2025年11月22日土曜日

メルセデス・ルイスとサンティアゴ・ララ『ドゥアル』アンダルシア・フラメンコ

 バイラオーラとギタリスト、夫婦二人だけの舞台。フラメンコのメッカ、ヘレスの二人が作ったのは、カンテ不在のフラメンコの舞台。カンテが空気のように存在するアンダルシアの人にとっては新鮮に思えるのかもしれないけれど、かつて日本ではカンテなしでギターだけでのフラメンコが普通だった時代を知っている私のような者にとっては昔に戻るような感じもちょっとする。

オープニングそして最後が『禁じられた遊び』というのは外国公演とかを考えた選曲なのかな? バタ・デ・コーラのソレア、ラモン・モントージャの録音のロンデーニャ、マヌエル・モラオのシギリージャのソロの映像にカスタネットで絡むメルセデス、白い短いジャケットに細かい花柄の衣装で踊るファルーカはサビーカスの曲で伴奏。ギターソロはブレリア、そしてサラサーテのサパテアードをソフト帽、背広のようなジャケットで踊り、最後フィン・デ・フィエスタという感じでメルセデスがちょっと歌いつつ踊ったのでありました。

マントンやアバニコ、カスタネットというのはなんか、マリア・パヘスの影響なのかな。とりあえず色々全部できるけど、この人のこれは誰よりも魅力的、みたいなものがあるといいんだろうな。一観客が贅沢言ってるんじゃない、って自分でも思うけど、でもそれがあれば強いのにな、と思ったことでした。あと、サンティアゴの先日のリサイタルとレパートリーが、ソレア、ファルーカ、サパテアードとモロかぶりだったこともあって、なんか損した気分で不完全燃焼。いやいつも引き慣れた曲弾いたってだけでしょうけどね。

プロモーションビデオがあったので貼っときます。




作品としてはすでに各地で公演しているようで、作品としてのまとまりはできているし、出演者も二人だけなので出演料や経費も抑えられるからツアーの可能性は高くなるのかもね。と思いつつググると、もうすでにアメリカ、イギリス、中国などあちこちこれで公演しているんですね、なるほど。







2025年11月21日金曜日

パトリシア・ゲレーロenトーレス・マカレーナ

 最高だった。見るだけで幸せになる魔法のフラメンコ、いやフラメンコの魔法?

パトリシア・ゲレーロ、今、私が一番好きな踊り手。それがセビージャの老舗ペーニャ、トーレス・マカレーナで踊るというのだから、そりゃ行くでしょ。幹部会員であるお友達に誘ってもらったので一番前の特等席に座ります。ちなみにこの日は予約だけで超満員。

ギターはダニ・デ・モロン、歌はセルヒオ・エル・コロラオというからいつも劇場で共演しているメンバー。いや、それをマイクなし、息づかいまで聞こえるようなスペースで、っていうのにもドキドキ。


ギターのイントロが始まる。シギリージャ。

フラメンコの曲種の中でも最もシリアスで悲劇的なこの曲を男装で、直線的な表現で。


くっきりと際立つサパテアード。回転ごとに変わるニュアンス。
間合いの良さ。

もっと写真を撮るつもりだったのだけど、見惚れてしまって手が止まってしまった。次は何がくるんだろうと目が離せない。
ギターソロはいろんな曲種のリズムが混在するポプリ。『ピネーダ』でのフレーズもあったように思うのでピネーダ組曲みたいな感じなのかな。

カンテソロはティエント

そこから二曲目のタンゴへ。これがまた素晴らしかった。歌い手もグラナダの人だけど、グラナダにこだわりすぎないフラメンコのタンゴ。


洞窟のおばあちゃんたちが昔から踊り続けている、ティピカルな振りも彼女にかかれば新しく見えてくる。古いものと新しいものの混ざり具合がちょうどいい。


センスがいいのだ。
休憩を挟んだ第二部はカンテソロでのアレグリアス。
そしてソレア・ポル・ブレリア。




圧巻。形と間合いとこころざし。勢い。力、心。
最後、舞台からさっていくところをお裾分け。



最後はアンダルシア舞踊団の若手たちとアナ・モラーレスが舞台に上がってフィン・デ・フィエスタ。

最高のフラメンコ見せていただきました。幸せいっぱい胸いっぱいな夜でございました


2025年11月20日木曜日

カラカフェ en カフェカンタンテ

存在そのものがフラメンコ、という人たちがいる。マヌエラ・カラスコやアウロラ・バルガスがそう。何もしなくてもそこにいるだけでフラメンコを感じさせる。ギターのエミリオ・カラカフェもそんな一人。




その彼が、川沿いの店で10月11月の毎週火曜日にやっているカフェ・カンタンテというライブに出演。観てきました。

何にもしなくてもフラメンコな人が弾くギター。スペイン歌謡集(カルメン・デ・エスパーニャ、ビエンパガー、オホス・ベルデスなどスペイン人なら誰でも知ってるなつかしの歌謡曲)やったり、カマロンも歌ったドミニカの歌手フアン・ルイス・ゲラの『アモール・デ・コヌーコ』やら、その曲と同じアルバムの『ソイ・ヒターノ』を演奏したり、自由自在。なんでもフラメンコになってしまう。音と間合い。音が深いんだよ。
こないだダビ・デ・アラアルを静寂を音楽にすると言ったけど、この人もそうで、音出さずに回っているコンパスをビンビンに感じさせてくれる。
歌い手フアニ・デ・ラス・トレス・ミルが歌ったソレア・ポル・ブレリアとファンダンゴ、最後のブレリアもぜーんぶよかった。彼を最初に聴いたのは鈴木時丹君の公演の時で、その時もどこにこんな才能が眠ってたん?とびっくりしたのだけど、いやいや、マジでいい歌い手です。
ビデオでお裾分け。パーカッションはドクトル・ケリ。長年、カラカフェと一緒にアララという、ラス・トレス・ミルという、低所得者が多く、ヒターノさんもいっぱいな地区で、ドラッグなどに行かないようにとフラメンコのクラスをしている財団で教えている人。サウラ監『フラメンコ』やガトリフ『ベンゴ』にも出演してたベテラン。


なお、このライブ、来週はカニート、再来週はリカルド・モレーノが出演して、11月いっぱい続きます。その次は3月ごろにまた開始するかもとのこと。










 

2025年11月17日月曜日

アンダルシア青少年フラメンコ最終ガラ

左から賛助出演、ピアノのハビエル・セシリア、舞踊のクラウディア・ラ・デブラ、カンテのセリア・オルテガ、ギターのハビエル・アルコス、賛助出演のサルバドール・グティエレス

フラメンコの日、11月16日はセントラル劇場で、アンダルシア州が14歳から25歳までを対象にして、アンダルシア各県のペーニャと協力して4月から行っていたコンクールの優勝者ガラ公演が行われました。
最初はアルメリア出身、16歳のカンタオーラ、セリア・オルテガ。タランタとファンダンゴ。声が前にしっかり出ているし、音程もいい。16歳で?すごいなあ。
続くギタリストも16歳、マラガ県ミネルバのハビエル・アルコス、パコ・ハビエル・ヒメノ門下というけど、パコ・デ・ルシアをバリバリ弾くのがすごい。ミネーラとブレリア。パコ弾けるってだけでもちろんすごいんだけど、いくら上手でも間合いの感覚、音の重さなどパコのようには弾けないわけで、なら自分で考えて、パコの曲をその通りにきちんと綺麗に弾くというクラシックギター方式というかハビエル・コンデ方式にするか、フレーズを入れるにしても自分の曲を作っていくかどっちか選ぶべき、今のパッチワークのような演奏、しかもブレリアのコンパスは凸凹もあるっていうのじゃ難しい。ギターは大変。やっぱ歌伴奏、舞踊伴奏でキャリア積むべきかも。
その他楽器部門はピアノのハビエル・セシリア、セビージャ県の古都、オスーナ出身。クラシックな感じだけど、ちょっとしたデテールが悪くない。
最後のクラウディアは幼い時から活動していて現在、アンダルシア舞踊団にいる実力派。上手。でもここから一歩出るためには“なにか”が必要になるんだと思う。カンテを踊る意識を強めるとかかなあ。間合いとかでオレを引き出すような踊り見せてほしい。

最後は全員で少しやったのも良かった。

なお、準優勝というか、補欠1位に踊りは歌い手ロセンドの娘のローラ、ギターはボリータの息子のホセ・ケベドが入っていたというのを、ネットで見ました。この二人もいつか見てみたいな。あ、ホセはヘーレンのコンクールで伴奏してるの見たけど上手だったよ。




フラメンコ・エクスプエスト/アンドレス・マリン セビージャ アンダルシア現代美術センタセンター

11月16日は. 2010年11月16日、フラメンコがユネスコの世界無形文化遺産に制定されたのを記念して、フラメンコの日、ということになっております。
で、アンダルシア州は、各県の博物館でフラメンコのパフォーマンスを行ったというわけ。


セビージャでは、アンダルシア現代美術館野、昔教会だったスペースで、現在も美術作品が展示されているスペースを舞台に、アンドレス・マリンがサックスとコントラバスとの共演でのパフォーマンス。
©︎ Kyoko Shikaze 

サックスによるトッカータとフーガに始まり、ひょっとこの面にもどこかにた,へんてこなお面をつけ、黒い羽織を着て、頭には折り紙という不思議な姿で登場。サパテアードは確かにフラメンコ舞踊の技術だけど、オーソドックスなフラメンコから遠く旅しているような、現代美術館にふさわしい作品なのかも。

©︎ Kyoko Shikaze 


折り紙と羽織という日本的な要素は、最初に日本を訪れたフラメンコ舞踊家であるアルヘンティーナ、とそれをみて舞踊の道に進んだ大野一雄へのオマージュらしい。
現代美術家がブレーンでついているからってのもあるのかも。ひょっとこ風お面はペトリューシカに見えるようにも思うからニジンスキーも意識してる?考えすぎかな?


©︎ Kyoko Shikaze 
音楽は他にもファリャの恋は魔術師の火祭りの踊りになったり、ソロンゴになったり、それ亜風のメロディをほんの一節だけ奏でたり。

それでもとにかく、緊張感を持続させた、濃密な時間でありました。

いつも思うけど、アンドレスとイスラエルの振りに共通する、オーソドックスなフラメンコではない動きがいっぱいあるなあ、と。後ろに足蹴り上げるのとか。フラメンコンテンポラリーゆえ?

靴にマイク仕込み、大理石の床でサパテアード聞かせたのも珍しい試みですよね。

21世紀のフラメンコらしいといえばそうなのかも。

Junta de Andalucía

ちなみにこの日、アンダルシア8県のミュージアムで同様の公演が同じく正午から行われました。各地の出演者は以下の通り。
ウエルバ 県立ミュージアム ヘロ・ドミンゲス
セビージャ アンダルシア現代美術センター アンドレス・マリン
カディス カディス現代文化スペース アナ・モラーレス
コルドバ C3A  ラ・ベニデラ(アルベルト・エルナンデス、イレネ・テナ)
マラガ マラガ・ミュージアム ダビ・コリア
グラナダ 考古学博物館 レオノール・レアル
ハエン 県立ミュージアム バネサ・アイバル
アルメリア アンダルシア写真センター サラ・ヒメネス

パッとみてわかる通り、コンテンポラリーなフラメンコ舞踊の踊り手たちばかり。今年は枠を超えていく21世紀のフラメンコがテーマだったのかな、という感じ。

 

2025年11月16日日曜日

リン・コルテス アンダルシア・フラメンコ


 

セントラル劇場でのアンダルシア州のフラメンコ公演シリーズ、アンダルシア・フラメンコ。15日は今回のプログラムで一人だけ経路が違う、といってもいいリン・コルテス登場。

歌うけど歌い手ではなく歌手。ギターも弾くけどギタリストではなく弾き語り。リズム的にはブレリアやルンバもあるけど歌うのは基本カンシオン。いわゆるフラメンコ・ポップのアーティスト。コルドバ出身で、昔、ビセンテ・アミーゴやケコらとつるんでたイメージ。その後、ライムンド・アマドールのグループでコーラスとかしてた人。

基本はカンシオンで、その中にパコ・デ・ルシアの『二筋の川』に歌詞つけて歌ったり、ぺぺ・デ・ルシアの『アル・アルバ』歌ったり、ロルカの『血の婚礼』のセリフを歌ったりとかはあって、ぺぺの曲のちょっと前にブレリア、一節だけ歌ったのがフラメンコでした。

フラメン・ポップ、フラメンコ・シンガーソングライター界隈は最近どうなのかな、と思ってきてみたけど、うーん、80年代からそんなに変わっていないと言う感じ。ま、これは人によるのだろうけど。でも確実にこう言うタイプの音楽のファンというのは存在し、こういうのをフラメンコと思っている人もいるのだな、と。いや、フラメンコといえばフラメンコですよ、広い意味では、でも狭い意味では違うよな、と思いつつ。

パーカッションがビセンテとも共演してたセサル・モレノじゃないかと思うんだけど最後まで紹介しなかったので…

日曜夜は新人の公園に行ってきます。

2025年11月15日土曜日

アウロラ・バルガス/アンダルシア・フラメンコ

 セントラル劇場でアウロラ・バルガスのリサイタル。


ゲストもなしで彼女だけの公演ってのは初めて見るような。

アレグリアス、ソレア、タンゴ、シギリージャ、ブレリア。それだけ。

元々レパートリーが広い人ではないけれど、タンゴの前にティエント持ってくるかな、とか, ファンダンゴも歌うかな、とも思ったけど、そんなことはなく、シギリージャはあまり歌わない曲かもだけど、基本、得意曲だけで。

ギターはペルラ。バリバリ弾いてしっかりサポート。パルマはマヌエル・サラド、ハビ・ペーニャ、マヌエル・バレンシア。寝心地のいいベッドのようにコンパスを整える。

熱情そのままに叫ぶように歌い踊るアウロラ。立って、マイクなしで舞台の前に行き、照明からも外れ、観客の顔をみて歌いかけるアウロラ。その昔、踊り手としても活躍していただけに、ちょこっと踊るのもかっこいい。

彼女の一人舞台を観て聴いて思ったのは、アウロラは絶滅危惧種の天然フラメンカ、だということ。昭和のフラメンカ、というか。彼女を他の歌い手と同じように聴くことは不可能で、むしろ、マヌエラ・カラスコと同じ種類というか。フラメンカとして生まれ育ちフラメンコと生きてきた人だから動きもことばも佇まいも全てがフラメンコ。こっちはその熱を受け取り、うわあ、ってなるだけでいい、という感じというか。音程がとか表現がとか細かいことを言うのに意味がないと思わせるほどの圧倒的な本物フラメンコ感。ヒターナだろうがハポネサだろうが関係なく、こればっかりは持って生まれたものなのだなあ、と思うなど。

なんか元気もらいました、ありがとう