5月18日、全日本フラメンココンクールのカンテ部門の東京での予選が行われました。
これが日本で初めてのカンテコンクールです。
フラメンコ舞踊やギターのコンクールはこれまでにも様々な形で開催されてきました。現在も開催されているものにはマルワ財団のコンクールがありますね。が、カンテのコンクールはこれが最初です。(フラメンコ協会の新人公演は賞は出ますが、コンクールではない、とうたっています)
舞踊コンクールとしてはじまった全日本フラメンココンクールの主催者にカンテのコンクールを、と熱望する声が届き、それに応えたということですが、東京予選の参加者は舞踊部門と同じく21人。それだけまたれたコンクールなのでしょう。
舞踊予選の時も書きましたが、コンクールはフラメンコの道程における一つの通過点にすぎません。結果はあくまでもその時のその人のパフォーマンスをその時の審査員がどう評価したか、ということであって絶対的なものではありません。でも、コンクールに向けて努力したことや、コンクールで、今回は観客はいなかったものの、審査員の前で緊張の中、歌う、ということは、これからのその人のフラメンコ人生にとってきっとプラスになることと思います。
こういう風に言うと、失礼に聞こえるかもしれませんが、想像以上にレベルの高いものでした。とりあえずの形が整っている人が多く、細かい音程やコンパスは外す方もいらっしゃいましたが、それはスペインのペーニャなどでのコンクールでも往々起こりうることです。反対に、発音や歌の内容を把握しているかに疑問が残る方が多かったように思います。耳がいい方ならスペイン語が分からなくてもフラメンコが歌えるということはありうるとは思いますが、歌うためにはスペイン語を勉強するべきではないかと思います。
今回の予選参加者について思ったことなど、以下に記します。あくまでも志風個人の意見感想であり、他の審査員や主催者とはまったく関係がありません。
1。近藤裕美子 シギリージャ/4分という時間制限のせいか、サリーダなしのシギリージャ。が十分に準備できてはなかったようだ。発声、イントネーションに難あり。鼻の前あたりに歌っているような感じ。モノマネしているような嘘っぽい感じがするのはなぜだろう。
2。松岡恭子 ティエント/緊張しているのか声が前に出てこない。スペイン語がカタカナぽく、r、p、二重子音、アンダルシア訛りのdの欠落なども、dは意識上にないと不自然に聞こえるのではないだろうか。
3。川島桂子 ソレア 決勝進出/歌の理解が深く、今自分が何を歌っているのか、どういう風に歌うべきか、などすべてわかった上での歌。真似ではなく自分の表現になっている。強弱をうまく使い、ダイナミックさも出している。
4。土井康子 ファンダンゴ 決勝進出/椅子に手をかけたって歌うパケーラ風。最初の歌い出しのメロディがはっきりせずご詠歌みたいになってしまったのは曲選びの問題か。時に音程外すところがあるものの声は前によく出ている。二つ目の歌から余裕、調子が出てきたようだ。最後、歌詞忘れて歌い直したのは残念。
5。中山えみ子 カンティーニャス/声量がない。音楽的な意味での音程、リズムはいいのかもだが、フラメンコのコンパスの躍動感がない。発音、特に rの巻き舌、発声に努力の余地あり。
6。磯部博子 ソレア/音程、発音ともに難あり。何を歌っているのか理解していないような感じ。両手を胸のあたりで忙しく動かしているのは自信のなさからだろうか。全体的に無理しているような感じ。
7。園田礼子 ソレア/カタカナで歌うフラメンコ。この人が考えるフラメンコを演じているのだろうが、カリカチュアにしか見えない。音程も発音もだが、古い録音をたくさん聴いて真似するなどするといいかもしれない。
8。斉藤江美 カディスのタンギージョ/低い声でゆっくり目に歌う。声が前に出ているのがいい。お祭りの曲だし、もう少し楽しそうでもいいように思う。声質から、ティエントなどの方が合うかも?などとも思わされた。
9。松橋早苗 カーニャ 決勝進出/カンテソロでのカーニャとは思えないスピード。よく分からない音を挟んだり、ラメントが階段みたいな感じだったり、カーニャの持つしっとりした感じとかが感じられなかった。歌い上げるのでなく、叫ぶみたいな感じにも抵抗がある。
10。熊谷善博 ソレア 決勝進出/サリーダからアフィシオンを感じさせる。声の調節でのニュアンスづけも良い。
11。井上泉 ミラブラー 決勝進出/声が前に出ているし、うまい方なのだが、いかんせん、平版。もっとマティサール、ニュアンスをつけて、ダイナミックに聞かせてほしい。
12。三枝雄輔 アレグリアス 決勝進出/サリーダなしで目一杯歌を詰め込んだのも時間制限のせいだろうか。リズムもいいし、曲も歌詞もよく理解して歌っているので、もう少し余白があったほうが、より聴かせる歌になったのではないだろうか。
13。許有廷 マラゲーニャ 決勝進出/声も出ているし、うまいのだが、こなしているという感じで、どこか表面的というか、これが好きでこう歌いたいと思っているみたいなものが見えてこない。
14。遠藤郷子 ソレア 決勝進出/声に力、説得力があり、曲全体も見えているという感じ。ダイナミックに歌っている。
15。中里眞央 シギリージャ 決勝進出/声が前に出ているのはいいのだが、ちょっと無理しているというか、吐くような発声と投げつけるような歌い方がちょっときになる。
16。川村麻利子 アレグリアス/パルマで始まる。カタカナぽくちょっとカクカクしている。1番目と2番目のレトラで声が違うのはなぜ?無理な発声なのかな?
17。金田多津子 シギリージャ/声がこもっている。それもあるのか、無理に力を入れて音程をはずす。力入れすぎているのでは?
18。上田真由美 アレグリアス/誰かの真似をしているのか、芝居掛かった感じ。音程はそれほど悪くないのだが、ベタベタしたパルマがちょっときになる。パルマが苦手なら、自分の太ももを叩句などして拍子をとったほうがいいかと。
19斉藤克己 タンギージョ 決勝進出/曲をよく理解しており、歌詞の意味も方向性もちゃんとわかって歌っているからよく伝わる。グラシアでみせた。
20。永積祐二郎 マラゲーニャ/丹念にメロディを追っていこうとしているのだが、発声に問題あり、またカタカナぽく聞こえる。どんな歌をどんな風に歌いたいのか、ということと同じように自分の声や歌い方はどんな曲に向いているのかを知ることも重要なのでは?と思わされた。
21。彦坂百合 アレグリアス/多分ギター伴奏をよく聞きすぎるのだろう、音が遅れる。声は出ているし、こう歌いたいという気持ちがあってその意図自体は悪くないので上達する可能性大。
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