2022年7月17日日曜日

アントニオ・ナハーロ舞踊団『ケレンシア』

前スペイン国立バレエ団芸術監督アントニオ・ナハーロ。退任後は再び、自分の舞踊団での活動を再開。コロナ禍の2020年、グラナダの国際音楽舞踊祭で『アレント』を上演。国立時代に上演した作品を、生演奏をバックに、衣装も変え、新しい振り付けを加えるなどリフレッシュして上演しました。

そしてこの5月には待望の新作『ケレンシア』をマドリード郊外、ポスエロで初演。そして満を持して、マドリードの夏のフェスティバル、ベラーノス・デ・ビジャ、コンデ・ドゥーケの野外舞台で、エストレマドゥーラ交響楽団の生演奏で上演されたのであります。

国立やアンダルシア舞踊団のような、公立ではないカンパニーでは生オケとの共演は異例なこと。このフェスティバルで、スペイン舞踊が三日間連続の公演というのも珍しいですが、これもアントニオのキャリア、国立での実績も評価されてのことなのでしょう。

さて公演。

いやあ、もう、兎にも角にも美しい。これぞスペイン舞踊!これぞアントニオ・ナハーロ!
伝統に学び習い、新しいセンティード、感覚、方向性をプラスして、スペイン舞踊の魅力を十二分に堪能させてくれる、そんな作品でありました。
エスクエラ・ボレーラ、民族舞踊、エスティリサーダ、フラメンコ。スペイン舞踊のさまざまな魅力がカスタネットはもちろん、バレエシューズやフラメンコシューズはもちろん、カパ(マント)、帽子、マントンなど小物も駆使して見せてくれます。

オープニングの、さまざまな衣装(実はこの後のそれぞれの場面での衣装で、民族衣装風あり、フラメンコ風あり。デザインはヤイサ・ピニージョ)のダンサーたちが見せるポージングだけで涙が出るほど美しい! 
オープニング©︎Lukasz Michalak Veranos de la Villa



そこから女性4人の群舞となりそこに男性も加わり、と流れるように進んでいく。カスタネットに回転、跳躍。形の美しさがここでも印象的だ。そこからハープのつまびきに始まる黒いバタ・デ・コーラの女性のソロから男性とのデュオへ。

曲は全てオリジナルだが、フラメンコや民謡、ポピュラーソング、クラシックなどさまざまなものに想を得ているという感じ。セビジャーナスやサンブラ、ブレリア、グアヒーラ、シギリージャなどのイメージが見え隠れするかと思うとスペイン国民楽派を思わせる曲があったり、かと思うと映画音楽というかイージーリスニング風な曲があったり。

©︎Lukasz Michalak Veranos de la Villa



振付はこれまでのアントニオ作品にも登場したようなモチーフもあるけれど、伝統的な、でも今では忘れられたようなパソに新しいセンティード(方向性、感覚)を与えたという感じの曲があったり。群舞の動き、舞台の上での配置や動かし方、全員で同じ振りばかりではなく、異なった振りで見せたり、と振付の妙はさすが。コンテ風の動きもあったり。

男女5人ずつの群舞に続く男女のパレハによるエスクエラ・ボレーラが素晴らしかった。
©︎Cia AntonioNajarrro Jesús Vallinas


それこそ、ボレロのような曲で見せる妙技は特筆もの。個人的にはオープニングとこのナンバーが一番好きだったかも知れない。腕の描く曲線、首の位置。目線の位置に至るまで完璧。元国立バレエ団で、現在はマヌエル・リニャン『ビバ!』やタブラオなどでも活躍、小島章司舞踊団ヘレス公演や小松原庸子スペイン舞踊団公演にも出演経験のあるダニエル・ラモスとクリスティーナ・カソルラ。本当に素晴らしかったです。
後、女性たちのマントンでのグアヒーラあり、男性ソロ、帽子を使った男性群舞、女性ソロからカパも使った民族舞踊へ。その後、聖週間をモチーフにしたと思われる曲があり、アレグリアス風ピアノでのダニエルのコンテンポラリーなボレーラとでもいうべきソロへ。そしてフィナーレ。盛り上げ方もさすがです。


もちろんスタンディングオーベーション。
いやあ、ナハーロはまたしてもスペイン舞踊の魅力を、美しさを私たちにあらためて知らしめてくれた、という感じ。彼のスペイン舞踊愛が感じられる作品です。


プロモビデオも貼っておきますね。







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