2024年10月4日金曜日

ハビエル・バロン&ロサリオ・トレド『カプリチョス』

 いやあ、楽しかった。

フラメンコは楽しむためにある、

というのは私の信条でもあるのだけど、でしょ、でしょ、そうだよね、と楽しませて頂きました。

ゴヤの連作版画『ロス・カプリチョス』に想を得た、遊び心いっぱいの作品『カプリチョス』は、唯一無比の踊り手らしい踊り手ハビエル・バロンと、グラシアといえばこの人!なロサリオ・トレド、二人が、ホセ・トーレス・ビセンテ・カルテットとカルテットと歌い手アントニオ・カンポの音楽で魅せる、粋と笑いに満ちた場面集、短編集みたいな作品。

幕が開くと古い屋敷の物置のような感じで、真ん中にソファ、下手にはミュージシャン、ミュージシャンの前や上手にはなんやらごちゃごちゃと置かれている。

ソファで眠るハビエル。そのソファの後ろから足が伸び、ナイフを持った腕が伸びてくるのは、眠りと悪夢と題された場面。扇を両手に持って鳥のように羽ばたくようにしたりして踊るロサリオ。

ハビエルが目覚め、ラジュエラ、日本のけんけんぱ、のように、地面に四角をかいた石蹴り遊びラジュエラの絵の上で踊ったかと思うと、

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

ロサリオは片足に囚人の重しのようにアイロンを結びつけシギリージャのリズムで踊る。

最初は、何が起こるんんだろう、と、ちょっと不安な気持ちで見ていたのが、この辺りから、声を出して笑うように。笑うだけじゃなく、オレ!とも頻繁につぶやく。

サルのマスクをつけてのデュオ、お猿さんマスクでのキスや、サルっぽい動作など、単純な笑いへの道ではあるのだけど、踊りがちゃんとしているので、自然に笑える。あざとくない。

そうなんですよ、ちゃんとベースがあるからいいの。これ初心者がやったらただ滑稽なだけだと思う。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

目隠しで結ばれた二人のセビジャーナス。ハビエルは普通に踊っているようなのだが、紐で結ばれているおかげで、翻弄されるロサリオ。いやいや面白い。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

鏡を見て鏡と踊るロサリオ。ガロティンのリズム。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

サパテアードでの二人の会話があって、

天国に行ったら、ブラッド・ピットがいるの、って妄想を語るロサリオ。ブラッド・ピットのお面をつけるハビエル。スカートを肩にかけ、羽根のようにして踊るロサリオ。

Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

ランプを持ってのハビエルのソロ。そこにロサリオも加わりデュオ。


Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

椅子を頭に乗っけて踊るハビ。ロマンセ、アルボレア、二人の結婚式。そしてアレグリアス。

1988年のビエナル、ヒラルディージョのコンクールで優勝した時踊ったアレグリアスを再現し、二人で踊るのだ。最初の回転からしてハビエルがすごくて興奮。これぞアレグリアス!という意味ではマリオ・マジャ、マティルデ・コラルとハビエルのこれが私にとっての三大アレグリアス。

時々に聞かせる、ロサリオの語りの面白さは天性のものだと思う。

高校時代、詩人ラファエル・アルベルティを見かけたんだけど、足を地面に擦り付けてたのよね、そう、カディカディのわんこの糞を踏んでたの。誰もがうんこを踏むことがあるってこと!

とか、

もう一度アルベルティ見かけたのバルでもう一人のおじさんといたの。でサインねだったら、もちろんだよ、、グアパっていってサインしてくれて星の絵を書いてくれた。横のおじさんにもサインしてもらいなさい、っていうから全然知らない人だったけどしてもらったら、ミゲル・セルバンテス・サベドラって。酔っ払いは信用してはいけない、ってこと!

とか、場内爆笑。

セビージャ演劇学校の校長も務めた人が演出を手がけていて、ゴヤの版画集にヒントを、というのは彼のアイデアだったらしいのだけど、ハビエルは元々、楽しい作品を、と思っていたらしく、それが見事に成功したわけですね。そういえば、彼の、数少ない楽しいフラメンコ舞踊作品の一つ、ロルカの幸せな少年時代を描いた『ディメ』の時も終演後みんな口角上がってニッコニコだったよなあ、とか思い出したことでした

で、また音楽がすごかったのであります。ギターとクラリネット、オーボエ、パーカッションというカルテット。曲、リズムと寸法はフラメンコのフォーマットなんだけど、調性やメロディはフラメンコじゃなく、クラシックみたいな感じ、というか。ホセ・トーレス、初めましてだったけど、どうも両方演奏する人で作曲家で先生でもあるらしい。いやいや面白い。

フラメンコ、まだまだたくさん可能性がありますね。

ビバ、ハビエル!ビバ、ロサリオ!

ととても幸せな気持ちで家路につくことができたのでありました。

ありがとう。


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