10月に来日し、一ヶ月にわたり、恵比寿のサラ・アンダルーサを舞台に、数多くの踊り手たちと共演するとともに、カンテリサイタルも数回開催し好評を博したエンリケ・エル・エストレメーニョ。その名の通りエストレマドゥーラ出身で長らくセビージャを本拠に、ソロアルバムも複数リリースするなど活躍しているベテラン。特に舞踊伴唱には定評があり、特にマヌエラ・カラスコの舞台には欠かせない存在。深みと熱。幅広い知識とレパートリー。舞台での存在感。何を撮っても一流そのもの。現在も第一線で活躍する彼が日本に来て、多くの日本人アーティストと共演したのは、イベリアの蒲谷社長との長年の信頼関係あってこそのことなのだろう。
何人かのアーテイストが並ぶ公演などもあったようですが、私が見ることができたのはAMIとの共演。私がスペインに渡ったのは87年9月なのでありますが、そのすぐ
後にスペインへ留学してきた一人がAMI。私は踊るわけじゃないけれど、同時期にスペインで出会った踊り手やギタリスト達には同期意識みたいな感じがちょっとある。長い間会わなくても、その空白を感じさせない存在というか。長くセビージャに住んでいたAMIに対しても勝手にそんな気持ちを抱いている。セビージャを離れてもうかなり立つはずなのだけど、今も彼女の踊りにはセビージャが香る。
オープニングはタラント。そのイントロダクションのエンリケがもうすでに素晴らしく、うるっとくる。AMIは美しい。姿かたちだけでなく、動きが美しい。止まったかたちが綺麗。表情がいい。ふとした仕草が美しい。彼女の踊りには品格がある。中でもマノ、手の美しさは特筆もの。こんなに美しく手を動かす人は他に知らない。腕や手の優雅で雄弁なこと。もし、あなたが踊り手で、手の動きを強化したいと思っているなら必見。踊り手は足を重視しがちだけれど、踊らない一般の観客は、足よりも上体や腕の動きや姿勢、佇まいの美しさなどに感動したりするものなのでありますよ。
その後、男装でのアレグリアスでは真面目で厳格に見えるけど実はすごくお茶目で可愛いところがあるAMIちゃんらしさがよく出ていたと思う。なんで男装、とも思ったけれど、一人で3曲踊ることから、ワンパターンにならないよう変化をつけたかったのかな。長めのジャケット、最近男性舞踊家でも着る人がいるけど、ちょっとスカートを持つみたいな使い方もできるし、優れものでございますね。
最後はソレア。その前のカンテソロがアバンドラオで、短かったせいもあり、踊り手が舞台袖にくる前に歌い始めるというアクシデント?もあったけど、美と品格の百戦錬磨、ベテランはしっかり踊り抜いたのでありました。ソレアはエンリケのおはこだし、本人的にはもっとこうしたかったとか、きっとあったのだろうけど。
見栄を切るかのような客席をパッと見るその見方など、細部に時々登場するミラグロス・メンヒバルの面影などもあるけれど、それも既にAMIの個性だなあ、と思ったことでした。
次はまた、あの絶品バタも見せてね。
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