いやー楽しゅうございました。
昨晩はともだちとヘレスはサンティアゴ街のペーニャ、ルイス・デ・ラ・ピカ主催の
フラメンコ公演シリーズ「ノーチェス・デ・コリント」のエンリケ・ソトのリサイタルへと
でかけてきたのですが、いやーこれがほんと文句なく楽しかったんですよ、これが。
開演予定は22時半ときいていたのでそれにあわせてでかけたのですが
22時過ぎでもまだ会場はがらーん。。。あ、この会場というのが、サンティアゴ街のまんなかにある元小学校。その校庭に仮設舞台がもうけられて、椅子が並んでいるわけですね。
ん?と思いつつもバルコーナーへ。
はい。夏の夜のフラメンコはやっぱり一杯やらないと。
ビール1杯1ユーロとめちゃ良心的なお値段。
おつまみは魚の唐揚げ。イカとアドボ(鮫とか白身の魚をころころっと切ってお酢で下味をつけあげたもの。アンダルシアの揚げ魚やサン、フレイドゥリアの定番。おいしいよん。いわしでやってもうまいです。)がたっぷり盛り合わせられて6ユーロ。うまいっ。
ふとみると、カウンターの中にヘレスの歌い手、エル・キニ。モンタイート(小さめのパンのサンドイッチ)をほおばっている。
え?なに、今日はカマレーロ(ウエイター)なの?、ときくと笑顔で
「いや歌うんだよ」
リサイタルの前にペーニャのメンバーが歌うんだそうだ。
ペーニャのメンバーというと普通はアマチュアが多いのだがこのペーニャのメンバーは
アルティスタの家族でこどものころからフラメンコに親しんだ者ばかりで、
アルティスタとして活躍している人が多いのですね。
サンティアゴ街の若手フラメンコ・アルティスタのほとんどがこのペーニャの会員といってもいいくらい。うーん期待倍増。
魚をつまみにビールを飲んでいるとちらほら知った顔がやってくる。
昔、長嶺ヤス子さんの公演で日本に行ったこともあるという歌い手のペペ・デ・ラ・ホアキーナ。孫娘に鼻の下をのばしている。
白いシャツに黒いネクタイできめているのはパーカッショニストのルイス・カラスコ。
ギタリスト、ペリキンことニーニョ・ヘロの末っ子で私はこどもの頃から知っている。フェリアでカセータの仕事のあるペリキンに代わって遊園地へ連れて行ったこともあるという。。。今やレメディオス・アマジャの娘サマラと結婚して一児の父。私が年をとるわけだ。。。
バルのキッチンから顔をだしたのはその兄ノノ。ひょろっと背の高い彼もルイス同様、ペーニャのメンバー。歌も歌うしギターも弾くが今日はキッチンで活躍中。
ひょっこりやってきたのは、彼らよりも少し若いマルーコ。ふだんは地元のタブラオで歌う歌い手だが、今日は休みとか。
彼の父はパルメーロのボー。つまりソルデーラの孫、今夜の主役エンリケの甥である。
ついでにいえば母の兄がディエゴ・カラスコという、血統書付きのフラメンコだ。
映画「フラメンコ」のファーストシーンにもちらっと登場している。あのときは5歳くらいだったのかな。
サンティアゴのバル、アルコ・デ・サンティアゴの主人アグスティンも白地に刺繍のシャツでばっちり決めている。
「いや、司会をしなくちゃ、なんだよ」
23時。ようやく人が集まって来たので席を探す。そこでラ・ベンタに遭遇。その昔、「メ・ドゥエレ・コラソン・デ・ケレール・タント」というルンバでヒットを飛ばした歌い手。
昔彼女とレメディオス・アマジャとエンリケ・ソトと、スペイン版お盆みたいな死者の日になーんにもない野原でフィエスタしたよねえ、と懐かしく話す。
その隣には彼女の妹でディエゴ・カラスコの奥さん、マヌエラ。
ふとみるとむこうにはモライートの奥さんフアナの顔も。
フラメンコの世界はまだまだ男尊女卑、ではないけれど、男性が圧倒的に多い。
で、たいていは奥さんは家で留守番というか家事に忙しくあま出歩かない、というのが定番なんだけど、こういう地域の催しには皆おしゃれをしてやってくるんですね。
ヒターナたちのおしゃれをみているだけで楽しい。
一言でいえば派手、なんです。それもにぎやかな感じ。
ミニマリズムとか、シックとかでは決してない華やかさ。
原色が褐色の肌によく似合う、っていうのもあるかもしれない。
体型に関係なく身体のラインを強調した、いわゆるイケイケのボディコン(死語)が多いのは女性らしさを強調するためかな。そ、体型にNGはない。太っていても魅力的なグアパが多いのがすばらしい。。。とスペインで20キロ太った私は感じ入るのでありました。
そのヒターナたちはたいてい、こども連れ、孫連れでやってきている、というのも楽しい。
地域のお祭り、的感覚なんですね。お子たちもそれぞれにおしゃれ。
細かい花柄のワンピースにサテンのリボン、50年代?っていうようなクラシックなファッションの子もいれば、イケイケのおかーさん好みか、太いベルトでばっちり決めたラメの入ったズックの女の子も。男の子たちも髪の毛をぴんぴん立てた今風の子もいれば、七三になでつけた髪にポロシャツという優等生風ファッションも。
そのこどもたちが会場中を走り回っている。なんとも幸福な風景だ。
ヒターノたちにまじって、フラメンコ留学生らしき外国人もちらほら。
またフラメンコ好きなヒターノでないスペイン人たちも。
この場では、人種も、世代も、男女の差もなーんにも関係ない。
ただ、夏の一夜をフラメンコで楽しく過ごしたいだけ。
これってひょっとするとパライソ、極楽かもしれない。
いや、フラメンコ好きにとっては天国に違いない。
23時半。アグスティンの紹介でようやくはじまったコンサート。
さっきバルにいたエル・キニのブレリアが幕開け。
舞台にずらっと並んだ中にはキニやマルーコ、その父ボーのように昔からの知り合いもいれば、顔だけ知ってる人も、知らない顔も。が、そのパルマは天下無敵。
ヘレスのパルマは歩くように自然なリズム。緊張感に満ちたマドリードのそれとは一線を画す。ヘレスのパルメーロはたいてい、膝を軽く曲げて、足でアクセントをとりながらパルマをたたく。実際に足踏みするように両足でリズムをとることもある。呼吸のように、超ナチュラルなリズムはこうして生み出されているのだ。本人たちにはその自覚はないかもだけど。
エル・キニが歌って踊ってきめるとお次はマルーコ。ケタマ風のタンゴをやさしく歌う。
続いてマヌエル・デ・チョチェーテ。こどもの頃テレビのスター誕生的番組に出演していた彼も今や少年。まだ若いのにヘレスのおやじ風のパソできめるのがまたうれしい。
バルでときたまみかける青年が、なんともいえないフラメンコなしゃがれ声でブレリアをちょっときめれば、黄色のぴたっとしたジーンズに黒シャツの胸を大きくはだけ、髪はぴんぴんに立てた一目をひく出で立ちの青年がブレリアをうたいはじめる。おどけた歌詞に場内がわく。あとできいたらフェルナンド・デ・ラ・モレーナの息子、フアンとのこと。なるほど、父の得意の歌詞もでてくるわけだ。
フィン・デ・フィエスタはボーとパーカッション奏者でもあるフアニート・グランデがみごとなパタイータ、一振りを決める。男ばかりで色気はないが、それもまた楽しい。
いつのまにかパティオは満員。そんな中でもあちこち知った顔がみえる。
休憩時間にはミゲル・ポベーダのパルメーロでホアキン・グリロの弟、カルロス・グリロとルイス・カンタローテ、アントニオ・ガデス舞踊団の歌い手フアニャーレス、エンリケ・ソトのすぐ下の弟でマドリード在住の歌い手ビセンテ・ソト、歌い手カプージョのギタリストで、さっき会ったルイス・カラスコやノノの兄、マヌエル・ヘロなどに挨拶しながらバル・コーナーでビール。一息つくといよいよエンリケのリサイタルだ。(この項続く)