2023年3月25日土曜日

永遠のガデス、『炎』セビージャ公演

ガデス以上にガデス。

ガデスが、そのスタイルが、エッセンスが、信じられないくらいの生命力を感じさせるほど、確かに息づいているのだ。
生前、スペインでは公演されなかった『炎』は、ガデスだけでなく、その遺志をつぐガデス財団、その芸術監督、ステラ・アラウソの手によって、ガデス以上にガデスのスタイル、エッセンスを受け継ぎ、感じさせる作品になったのだと思う。
それは振り付けだけでない。舞台上の構成、配置、闇を上手に使い立体的に見せる照明にもガデスらしさが溢れているし、踊り手だけでなくギタリストや歌い手も踊り、踊り手も歌い、体型や年齢も様々というのはガデスの信条によるものにほかならない。


 ガデスが踊った役カルメロを踊るアルバロ・マドリードはガデスじゃない。でも彼のスタイルを確かに受け継いでいる。ガデスの真似ではなく、そのスタイルを継承しているのだ。大きく広げた腕。すっと引いた足。決してそりかえることなく常にまっすぐな姿勢。
主役カンデーラを踊るエスメラルダ・マンサーナは若く美人で華やかだけど、その形やブラソの動かし方には確かにクリスティーナ・オヨスやステラ・アラウソのそれと重なっていく。ただの綺麗なお人形さんでは決してなく、多少の弱さがあったとしても強い意志を持った女性がそこにいる。
亡霊のフアン・ペドロ・デルガードの存在感。いや、亡霊に存在感というのもどうかと思うけど、説得力がある。美しい動き。形。カンデーラが惹かれてしまうのも無理ない。

オリジナルだと他の美女をあてがって亡霊は去って行くのだけど(ガデスとオヨスによるサウラ監督の映画版でもそうでした)、ここでは全員の団結で亡霊は消え、二人の結婚式になるというアレンジ。これもフエンテオベフーナを思い出させますな。

タンゴ、ブレリア、セビジャーナス、ビジャンシーコ、アルボレア…クリスマスや巡礼、フェリアに結婚式といった行事/イベントを織り込んだフラメンコの故郷、アンダルシアへのオマージュ的な作品。オーケストラも初演のマドリードのものとは比べ物にならないほど上手で、ちゃんとリズムをキープして行くから踊りとも合う。

そしてステラがエチセーラ、魔術師を踊っているのだが、これはガデスのオリジナル版では歌い手ラ・ブロンセの役だった。踊り手の彼女が演じることで美しいブラソで魔法を感じさせる存在に。


いやあ、よかったです。スペイン国立バレエがその作品を上演したマリオ・マジャもそうだけど、自分のスタイルを作った人は、亡くなった後でも、そのアルテはさまざまな形で生き続けるのだなあ、と。

これまで以上に、ガデスの宇宙を感じさせてくれた公演でありました。




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