2024年9月30日月曜日

マヌエル・バレンシア『ラス・トレス・オリージャス』

今年のビエナルで最も興味深く、素晴らしい公演が多数行われているエスパシオ・トゥリナのギター公演。
29日もヘレスのマヌエル・バレンシアが素晴らしい公演を見せてくれました。

ダビ・カルピオの一声、エル・チョロのサパテオ。
暗転して始まる、マヌエルのソロ。堂々たるソレア。続くタランタもダイナミックで素晴らしい。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

 マヌエルは椅子を上手に移し、サパテアードを演奏、途中でチョロも加わる。


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グラナイーナはダビと向かい合って立ったまま始まり、やがて座って歌い切り、そこからほぼシームレスで、カンティーニャ、そしてブレリア。声にリバーブかけすぎなのが気になるが、流石のヘレス、コンパスが気持ちいい。

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カホンのソロがあって、今度は強弱をうまく使ってオリジナリティに溢れたロンデーニャ。
普段、舞踊や歌の影に隠れがちなギタリストだけど、こんなにも素晴らしい曲をソロでも演奏してくれるのだとうれしくなる。

ダビが歌うマルティネーテからのシギリージャ、最初のソロでは伝統的なシギリージャをアレンジしたような感じで、モライートを思い出せるものの比較的音が多めだったのが、歌伴奏になると音の数が減り、ゆっくりとペースも落ちる感じ。音が止まってチョロの指鳴らしが始まり、舞踊伴奏の時は、今度はモダンな感じ。これまた最高にかっこいいファルセータなども聴かせてくれて大満足。

タイトルの三つの岸辺とは、ソロ、歌伴奏、舞踊伴奏のことなのだな、ジャンルが違うもので、演奏も変わるけど、一人のギタリストがさまざまな顔を見せながら、自分のフラメンコを描いていくんだな、と。

すみません、やっぱ、ヘレス最高です。あのコンパスの深み、音の厚みが、私にエネルギーをくれます。構成もよく考えられているのにもびっくりしました。これなら、ギターだけって飽きちゃいそう、って思う人にもおすすめできます。いやあ、本当に最高な公演でした。




2024年9月29日日曜日

メルセデス・デ・コルドバ『オルビダダス(ア・ラス・シン・ソンブレロ)』


メルセデス・デ・コルドバの新作はセントラル劇場で。
20世紀のスペイン文学/芸術を代表する、フラメンコでもお馴染みのロルカやルイス・セルヌーダ、ビセンテ・アレクサンドレらをさす27年世代というのがあるのだが、女性であるがゆえに、そのくくりから外され、一段下にみられていた同世代の女性たち、シンソンブレロたちを描き捧げた作品。
ワークインプログレスとしてヘレスで上演されたものがめちゃくちゃ良かったので、すごく期待していたのでありますが、うーん、期待が大きすぎたのかな。なんというか、個人的には消化不良の欲求不満、な状態。彼女が作品を通じて伝えようとしているのはわかる、でも何をどう伝えたいのかがわからない。

3人の女性ダンサーたちが、ベンチに座って足を洗う、ほんの山にもたれかかり山が崩れていく、などを繰り返し、バケツをひっくり返してかぶせられる。男たちにバケツをかぶせる。


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女を磨き上げる。

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きっと全部意味があるのだろうな、とは思うけど(女性は掃除していればいい、っていう当時の女性蔑視のこととか、かな、とか)はっきりわからず、モヤモヤ。
で、メルセデスはそれを見守るばかりで踊らない。

最後に踊ったシギリージャはとても良かったけど、話がわからないままでモヤモヤ。
いやね、話全然わかんなかったけどすごかった〜っていう作品もあるんだけど、今回はそうならなかったっていうことは、やっぱ、何かが足りないんだよね。

演出とか、構成とか、もだけど、圧倒的にバイレが足りない、もっとメルセデスが踊るところを見たい! そんな気になった夜でした。

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フアン・カルロス・ロメーロ『エル・ケ・バ・コンミーゴ・イ・ジョ』


ウエルバ出身のギタリスト、フアン・カルロスの新譜発表コンサート。
ソロでのタランタで始まり、

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ピアノ、バイオリン、チェロのトリオ・アルボスとの共演や
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マリナ・エレディアとのソレアがあったり
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同じウエルバ出身で先日のアルカンヘルの公演にも出演していたカルメン・モリーナとフアン・デ・マイレーナが歌うファンダンゴ・デ・ウエルバがあったり。もちろんタンゴやブレリアもマノロとも共演していたカホンのティノ・ディ・ジェラルドや、パルマのロス・メジがサポートするタンゴやブレリアもあって、1時間半、たっぷり聞かせてくれました。マイクに結んであるのは母上のスカーフとのことでした。


全体的に、メランコリックな雰囲気なのは、彼の師でもある巨匠マノロ・サンルーカルや母の死が影を落としているからなのでありましょう。
マノロ・サンルーカル門下で、ソレア以降はマイクもなくボソボソと小さな声で観客に語りかけるのがマノロみたいだな、と思ったり。曲のどこが、というわけではないのだけど、語り口みたいなものにマノロを感じたり。
演奏そのものよりも、コンセプトというか、スピリットみたいなものを受け継いでいるように思えたことでした。
あアンコールで演奏したタンギージョは楽しげでよかった。


2024年9月28日土曜日

ファルキート『レシタル・デ・バイレ』

ビエナル常連の一人、ファルキート。今回は、フアナ・ラ・デル・ピパ、レメディオス・アマジャ、エスペランサ・フェルナンデスをゲストに迎えての公演。レメディオスは出演しなかったが、病気だったのかな。
でもフアナとエスペランサの存在は鍵だったかも。
最近の彼の作品の中では一番良い構成だったように思う。

光の中に裸足で座っているファルキートにぺぺ・デ・プーラが歌いながら靴を差し出す。
この照明がとても綺麗だった。

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オレンジの光をバックにシギリージャを歌うエスペランサ!その歌をマルカールし、踊るファルキート。
いつでも歌に最大限の敬意を払い、レトラでは足を入れず、レマタールするだけ。
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エレキベースのソロ、フルートのデュオでのソレア・ポル・ブレリアが、フアナの歌へと続き、フアナの歌をゆっくりマルカールするファルキート。
アレグリアス。
このあたりで、ちょこっと見せる、目にも止まらぬような、ちょっとして足わざの呼吸が素晴らしく、オレ!
激しい熱血サパテアードと回転ではなく、こういう、ふとした、肩の力を抜いたちょっとした所にも彼の魅力はあるんだよね。
ハーモニカのソロからのレバンテ。
ファルーカ。
そしてタンゴス。

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フィン・デ・フィエスタでは全員登場で、お約束のブレリア。フアナの伝統のヘレスのブレリアに対し、エスペランサはローレ・イ・マヌエルのゆっくりブレリアで。
 

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観客は満足したようだけど、個人的にはいくつか気になることがあった。
一つは衣装腰高のズボンにシースルーなシャツ、ってなんか、意味あるんだろうか。個性的かもだけど、見た目のバランス的にはちょっと違和感。あと首を前に突き出すような感じがありません?スマホ首じゃないけど。昔はそんなことなかったと思うんだけど。あと、最後の方も、だけど、止まって拍手待ちをするところ。ホアキン・コルテスを思い出しちゃいました。また、ベースもハーモニカも下手というわけじゃないけど、ソロ長すぎました。結局、パコ・デ・ルシアとホアキン・コルテスが、大きい舞台を作っていく時の彼の指針?目安なのかもしれないな、とか思ったことでした。

なお、ギターのマヌエル・バレンシア、ペペ・デ・プーラ、イスマエル“ボラ”、マヌエル・デ・ニナの歌い手3人、パーカッションのパコ・ベガというミュージシャンたちも良かったです。イスマエルとマヌエルは子供の時から舞台で歌っているのをみてるから、近所のおばちゃん目線で立派になったわねえ、目線になっちゃう。息子などファミリーとの共演もいいけど、スタイリッシュにまとめたこういう作品の方がやっぱり好きかも。



ダビ・デ・アラアル『カジェホン・デル・アルテ』

 2000年生まれのダビ・デ・アラアル、2枚目のアルバム発表かねたリサイタル。

20代とは思えない落ち着きと独創性。ソロに、マヌエル・デ・トマサやサンドラ・カラスコなどの歌伴奏に、アントニオ・カナーレスの舞踊伴奏に、と活躍しているのも頷けるリサイタルでありました。

グラナイーナの独奏に始まり

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グループが入ってのハレオ。
ソレアでは、ゆっくりゆっくり、大切そうに弾いていく。音を出さずにコンパスが回っていくのを待つようなところもあって、いや、これは凄すぎる、と。
若いギタリストというと、力強い早弾きで音を詰め込んでいく、という印象があるのだけど、彼は真逆。人柄同様、落ち着いていて、少ない音で、間合いをとっての演奏。

ちょっとアラビアンなテイストもあったり、アラアルのアフィシオナード、ラファエルに捧げたレバンテでも、思い入れたっぷり、余白を残す演奏で聴かせる。

タンギージョのノリ、というかアクセントがちょっと重たい感じがあったけど、ブレリアにしても歌心いっぱい。

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シギリージャでは予告されていな買ったマヌエル・デ・トマサが、フラメンキシモに聴かせてくれた。

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次の公演があったので私はここまでしか聴けなかったのだけど、最後にサンドラも飛び入りしたとか。

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新譜のプロモーションビデオがあったので貼っときますね。




2024年9月27日金曜日

ラファエラ・カラスコ『クレアビバ』

 踊る!踊る!踊る!

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どこをどう切り取っても絵になる、動き、形の美しさ。
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音に、音楽に反応して踊る、靴音で音楽を生み出していく。
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ラファエラ・カラスコが7月、フランスのモン・デ・マルサンのフェスティバルで初演したのは彼女が一人で踊る作品。
アンダルシア舞踊団『イマヘネス』、退任後の『ナシーダ・ソンブラ』『アリアドナ』『ノクトゥルナ』のように、舞踊団として、カンパニーメンバーと共に踊ってきた彼女が、一人になって、自分の中心へと潜っていって作ったようなのがこの作品。

芸術をつかさどるギリシア神話の9人のミューズ(女神)たちのタイトルがつけられた9つの場面からなっていて、歴史をつかさどるクリオで、ソレア、天文のウラニアでは四角いフレームドラムでヘマ・カバジェーロが歌う歌う民謡といった具合に進んでいく。そういった流れは最近の彼女の作品の演出家、アルバロ・タトが手がけ、演出にはコンテンポラリーのダンサーで振付家のアントニオ・るすが加わっている。薄いグレーを基調にした舞台、白い床、グレーの短い幕が舞台を囲み、ミュージシャンたちの作る円陣の中で踊り始めるオープニングから、洗練された雰囲気。詩(朗読の録音)で踊り、ヘスス・トーレスが弾き始め、ホセ・ルイス・メディナが引き継いでいくファルーカは独唱歌のエラトー。


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アントニオ・カンポスの弾き語り、ミュージシャンたちによるブレリアは抒情詩をつかさどるエウテルペ、そしてラファエラが一人で歌って踊る叙事詩をつかさどる女神カリオペの場面。この歌がまたうまい。
悲劇の女神メルポメネは黒の衣装の上に座り、ヘマが歌うロマンセで。一瞬にして舞台が真っ白になり(照明の力!)、喜劇の女神タリアでカンティーニャス、黒だと思った衣装が裏はしろで白いバタ・デ・コーラとなる。これがまた素晴らしかった。伝統の形がより洗練されより完璧な形になっているという感じ。美しい形に涙まで出てくる。美しいというだけで感動するものなのでありまする。音楽と動き。間合い、呼吸。形。余白の美。これこそが踊りだと思う。


スタンディングオーベーションの後、ラフィがマイクを取り、今年91歳になるご母堂に捧げる涙ぐみながら話したのも良かったね。
ありがとう。素敵なものを見せてくれて。

最近気づいたのだけど、私の舞踊の指針になっているのは実はマティルデ・コラルのようだ。彼女の形、フィロソフィーなど、習ったわけでもないけど、インタビューしたり、踊りを見たりするうちに自分の中に刻み込まれているようだ。マティルデ門下のラフィのこともだから大好きなのかも。

なおこの公演、ヘレスのフェスティバルでも上演予定のようですよ、お楽しみに。





エバ・ジェルバブエナ『ソロ・ア・セビージャ』

舞台の上をくるくると歩き回るエバ。そこに一人、また一人とミュージシャンたちが現れる。
ソレア・ポル・ブレリア。肩に飾りのついた短い上着を合わせた黒い衣装。迫力。

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歌い手たちが無伴奏曲を歌い継ぐロンダ・デ・トナ。

バタ・デ・コーラのコーラが前についたような衣装で椅子に乗ったりするコンテンポラリーぽい場面や、オルーコとクリスティアン・ロサーノによる短いブレリア

エバの姪が歌うグラナイーナ。

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そしてタラント。歌うのは今年のウニオン優勝のヘスス・コルバチョ、2010年優勝のミゲル・オルテガの他に、セグンド・ファルコンと最近のエバ伴唱のレギュラーメンバー、トゥリー。重みのある表現。

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でも個人的に、最も良かったのはファビとマリナ・エレディア、二人のカンタオーラが歌ったタンゴの場面。ファビの最高にフラメンコな声と間合い、古風なテイストで踊るエバ。
いやあ、エバが女性の歌で踊るの見るの初めてのように思うけど、本当に良かったです。
正統派熱血フラメンカの力で彼女も熱くなるみたいな感じ。
 
Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

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歌い手たちによるファンダンゴ・デ・ウエルバ(ヘススがやっぱいい)を挟んで、バタ・デ・コーラにマントンでのアレグリアス。
登場の様子はマティルデ・コラルそのものでした,
マントンがいつも彼女が使っているものよりも薄手で大きめのものだったように思うけど変幻自在に操っているのはさすが。コーラがカンカン?中のフリルがたっぷりで後ろ向きでのマントン技の時三角のてっぺんが見えない感じにちょっと違和感あったけど。
 ビエナルのために準備したフラメンコな作品。個人的にはコンテな場面なくてもいいじゃん,と思ったけど、十八番のソレアを封印しながらも観客をわかせるエバはやっぱりすごいのでありました。フラメンコは物語や群舞,装置がなくとも大舞台をいっぱいにできるアルテなのであります。


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2024年9月25日水曜日

アレハンドロ・ウルタード、ラファエル・リケーニ『ネルハ

21時半アルカサルでの最終公演はセビージャを代表するギタリスト、リケーニの公演に若手アレハンドロが出演かと思ったら、別々でした。こういうパターン多いな、今回。

アレハンドロは、正確に見事に演奏したラモン・モントージャのロンデーニャの他、自作のファルーカとシギリージャ、ニーニョ・リカルドのヒタネリア・アラべスカと4曲を披露。

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ラファエルはソロでグラナイーナから演奏し始め、、ソレア、そしてソレア・ポル・ブレリアと続く。

 
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かつてのような神がかった演奏ではなくて、滑らかさも幾分失われているようでも、音が違う。スペイン民族楽派の作曲家たちを比較に出されるような、えもいわれぬ美しいメロディ、音楽世界はもちろん健在で、あとは聴き手の想像力で補っているようなところもあるかもしれない。

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その後、チェロとのデュオでナナなど、またサルバドール・グティエレス、マヌエル・デ・ルスとのトリオでロマンチックなテーマ『エサ・ノチェ』などを演奏。

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セビージャの夜にリケーニはよく会うなあ、と、美しい音を心に家路につきました。



セントラル劇場ではパウラ・コミトレの新作公演があったけど時間が重なり行けず残念至極。ヘレスでやるかな?

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アンダルシア舞踊団『ピネーダ』

 パトリシア・ゲレーロの振り付け、ダニ・デ・モロンの音楽が奇跡を成し遂げた。

久しぶりにフラメンコ舞踊の歴史に残る作品に出会えた。心からそう思う。ガデスの作品やホセ・グラネーロ『メデア』に肩を並べる作品に。

振付、音楽、衣装、装置、照明、すべてが素晴らしい。(音響のみちょっとボリュームが大きすぎて残念)群舞の舞台上での配置や、舞台への登場の仕方、去り方まで、全てに気を抜かず、細部に至るまで考えてしっかり作られている。ダンサーたち、ミュージシャンたちの実力もあって実現できたこと、だと思う。

大舞踊団によるドラマ性のあるフラメンコ舞踊作品は近年ごく稀にしか制作されない。最近ではスペイン国立バレエの、パトリシア・ゲレーロがゲストで主演した『ベジャ・オテロ』くらいだろうか。少人数のカンパニーなら他にもないではないけれど。舞踊をコンセプトで繋いでいく作品に比べて、それだけ難しいということもあるだろう。

『ピネーダ』ではしかも内容をセリフや歌詞にでなく、基本、踊りで伝えている。ロルカが書いたマリアーナ・ピネーダの物語を知らなくても、物語の大筋は理解できるだろう。

自由を求める民衆、体制側による抑圧、恋愛、争い、そして死。ある種、普遍的なテーマであります。


マリアーナ・ピネーダは19世紀の実在の人物で、自由主義者の逃亡を助け、自由主義者の旗を刺繍し、そのことを理由に死刑に処された女性。その話を元にロルカが書いた戯曲がこの作品のベースになっている。


開演5分前に舞台にはエプロンをつけた女性たち、カーネーションの花を作りながらマリアナ・ピネーダの歌を歌う。マイクはなく、歌詞ははっきりとは聞きとれなかったけど、現在に至るまで、グラナダの人々に歌い継がれるような女性だということを表している演出なのかと思ったのですが、オリジナルのロルカの戯曲にあるらしい。

ベージュ茶系の衣装の民衆の中に現れたマリアーナ。鮮やかな緑の衣装は彼女が庶民じゃなく上流の出自である象徴だろう。

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ベージュ/茶系の衣装の民衆の中に現れたマリアーナ。鮮やかな緑の衣装は彼女が庶民じゃなく上流の出自である象徴なのだろう。

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群舞の迫力! 
自由を希求する民衆。間口の広い,セビージャのオペラハウスたるマエストランサ劇場の広い舞台いっぱいを19世紀のグラナダの街にしてしまう。ミュージカル『レ・ミゼラブル』的なエネルギーが群舞にある。


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自由派を取り締まるのはアルフォンソ・ロサが踊るペドローサとその配下の男たち。
そのアルフォンソがのソロでのシギリージャ。恐ろしい存在であるペドローサをシリアスで重みのあるサパテアード、切れ味の良い踊りで見事に表現していた。

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エドゥアルド・レアルが踊る自由派のリーダーに恋をするマリアーナ。二人の美しいパ・ド・ドゥ。
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取り締まる側、ペドローサが敵対するマリアーナを懐柔しようとしての二人の激しいパ・ド・ドゥはタラントで。

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死の黒いベールに囲まれたマリアーナのソロ。


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最後は天使のような白い衣装で終わる。

舞踊、音楽はもちろんのこと、装置、衣装、照明が効果的に使われていて、物語をよりわかりやすくしているということは特記しておきたい。

いつも公演はメモとりながら見るのだけど、あまりの素晴らしさに手帳もしまい、見入ってしまった。なので、いろんなところが抜けていると思う。
とにかく引き込まれてしまう作品なのだ。

もともと、パトリシアは大好きな踊り手なのだけど、これまでの彼女の作品はあまり好きになれなかった。暗い物語が多く、彼女の個性を活かしきっているとは思えなかったのだ。今回も悲劇ではあるのだが、彼女の自由さ、大胆さが生かされ、また群舞の振り付けも素晴らしく、心に残る作品となった。
もう一回見たいなあ、来年のヘレスでやってくれるかな。



2024年9月23日月曜日

イスラエル・フェルナンデス『ポル・エル・アモール・アル・カンテ』

 今人気のカンタオール、イスラエル・フェルナンデスのコンサートは23時アラメーダ劇場。

伴奏はいつもの、ディエゴ・デル・モラオではなく、アントニオ・エル・レロヘロ。

マドリード近郊のアフィシオナードで、イスラエルがサラ・バラス舞踊団で踊っていた頃、コンクールに出場し、その時のオフィシャルギタリストの一人だったそうで、そこで知り合って、弾いてもらい優勝した、と本人がコンサート途中で語っていた。ニーニョ・リカルドやメルチョール・デ・マルチェーナ世代的な古風な演奏。

sp時代のものを含め古いフラメンコをよく聞いている、真のアフィシオナードであるイスラエルが、タイトル通り、カンテへの愛で、行う、現代的なものではなく、正統派古典の流れのフラメンコのリサイタルには、彼の助けが必要だったのだろう。

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マラゲーニャに始まり、ソレア、グアヒーラ、カンテ・デ・レバンテ、シギリージャ、ファンダンゴ。ギターソロでスペイン歌謡の名曲『オホス・ベルデ』というのもよき。
またセビージャで兵役についていたというアントニオの昔語りが止まらず、イスラエルとの掛け合いも楽しく、和やかな雰囲気。

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よく歌われるスタイルもあれば、あまり聞いたことのないものも。でもタイトル通り、歌を愛し大切にしているのがわかる丁寧な歌いっぷり。基本に忠実に歌っていくと自ずからその人の個性も出てくるものでございます。

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いつもよりも若い人が多かった観客も皆、満足して帰途に着いたことでしょう。

ホセ・マリア・ガジャルド&ミゲル・アンヘル・コルテス『アルベニス・フラメンコ』

 クラシックギタリストのホセ・マリア・ガジャルドとフラメンコのミゲル・アンヘル・コルテスのデュオによるコンサートはサラ・トゥリナで。

クラシックとフラメンコ、遠くて近い、近くて遠い、二つのジャンル。

スペインを代表する作曲家アルベニスの曲に、フラメンコのテイストも加味しつつデュオで奏でた10曲。

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ホセ・マリアは、パコ・デ・ルシアのアランフェス協奏曲日本公演の指揮者で、パコのアランフェスを手伝った人。ラファエル・リケーニとセビージャ組曲を録音し、去年までのビエナル開演前に流れるテーマの作曲家でもあるという、スペインのクラシックギタリストの中ではもっともフラメンコに近い人、かもしれない。ミゲル・アンヘルとの共演は12年前からだそう。

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前日のアルカンヘル公演にも出演していたミゲル・アンヘルは、他にもエスペランサ・フェルナンデスらの歌伴奏などで活躍している実力はフラメンコギタリスト。

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この二人が、アルベニスの曲にフラメンコの要素を加えて演奏していくもので、アルベニスのインスピレーションの源をに帰っていくようなイメージなのかな。

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アストゥリアスやセビージャ、コルドバといったスペイン舞踊でもお馴染みの、聞き慣れたアルベニスのメロディの中にあるフラメンコ的なものの要素がより強化されていくような、面白い試み。元の曲がどうだったか思い出せなくなっていく。

クラシックギターとフラメンコギターの音の違い、構え方の違い、演奏方法の違い、指の動きの違うなどを見比べるのも面白い。ギター演奏する人には当然のことなのかもだけど。
クラシックギターがメロディを演奏し、フラメンコが伴奏っていう感じのところが多かったけど時に逆になったりも。

これがきっかけでフラメンコの人がクラシック聞いたり、クラシックの人がフラメンコ聞いたり、で世界が広がるといいですね。