろにリボンがついた白い衣装でカーニャ。休憩を挟んで、アルベニスのタンゴをカスタネットで踊り、ギターソロでのファルーカ,カンテソロでのマラゲーニャときて最後はバタ・デ・コーラとマントンでのアレグリアスを。クラシコエスパニョールとフラメンコの繋ぎ方も含め構成がうまい。
フラメンコ誕生前のスペインの舞曲ハカラを最初にフラメンコ公演で観たのはアナ・モラーレスの2015年の公演。あの時の公演でもアバニコ、扇の音が印象的だったけど、ここでもスペイン扇の仰ぐ音を印象的に使っている。振り付けは現在志摩スペイン村の振り付けを手掛けているダニエル・ドーニャだという。今回のプログラムでは各曲に振付と音楽(楽曲提供とあるけど、振り付け時のオリジナル曲の作曲者、ということだろう)の担当者の名前を出しているのはいい試みだと思う。彼女のフラメンコに対する真摯な姿勢の表れなのだろう。
指先や足先、体や首の傾き具合など、細部をおろそかにせず、美しくあることを大切にした彼女のパフォーマンスはさすが。日々の積み重ねの結晶だと思わせる。曲もバラエティに富んだ構成で場面ごとにミュージシャンの位置を変えるなどの工夫もあり、しっかりしたリサイタル作品として出来上がっていた。欲を言えば衣装にもう一工夫あっても良かったかもしれない。カーニャの白い衣装はグアヒーラに似合いそうで、シリアスな曲であるカーニャらしさという点ではちょっとマイナスのような。髪の小さな花飾りとかは良かったのだけど。またバタも、コーラ、尻尾の部分にもう少し張りがあるともっと綺麗に見えたのではないだろうか。実力がある人なのでそういったものもさほどマイナスにはならないとは思うのだけど、実力があるだけにもっとよくなるのに、という思いは残る。単なる好みの違い、なのかもしれないけれど。
昨年大動脈瘤という大病を患った鈴木は見事な復活を果たした。病後のリハビリなどさぞ大変だったことだろう。フラメンコを演奏することを楽しんでいるのが伝わってくるような、いいトーケだったと思う。
銀の鍋。鍋という言葉から、手鍋下げても、という言い回しを思い出す。二人でいれば幸せ、フラメンコで結ばれた二人の25年。銀の鍋は輝き続けてやがて金の鍋になるのだろうな。
度重なるアンコールの拍手に、最後「帰ります」と言った井上のユーモア感覚。このユーモア感覚を活かした曲とかも観てみたいなあ。グアヒーラやタンギージョ、ガロティンとかかな?と勝手に妄想。
プログラムや入場券に至るまで丁寧に作られた公演。二人の愛をみんなの愛が包む、幸せな時間だった。
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