2020年9月18日金曜日

アントニオ・カナーレス『トレロ』『セビージャ・ア・コンパス』

 

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro


アントニオ・カナーレスは唯一無二の存在。本当にすごいと思う。でもだからこそ、今、ちょっと難しい状態にいるのかもしれない。

今回の公演は一部『トレロ』、二部が『セビージャ・ア・コンパス』という構成。通常なら一部と二部の間に休憩が入って、バルなど行って一服したりするんだろうけど、時世柄休憩なし。舞台転換の間、客席は暗いままで待つという具合。

『トレロ』はカナーレスの出世作。初演は1993年カナダ、モントリオール。その後、スペイン全国を周り、99年には日本公演も実現しているという名作。助手の手伝いで衣装をつけ、祈りを捧げ、母や妻も祈る中、闘牛場に出て、という闘牛士の1日を描いた作品で、非常にわかりやすい構成。初演の頃はカナーレスが闘牛士、牛がアンヘル・ロハスでした。

今回は闘牛士をポル・バケーロ、牛をモニカ・フェルナンデスという、99年の日本公演にも参加していた、いわばカナーレス舞踊団の生え抜きの二人が踊り、この二人よりも古くから舞踊団にいて現在は故郷バルセロナで活躍するナチョ・ブランコ、カナーレス舞踊団『シンデレラ』で主役を踊った後、国立バレエのソリストとしても活躍したクリスティーナ・ゴメスらも参加。と、私のような昔からカナーレスを見続けてきた者にはうれしくなるような懐かしい顔とともに、コルドバ出身のダニエル・ナバロ、小松原舞踊団公演にも参加したクリスティアン・ペレス、小島舞踊団『セレスティーナ』に出演していたパブロ・フライレと顔なじみのアーティストたち、ナチョの奥さんでバルセロナで活躍するエリ・アジャラも参加。バックも、初演からのチェロ・パントーハをはじめ、99年に日本公演に参加していたパーカッションのルキ・ロサーダ、ギターのイバン・ロサーダ、フルートのエロイ・エレディアに加え、後期のカナーレス舞踊団で活躍したダビ・セレドゥエラら素晴らしいメンバー。

もう見ている間、ずっと郷愁にひたっておりました。みていると、昔のキャストがダブってくるんですよ。闘牛士のポルは、カナーレスの胴体の使い方の癖みたいなものまで彷彿とさせ、見事に踊りこなしていました。

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
黒いドレスが母役エリ、白が妻役クリスティーナ


闘牛士に対する牛を踊ったモニカ。普段の可愛いお母さんのイメージとは180度違った、怒りの雄牛を全身全霊で踊りました。


牛を踊ったモニカ
Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro

本当の闘牛同様、やりでつかれ、銛を打たれ、と進んでいきます。

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
左がダニ・ナバロ、右はナチョ
セルバンテス原作の名作『リンコネテ・イ・コルタディージョ』での名コンビでもあります。

形からして美しい、真実の瞬間。

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro


Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
闘牛士への喝采で終わるトレロの終幕


原作のままでの再演。名作なので、キャスト変わっても再演は意味があると思います。ただ、当時はモダンに見えた、コンテンポラリーダンス的な要素が今となってはちょっと古臭く見えたり、音楽が音響的に?整理されてない部分があったり、もありました。
ただこれはこのメンバーでの初演。これが各地を回って公演重ねていけばもっともっと良くなることでしょう。

第二部は、ベルディアーレスの楽団が歌うアンダルシア州歌に始まります。録音ですが。
ガジが歌うトリージャ。

そしてカナーレスによるアントニオ・マチャードの詩の朗読。
「私の子供時代はセビージャのパティオの思い出」
帽子をかぶっているのもマチャードのイメージなのかな?
Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
存在感
マチャードの詩を朗唱し、フィエスタで踊る。パブロがダニが踊り、カナーレスも踊る。


Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
体重だけじゃない重み。風格。

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
フィエスタの雰囲気でてますね



Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
カルメンはアレグリアス
でも、バタは下手。よくまあこのバタ捌きでセビージャで踊ろうとしたよね。
途中でバタを脱ぎ捨てカスタネット。
何がなんだか。

でもカナーレスのソレア。
昔みたいには踊れないから、振りは違うのだけど、昔と同じファルセータ。懐かしすぎる。

Archivo fotográfico Bienal de Flamenco. Fotógrafa: Claudia Ruiz Caro
カナーレスのソレア!

現在58歳。12月59歳。まだ老け込む年ではないのだけど、体型が変わり、体力も変わる。昔みたいには踊れない。ちょっとの踊りで観客を唸らせる力は健在だけど、一人で作品を背負うことはもうできない。なので、昔の名前、作品を復活させ、ゲストを招いて、自分の踊る時間を最低限にする。

これも一つのプラン。

カナーレス見たいけど、残念ながら彼だけじゃもう持たない。プロデュースに専念するわけではなく、こういう形になるのは仕方ないのかな。でも、うーん、なんかちょっと釈然としない感もある、正直言って。

今回の舞踊団メンバーもそれぞれ素晴らしい踊り手なのだけど。

うーん。アントニオのプロデュースによる、若手の舞台とかもいいんだと思うけど。で、最後、フィンデフィエスタで出てくるだけ、とか。最後に一曲踊るだけ、とか。

難しいなあ。


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