2021年4月17日土曜日

スペイン国立バレエ団『アントニオ生誕100年記念公演』

セビージャのオペラハウス、マエストランサ劇場でスペイン国立バレエ団による、アントニオ・ルイス・ソレール生誕百周年記念公演が行われました。

アントニオ・ルイス・ソレールはスペインではアントニオ・バイラリン、日本ではグラン・アントニオとよばれる、スペイン舞踊の歴史にさんぜんとその名を輝かす舞踊家です。
1921年セビージャに生まれ、幼い時から舞踊で頭角をあらわし数々の海外公演も重ね、スペイン内戦時にはアメリカへ渡り、ハリウッド映画に出演するなど活躍しました。世界的な活躍はスペインに帰ってからも続きます。1953年に自身の舞踊団を旗揚げ、グラナダの国際音楽舞踊祭でアルハンブラのヘネラリフェ劇場の柿落とし公演を務め、また1971年、1978年と来日公演を行い、その札幌公演を最後に舞台から引退しました。1979年に創立されたスペイン国立バレエ団の監督を、1980年にアントニオ・ガデスから引き継ぎます。1983年に退任するまでの期間に加え、就任前、退任後も含め、国立バレエに16もの作品を提供しています。
1996年にマドリードで亡くなり、セビージャに葬られましたが、2016年にはマドリードで国立バレエ団による彼へのオマージュ公演が行われています。
が、セビージャではこれが初めてのアントニオへのオマージュ公演となるそうです。

ということで、初日の客席にはかつてアントニオ舞踊団に在籍したことがあり、現監督ルベン・オルモの師でもあるマノロ・マリンをはじめ、アントニオ舞踊団の秘蔵っ子だった元スペイン国立バレエ監督のホセ・アントニオ、マリア・ロサ、アナ・マリア・ブエノ、ペパ・コラル、ロシオ・コラルなど多くの舞踊関係者が顔を見せました。


幕開けは『ソナタス』。ソレール神父のソナタとしてスペインでは親しまれていますが、日本ではアントニオ・ソレールという方が多いみたいですね。18世紀の作曲家で聖職者。彼のは144曲ものソナタを作曲したということですが、その中から9曲を使って、序曲、そして9つの振付/場面が展開されます。
1953年にアントニオが自分の舞踊団のために作った作品で、1982年に6月にセビージャのロペ・デ・ベガ劇場で国立バレエによって上演され、84年のアメリカ公演まで上演されていたそうです。その後ほぼ40年間再演されたことがなかったというこの作品はエスクエラ・ボレーラの作品で、宮廷での舞踊という感じの舞台装置と衣装(40年前の衣装を直して使っています)。鍵盤楽器用の曲はオーケストラ用に編曲され、すでに国立バレエと仕事をしているセビージャ交響楽団による生演奏での伴奏という豪華さです。
跳躍とカスタネットが特徴的なボレーラですが、この作品はよりクラシックバレエのような感じ。クラシックバレエのようなパと、カスタネット、ボレーラ独特のちょっと斜めに傾げたような感じの姿勢が組み合わさった感じ、と言ったらわかるでしょうか。
それが女性4人に男性2人、女性1人に男性2人、女性ソリストと群舞4人、女性ソロ、といったようにさまざまなフォーメーションで魅せていきます。
最初に登場した赤い衣装の進行役や、ほぼ装置のように舞台を彩るちょうちんブルマの衛兵たちなど、ベラスケスの『女官たち』のような衣装の人々が登場したり、で、スペインの宮廷舞踊のイメージなのでしょうね。
このビデオは82年のものですが、床の模様もセットも衣装も再現されていました。



オリジナルのを見ていないので比べてどうこういことはできませんが、今やもう他ではほとんど見ることができないこの舞踊の大作を再演してくれたことが非常に嬉しいですし、ソロを踊った第一舞踊手エドゥアルド・マルティネスやソリストのミリアム・メンドーサらの美しい動き、所作が印象に残ります。

国立バレエでは1作品ごとに挨拶をするのが恒例ですが、『ソナタ』も最後に全員で挨拶をします。

2作目は舞台前、カーテン前での『ビト・デ・グラシア』。
ハリウッド時代のアントニオが、相手役ロサリオと踊ったビトの再現で、ルベン・オルモ監督がソリスト、ミリアムと踊ります。時代がかった振付です。下のビデオはそのオリジナル。



一部の最後は新作『エスタンパス・フラメンカス』。
アントニオへのオマージュとしてルベン監督と、ミゲル・アンヘル・コルバチョ監督補佐が新しく振り付けた作品で4曲。
幕開きのマルティネーテはミゲル・アンヘルの振付。マルティネーテを一番最初に踊ったと言われるアントニオのポーズなども取り入れながら、ホセ・マヌエル・ベニテスのソロに総勢十人の群舞が加わり魅せてくれます。



の多人数でのフラメンコの振付は国立ならではのもの。カレイドスコープのように変わっていくフォーメーション。ずらっと並んだダンサーたちはまさに壮観。涙がにじむほどかっこいい。 

このホセ・マヌエルが小柄で細身で、姿がよく、アントニオの体型に通じていて余計にグッときます。

つづくソロンゴはインマクラーダ・サロモン、アントニオ・コレデーラという二人の第一舞踊手によるナンバーでどこか懐かしい感じ。わざと昔風に作ってるんですね。

そしてルベン監督のタラント。昔風の衣装でタンゴまでたっぷり踊ります。
こちらはマノロ・マリン先生へのオマージュでもあるそう。そういえば、タラントが流行ったのはマノロ先生ゆえだという話もあったような。タンゴはトリアーナっぽいのもいい。

そしてまたギターにはじまる、


カラコーレス。これはルベンの振付。色とりどりのバタ・デ・コーラにマントンの華やかさ。昔からのファンなら『フラメンコ組曲』のカラコーレスを思い出すことでしょう。
あれよりも振付はより現代的、より複雑になっているものの、高いクオリティーの群舞です。




そしてソロを踊ったノエリア・ラモス!
ルベン監督になってからの新規加入ですが、いやあこれが素晴らしい!
かたちの美しさ、技術の確かさ。余裕を持って優雅に踊る彼女に魅せられました。









 カラコーレスのあと、挨拶があってそのあとアンコール風に踊ったセビジャーナスがこれまた魅力的で。バタの女性と腰高ズボンにベストという伝統的な衣装の男性。本当なら来週からフェリアだったんだよなあとか思ってまた涙。

休憩をはさんでの第2部はカルロス・ビラン振付の『レジェンダ』。アルベニスの『アストゥリアス』を黒にキラキラのついたゴージャスなバタ・デ・コーラでゲスト・プリンシパルのエステル・フラードがカスタネットを使って踊るソロ。たった一人で、マエストランサ劇場のあのだだっ広い舞台空間をいっぱいにしてしまうのがすごい。もう一度観たくなる。

続いて同じくゲスト・プリンシパルのフランシスコ・ベラスコによるおなじみサラサーテの『サパテアード』。ベテランがしっかり魅せます。

そして最後は『ファンタシア・ガライカ』。日本でも上演されたことのある、北スペイン、ガリシア地方の民族舞踊をモチーフにした作品。エルネスト・アルフテル作曲でソプラノも加わる音楽は生オケで。民族音楽舞踊が持つエネルギーに満ち溢れ、かつサンティアゴ巡礼をモチーフにしたバレエ的曲もあり、古き良きハリウッドのミュージカル映画のような構成で盛り上がります。ここでもダンサーたちの技量がよくわかります。楽しい!


当初、4月15、16の二日間が予定されていましたが、14日午後になって感染拡大によりセビージャのレベルが2から3となったことを受けて、入場人数の制限が強くなり、1800人定員の劇場ながら、観客同士の間を1、5m開けて500人程度とすることとなり、すでに売り切れていた16日の分も合わせ、17、18日も公演ということになりました。こういう非常事態にすぐに対処できるのはさすが、スペイン、即興の天才です。国立であり、団員は出演者もスタッフも公務員/準公務員であり、全員のスケジュールが抑えられていたということもあるでしょう。それにしてもすごいことです。バレエ団、オーケストラ、劇場、出演者スタッフ、全ての人の努力のたまもの。


こちらがこの公演の抜粋のビデオです。雰囲気だけでもわかってもらえるかな。




何度でも観たい、と思ったけれど、すでに売り切れ。マドリーでやるなら行きたいくらいです。

日本にも行くといいな、みんなにみてもらいたいな。


それにしても劇場に行って、知り合いに挨拶して、立ち話して、素晴らしい舞台を観て、幸せになって、エネルギー充電完了。ライブはやはり、舞台の上と下でのエネルギー交換がリアルタイムで行われるので幸せになります。こういう時間あってこその自分だと再確認したことでした。


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