2025年10月18日土曜日

スペイン国立バレエ マドリード、テアトロ・レアル(王立劇場)公演『メデア』

日本にもファンの多いスペイン国立バレエ団の、マドリードのオペラハウスでの公演は、振付家ホセ・グラネーロへのオマージュとして、彼の作品『レジェンダ』、『クエントス・デ・グアダルキビル』『ボレロ』そして『メデア』という4作品とバレエ団メンバーによる男性ソロの新作小品というプログラム。



『ボレロ』や『メデア』は何度も日本で上演されているし、他の二つも初演時に見てるし、マドリーに行くまでもない、はずなのですが、今回出かけて行ったのは、エバ・ジェルバブエナがメデアを踊るということから。自分一人だけだったり、群舞がいたりと作品によって変わるもののの、98年にカンパニーを創立して以来、基本、自分の思うままに作品を作って踊ってきた彼女が、物語の要素のあるフラメンコ作品の古典とも言える、名振付家の作品の主役を踊るというのだ。これは行くしかないでしょう。

一部はアルベニスの曲にホセ・ルイス・グレコ(ホセ・グレコの息子、ローラ・グレコの兄)の曲を組み合わせ、男女のソリストと群舞で見せるスペイン舞踊作品。女性たちが奏でるカスタネットと男性の力強いサパテアード。男性衣装のたっぷりした袖が、動きをより美しく見せてくれるのに注目。

続くソロ作品、初日は監督補佐のミゲル・アンヘル・コルバチョの新作で、スルタン風?にも見える、長めのジャケットやベストやマントをスカートのようになびかせて、スカルラッティのピアノソナタの生演奏で踊るというもの。スカートを履かずともスカートのような効果を出す衣装、色々みんな工夫していますね。力強く美しい。なお偶数日はエドゥアルド・マルティネスが自身で振り付けた民族舞踊系の曲『アリエイロ』だったそうです。

『クエントス・デル・グアダルキビル』は、セビージャ出身の作曲家トゥリーナの曲に振り付けた男女のパドドゥ。南国風の雰囲気の中、久しぶりに帰ってきた恋人との逢瀬。94年の初演ではアントニオ・マルケスとローラ・グレコが踊ったパレハをカルロス・サンチェスとミリアム・メンデスが踊る(ダブルキャストで奇数日はデボラ・マルティネスとマティアス・ロペス)のだけど、ミリアムにローラが重なって見えてきて涙。マルケスもこういう、伊達男的な役柄を演じるのが本当に上手だったよなあ、など思い返すなど。

そしてボレロ。日本では必ずと言っていいほど上演されてきたグラネーロのボレロ。アールデコ風の装置と衣装。華やかでスペイン舞踊の魅力に溢れているいい作品、古典として次の世代へ伝えたい作品の一つだと思うのだけれど、スペインで上演されることはあまりなく、最後に上演されたのは90年代だったといいます。日本公演の時に、これは日本でしかやらないから装置が置いていこう、なんて冗談が飛び出るほどでありました。確かに振り付けは今の複雑で超テクニックが必要なものに比べると驚くほどシンプルかもしれないけど、サパテアード、回転、ポーズ、舞台の上のコンボジション、装置を使っての人の出入りなど本当によく考えられていて、最後の盛り上がりでスタンディングオーベーションとなったのも頷けます。

休憩を挟んでいよいよ『メデア』

なんの前知識がなくともストーリーがわかるという名作。これまでに見てきたメデア、アナ・ゴンサレスはひたむきで、ローラ・グレコは物狂い、マリベル・ガジャルドは母の愛、エステル・フラードは存在感、と言った具合に私にとってそれぞれのイメージがあるのですが、、エバのメデアは恨みのメデア。ぐじぐじ恨みつらみを募らせていく感じ。魔法のシーンの魔女っぽさもこの恨み晴らさじ、的な感じで、ローラの愛ゆえに狂ってブレーキ効かない感じとは別物のように見えました。

物語作品をあまり踊ってきていない、基本、自分の振り付けを踊る彼女に取ってはすごい勇気のいる挑戦だったと思うのです。マドリードの条例で暴力シーンがある作品に子役を出せず、子役を18歳の人が務めることとなり、ただでさえ小柄なエバにとってはマイナスな状況もあったのですが、演じ切った彼女に拍手。

イアソンのフランシスコ・ベラスコやクレオンテ(花嫁の父)のクリージョも重厚感がでて、よりリアル。花嫁のエステラ・アロンソも本当にかれんで適役。



若者たちにチンピラ感が出ないとか、不満がないわけじゃなかったけど、名作は名作。王立劇場公演は日曜までだけど、7月にはサルスエラ劇場でメデアは再演されるそう。24時間経った今でもマノロ・サンルーカルのドラマチックな音楽がずっと頭の中で響いているのでありました。

ギターもオケも生演奏。オケはボレロもちょっと重いな、と思うところもあったし、メデアでも間合いがあれれ、ってとこもあったけど(いつも録音のを聴き慣れているせいかも)、音の分厚さはさすが。ですね。


スペイン国立バレエ団はこういった古典的な作品から先日の『アファナドール』のような超現代的な作品まで幅広いレパートリーを持っているのが魅力でありますね。そう、パリのオペラ座バレエや英国ロイヤル・バレエ団などと同じように。




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