2022年5月30日月曜日

第3回全日本フラメンココンクール決勝結果

 5月22日、スペイン大使館オーディトリアムで、第3回全日本フラメンココンクールの決勝が行われました。11時すぎからカンテ、15時すぎからバイレ、と両部門の審査が行われました。

その結果は以下の通りです。

カンテ部門

優勝 遠藤郷子

準優勝 井上泉

審査員特別賞セージョ・プロピオ賞 齋藤克己

審査員特別賞アフィシオン賞 三枝雄輔

バイレ部門

優勝 石田久乃

準優勝 角谷のどか

小松原庸子賞 幸田愛子

スペイン大使と受賞者の記念写真




今回初めてだったカンテ部門はもちろん、バイレ部門も多くのプロの方が参加されるなど非常にレベルの高いパフォーマンスが多く、特にバイレ部門はどなたが優勝してもおかしくないくらい接戦でした。カンテ部門でもそれぞれの個性が感じられ、と、より豊かなフラメンコの未来へと繋がっていくことが確約されている、という気がします。

なお、いつも言うことですが、この結果はあくまでも、この時のパフォーマンスを見て、今回の審査員の印象による結果です。当日のコンディションなどもありますし、審査員との相性(それぞれの審査員が評価するポイントを得意とするかどうか)もあるでしょう。

 なお、審査員の門下生が出場した場合はその審査員は審査に参加せず、他の審査員の出した得点の平均点を出して、他の出場者と比べて結果を出します。

 また、上位の人が僅差の場合は審査員の話し合いで全員が納得するまで話し合って決めます。各審査員によって評価に差がある人も全くいないわけではないですが、満点評価を最低点で評価している人がいるということなどはおこっていません。また、全員が満点をつけた人もありませんでした。また、審査員は出場者の所属や出身地などの情報は知りません。知り合いがいないわけではありませんが、それが審査に影響してはいないと思います。

志風個人による出場者全員のパフォーマンスへの感想を以下に述べます。これはあくまでも志風個人の感想で他の出場者や主催者とは関係ありません。参加者関係者の方が読まれることもあるかと思いますが、一人に対するコメントだけ読まず、全部、できれば読んでください。そうすることで私個人がコンクールという場に限らず、カンテ、バイレのパフォーマンスに求めているものがわかっていただけるのではないかと思います。私の意見が絶対ということではありませんが、広く観客に受け入れられるためのヒントの一つにはなるのではないかと思います。

なお、今回、アドバイスシートというのを決勝参加者の方に主催者からお送りしますが、そちらの方は審査員全員の意見から抽出したものになります。

カンテ部門

1。川島桂子 ミラブラス/サリーダなしで直接レトラに。カンテの理解度が深い。歌詞の意味、センティードどういう方向性を持っているか、どこでどういうレトラを歌うのがいいのか、スタンダードな組み合わせ方、などいろいろ熟知している。パルマも上手。が、1番目というのもあってか、調子が出ないままに終わってしまった印象。曲のキャラクターからいって歌い上げるよりも、もう少し力抜いて軽妙さが出るとよかったかも。知識経験アフィシオン、何より実力がある人なので他の曲だったら予選と決勝の曲が逆だったらまた違う結果だったかも、などとも思う。

2。齋藤克己 アレグリアス 審査員特別セージョ・プロピオ賞/予選で歌ったタンギージョはグラシアで魅せたが、カディスつながりのアレグリアスは、最初、サリーダのティリティリからして違う。抑えめのテンポで、ギターを引っ張っていく。声もよく出ていたし、アンダルシアのおじさんのような響きもある。曲と歌い手のキャラクターがよく合っているということもあるのかも? 

3、土井康子 ソレア/声がいい。気持ちを込めて大切に歌っている感じもいい。力が入ると音程がずれてしまうのはスペイン人でもよくあるが、全体的に音程の揺れがある感じ。音程が全てではないが、あっているにこしたことはない。

4。遠藤郷子 マラゲーニャ 優勝/自分の声、キャラクターにあった曲種、その中に数あるスタイルの中からの選択も良い。声もよく出ている。真面目にきちんと歌っている。やるべきことをやっているという感じ。欲を言えば、というか、ここからの課題は深みや味わい。その人ならではの持ち味のようなものが 出てくることを目指したい。

5。岡村佳代子 ファンダンゴス/サリーダなしで歌い始める。サリーダは声の調子を整える意味があるのだが。声のコントロールは課題。同じ調子で歌い続けるとどうしても平版な感じになってしまう。語るようなところ、強く歌い上げるようなところ、と起承転結というか、全体の流れを考え、ニュアンスづけをしていくといいのでは。

6。佐藤真寿美 カラコーレス/緊張しているのか、前かがみになってしまっている。胸を開いたほうが声もちゃんと出てくるのではないだろうか。ゆっくり目のテンポ。歌詞の意味はわかっても方向性の理解が不足しているかも。叫ばずに歌ってほしい。

7。許有廷 マルティネーテ シギリージャ/マルティネーテならマルティネーテ、シギリージャならシギリージャで歌わないのはなぜだろう。カンテソロなのだからどちらか一つにした方がいいのではないだろうか。またすでにマルティネーテを歌っているのにシギリージャでまたサリーダを歌うのもよくわからない。歌と歌う人の間に距離があって一体感がないように思えるのはなぜだろう。上手なのだけどどこか冷めた感じ。そういう持ち味?

8。岡村めぐみ マラゲーニャ/音程が上がっていくところがカクカクした感じ。また歌い上げるのと叫ぶのは違う。彼女に限らず大声を出す人が多かったが、声を前に出すことは大声を出すことではない。声のコントロールができナチュラルに歌えるようになれるといい。

9。熊谷喜博 マルティネーテ・イ・シギリージャ/マルティネーテとシギリージャを一緒に歌う必要はない。発音にクセあり、よりよくできるはず。メロディも自分で作っている感じがするところも。ただ好きだ、という気持ちが伝わってくるし、元々あるものに敬意を持ってのクリエーションは、自分の表現になっているということでもあり、悪くない。声にいい響きがある。

10。井上泉 シギリージャ 準優勝/シギリージャを歌うという覚悟を感じさせるサリーダ。恵まれた声にアフィシオンが加わると強い。歌い回しの細部もよく研究している。声のコントロールもいい。

11。中里眞央 ペテネーラ/声量もあり、サリーダもいい。メロディを綺麗に歌える実力があるのだから声を張らずに叙情的な部分をもっと前面に押し出した方がいいのでは?Quisieraの所とか美しい歌いぶりだった。声を張ると不自然な感じ。

12。松林早苗 シギリージャ/サリーダ、少し鼻にかかった感じがちょっと気になるが、いいものも持っている。叫ばずに、音程も気をつけていけば磨かれていくのでは。

13。三枝雄輔 審査員特別賞アフィシオン賞/フラメンコへの深い愛と知識経験が結実している。アフィシオンとはフラメンコを愛し、愛するがゆえにもっと知りたいと探求模索することだと思う。自分のスタイルがある。うまく歌おうとかいうよりも、自分の好きなフラメンコと真摯に取り組んでいるという感じ。フラメンコとこう言う取り組み方をする人がいることは他の人にもいい影響となるに違いない。


バイレ部門

1。鈴木旗江 ソレア/カホンが入っているものの、基本に忠実、という感じ。きちんとしたソレア。気持ちが前にいって体が後から来る感じがちょっとある。

2。吉田芽生 ソレア/歌よりも振り付けが優先されているような感じ。形はきれいだし、勘もいいように思うので、歌やギターとの関係づくり、歌を聴く余裕、歌に応える余裕ができれば、もっと良くなる。歌を愛し、学ぶことも踊るためには必要だと思う。

3。渡辺なおみ シギリージャ/超スピードで始まる。上手だが、彼女がシギリージャという曲をどう捉えてどう表現したいのかが伝わってこない。テンペラメントで押していく感じで、足も強いが、回転は研究の余地があるようにも思う。

4。山下美希 タラント/髪型やメイクのせいかアゲダ・サアベドラを思い出させる。はじけるような感じもあって、きっとこれからもっと上手になっていくだろうという感じ。

5。関真知子 アレグリアス/マントンにバタ・デ・コーラの王道アレグリアス。マントンはもっと持ち重りのするものでも十分使えそう。ところどころ、意味をあまり考えないで踊っている部分もあるような感じ。一

6。伊藤千紘 シギリージャ/気持ちの持っていき方がいい。ただところどころ、振りに入る前にヨッコラっしょ、というような感じで力が入るようなのがちょっときになる。自然な流れで進めるともっといい。

7。石田久乃 ソレア 優勝/最初、調子が出ないようだったが、次第に取り戻していった感。ブレリアになってからの表情がいい。細かいところはもっと丁寧にできるようになるといい。マノが綺麗なのに、手が下になると袖で隠れてしまうのがもったいない。いいものを持っているので、いろんな先生に習って才能を花開かせて欲しい。

8。岩楯颯来 ソレア・ポル・ブレリア/パルマで始まる。レトラをマルカールしていくのはいい。教わった振りを順に追ってなぞっていくのではなく、フラメンコを踊る、ということを意識している印象。トラへコルトだが、多分、帯かスカーフをベルトにするなどしてウエストマークした方がいいのでは?また髪で顔が隠れるのもよくない。べったり固めなくてもいいから、顔にかからないように工夫してほしい。表情や目も踊りのうちなので見たい。

9。本多清見 ティエント/数ある曲種の中からティエントを選んだからには、その踊り手が考えるティエントらしさをみたいと思うのだが、それが見えてこなかった。おそるおそる始めるようなサパテアードの手探り感?また、一つ一つの動きをより丁寧にやることを心がけてほしい。

10。宇根由佳 アレグリアス/白地に緑の水玉の上等なバタにマントンのアレグリアス。赤い靴が可愛い。バタの形のせいか、思うようにしっぽが動いてないような感じもある。多分、この形のバタにあったテクニック、もしくは振り付けにするといいのかも。優雅さもほしい。

11。鬼頭雪穂 ソレア・ポル・ブレリア/ソレア・ポル・ブレリアらしいソレア・ポル・ブレリア。アピールが上手。客席を食いそうな勢いがある。モーニョ、まげはもっと素敵にできるはず。下にペチコートはいていても、ファルダ高く持ち上げすぎる下品に見えて損。似たような感じの振りもあるからもう少し整理するとより良いのでは。

12。角谷のどか シギリージャ 準優勝/ソレア・ポル・ブレリアみたいな始まり。踊り手がシギリージャをどういう曲と捉えて踊っているのかがよくわからない。シギリージャである必要があったのか、他の曲でもよかったのでは、といった振りも多い気がする。いろんな踊り手のものを見て聞いて、自分のイメージを固めていく作業がプラスになるのでは。

13。山本秀子 タラント/タッパもあり手足も長く舞台映えするので、忙しく動くのではなく、もっと抑えた、美しいポーズなどを生かした振りの方が合うような気がする。ドラマチックな表現とかも似合いそう。タラントといういう曲が持つ性格などの理解が進むとより良くなるのでは。

14。手下倭里亜 タラント/自分のフラメンコの世界、自分の表現が完成されているという感じ。ミュージシャンにも自分のしたいことをきちんと伝えられているように思うし、センティードがちゃんとしているのがさすが。

15。幸田愛子 アレグリアス/とても若いにもかかわらず上手。野生的なフラメンコを踊りたいようでで勘もいい。ある程度のレベルに達しているからこそ、回転やマノやブラソなどのテクニックはもっと上達してほしいし、動きと動きのつながりなども考えることが必要になってくるのではないか。丁寧に踊ることを心がけるだけでもプラスになるはず。

16。岸田瑠璃 マルティネーテ・イ・シギリージャ/バストンで大曲に挑む。上手。丁寧に踊っているのに好感が持てる。ペソ、重心の落とし方を意識していくともっと良くなるのでは。また是非見たい。









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