2020年8月31日月曜日

ビエナル8月の公演総括

8月も終わりということで、ビエナル夏の陣の全体的な感想をば。

この8月の週末にサン・ヘロニモ修道院庭園で行われた公演は、9月5日からのものとは別に、伝統一辺倒ではないフラメンコを集めたものでした。

フラメンコには日本の能や歌舞伎ほど長い歴史はありません。およそ200年あまりで、ジャズよりちょっと古く、クラシックバレエよりも新しい。写真や鉄道と同じくらい、という感じです。いわばモダンアート。近代のものなのです。そして時代の空気を呼吸して姿も変わってきました。

パコ・デ ・ルシアによって見出され、フラメンコに加わったペルー生まれの楽器カホンは今や、フラメンコ以外でも使われるくらいポピュラーになったし、ピアノやバイオリン、フルート、サックス…ギター以外のいろんな楽器で演奏されることも、もう珍しくありません。

でね、コンピューターももうその一つになっているんだなあ、と思ったことであります。

アルトマティコロス・ボルブレがそう。

コンピューターを使った音作り、ビデオとの融合。そんなものも既にフラメンコの表現の一つなのですね。

伝統的、古典的なものも、新しいものもどちらでも、いいものはいいし、よくないものはよくない。新しい試みをするから悪いというわけではなく、伝統をなぞるからいいというわけでもない。新しいからいいというわけでも古いから悪いというものでもない。

今回で言えば、アルトマティコとロス・ボルブレ(と彼らが参加したラウル・カンティサノ)のアプローチは面白かったけど、掘り下げていないカリファト3/4はつまらなかった。自分の音楽をやっていくうちになんか新しくなってる、というリカルド・モレーノも楽しかった。アンダルシア・ロックの草創期を駆け抜け75歳いまだ現役のグアルベルトには敬意しかない。

結局、愛と敬意。そして自分で探求していく力。それが大切。これって伝統的な形のフラメンコをやる人でも変わらない、という結論。

ビエナルのおかげで、これまであまり縁がなかった新しいアプローチを知ったのは、本当に良かったと思います。感謝!




さて今週末からは劇場公演が始まります。楽しみ!




2020年8月30日日曜日

グアルベルト『ドゥエンデ・エレクトリコ』

8月のビエナル前哨戦も最終日。登場したのはグアルベルト。

アンダルシア・ロックの父でもいうべき存在の75歳。

1967年にスマッシュを結成。スマッシュはサイケデリックロックのバンドとして始まったのですが、そこにマヌエル・モリーナが加わり、フラメンコのリズムを取り入れた『ガロティン』などがヒットしました。ヒッピーの時代のことです。解散後はアメリカに渡り音楽の勉強をし、帰国の数年後の1979年にはアグヘータをシタールで伴奏したアルバムを発表しました。

これまでにもビエナルは度々出演しているのですが、それはシタールを演奏しての出演。でも今回は久しぶりにエレキギターを手にとっての出演。タイトルは電気仕掛けのドゥエンデ、とでも訳しましょうか。本人曰く「僕がドゥえんでなんじゃない。でもドゥエンデで演奏する人がいる。アントニート・スマッシュ、マノリート・イマン。ジミ・ヘンドリックスもそう」

ドゥエンデにジャンルの垣根はない。ドゥエンデはフラメンコだけのものじゃない。

後ろにドラムス、上手にベース、下手にシンセサイザーの若手を従えて、レスポール?タイプのエレキギターを手に演奏し始める。ゆっくりとしたブレリアのリズムに乗せて気持ちよさそうに演奏。

2曲目はティエント/タンゴの歌のメロディをギターで演奏。3曲目はインドの音階で、と言っていたけど、インドというか中国風にも聞こえる。その昔のスマッシュ的な音楽。4曲目はシタールを演奏し、ドラムの人がジェンベで伴奏、と言った具合。

これまでで一番長いコンサートでした。


開演前の会場。満員です。

流石のキャリアで、かっことした自分の世界を貫いての75歳。すごいなあ。昨日のグループが75歳で同じ音楽やってるとは思えないよなあ、とか思ったことでした。

さあ、来週からはいよいよ9月のビエナル、開幕です。いい公演がいっぱいあるといいなあ。

2020年8月29日土曜日

カリファト4分の3 『13の門』

 純粋正統とはちょっと違ったアプローチでのフラメンコが続く、ビエナル前哨戦。

28日に登場したカリファト3/4は、自身ではフォルクロレ・フトゥリスタ、未来派民族音楽と名乗っているグループ。

エレキギター/ボーカルとエレキベース、コンピューターミュージックと、キーボード(シンセサイダー?)、カスタネットもたたく女性ボーカルと俳優と、フラメンコギターとカホンとフラメンコボーカルとバイオリンと、って大勢が舞台に。どこまでがグループで誰がゲストなのかよくわかりません。

アンダルシア・トライアングル前向いていこう、的なスピーチに続いてアラブ風のビデオ。



中世風のかっこの俳優がセビージャにあった13の門について話していき、それにあったアニメーションのビデオが流れる。それに沿って、曲が入るという構成。

最初の聖週間の行進曲にエレキギターが重なるのとかは面白かったんだけど、その後はなんというか、うーん、なんというか。

その昔、アンダルシア・ロックというムーブメントがあって、フラメンコのリズムをうまく取り入れた曲とか、今もその詞をフラメンコ公演でも歌う人がいるくらいポピュラーだったんだけど、その現代版をやろうとしているのかなあ。でもね、なんというか、曲自身がもつ力が弱すぎる。ぺらっぺらな感じ。いや、今風の音楽だから、じゃないよ。今風だって、かっこいい音楽、骨太の音楽いっぱいあるじゃん。

ブレリア、アレグリアス、セビジャーナスなんかもやるんだけど、どうにも薄い。

でもそれって私がフラメンコを尊びすぎて、ちゃんとしてないとだめ、っていう既成概念に毒されてるってことかも? こんな風に、替え歌風にやってもいいじゃない? って考えもありなのかも。ハードル下げて、楽しむのもありか。

実際、おそらくグループのファンと思われる若者たちはノリノリだったし。

ハバナギラ歌ったり、ラップしたり、いろいろやるんだけど。私には文化祭で大人気のグループにしか見えないけど、好きな人は好きなんだろうね。

フラメンコギターで中国人ギタリストのローラ・ヤンが出ていたのはうれしかったけど、唯一その音がちゃんと聴こえたのは俳優の語りのバックでのソロで、昨日のオチャンドの演奏の後ではどうしてもぼんやりとしちゃう。ごめん。

女性ボーカルも女性フラメンコ・ボーカルもちょっと踊ったりするんだけど、踊りは素人にしか見えず、で、歌がすごいならそれもいいんだけど、そうでもなくて、ってか歌詞が聞き取りにくいのは音響のバランスのせいもあるのかねえ。

フラメンコへの愛や敬意が全体に薄かったように思えるのであります。いや、すごく好きだし、敬意もあるよ、って本人に言われたとしたらそれまでなんだけど、少なくともそれが私には見えず、2度目はないかなあ。

あ、セビージャの13の門についての昔語りは面白かった。プエルタ・デ ・カルネやプエルタ・デ ・カルモナのように今も地名として残っているものもあるしね。曲の歌詞にもアラメーダとか出てきて、あ、やっぱ身内の内輪受けの、文化祭のりなのかも。



2020年8月28日金曜日

M de Puchero『フラメンコ・ア・ボセス』

 8月のビエナルもいよいよ最終週。木曜日に出演したM デ ・プチェロはこの8月の公演の中で最もオーソドックスなフラメンコに近かったのではないかと思います。

グラナダのフラメンコのグループが、故郷の英雄エンリケ・モレンテを歌う、というもの。3人の歌い手へのギター伴奏は実力派、ミゲル・オチャンド。他にパーカッションが二人加わります。

この3人が、それぞれソロでずっと歌うのではなく、3人が合唱というか、一緒に歌ったり、一つのレトラを歌い継いだり、っていうのが、新しい、ということのようです。

彼らがどういうキャリアなのか、全く知らなかったのですが、メンバーのアントニオはCDも出しているし、フェルナンド・ロドリゲスはエル・グラナイーノの叔父で、エンリケの公演に出演もしたことがあるそう。このグループでのCDも発売予定らしい。

見た目はロス・チチョスというか、ヒターノのルンバ・バンドのおじさんみたいで、揃いのスーツ。

オープニングのマルティネーテは3人同時に違う詞を歌って始まり、ソロでレとらを一つずつ。続くカーニャはラメントを一緒に歌い、一人ずつ歌い最後は合唱。グラナイーナは声張りすぎ? アレグリアス、マラゲーニャ、ファンダンゴ、ソレア、ビダリータ、ソレア・ポル・ブレリア…。

レパートリーは、全部が全部、エンリケが歌っていたものなのか、はわからないけど、エンリケが歌っていた特徴的なメロディーや歌詞も出てきて、懐かしい。でもやっぱ、エンリケの声で聴きたいなあ。ヒゲのおじさんは時にエンリケぽい響きがあってハッとするんだけど。

オチャンドのギターが見事で、そっちに聞き惚れていました。

うーん、なんだろう。難しいなあ。興味を追求して新しいことにたどり着けたのではなく、新しいことをやろうとしてやっている感じというか。難しい。


それとは別に、エンリケの、凝ったメロディーラインは難しいよな、と思ったり、反対につい歌いたくなってしまうカンシオン風のやつのメロディーとか、あれはうん、合唱向きかも、とか思ったり。

たまらなくエンリケが聴きたくなって家に帰ってすぐ聴き始めてしまいましたとさ。

これはコンサートの成功なのか、失敗なのか?




2020年8月27日木曜日

ロシオ・モリーナ ビエナル記者会見

 

ビエナルの記者会見はトリアーナの陶器センターで。左から二人めエドゥアルド・トラシエラ、セビージャ市文化担当官、ロシオ、ビエナル監督、ジェライ・コルテス、フリア・バレンシア


開幕はウルスラ・ロペスが監督に就任したアンダルシア舞踊団ですが、それに先立ち、9月6日、セントラル劇場で13時と21時、公演するロシオ・モリーナ の記者会見が行われました。

マスクは水玉。


この記者会見には来ることができなかったラファエル・リケーニと、ここ数年ロシオの伴奏をしているエドゥアルド・トラシエラ、ジェライ・コルテス、3人のギタリストのギターを踊るトリロヒア、三部作のその1、その2を上演するのだと言います。

リケーニのギターを踊ることで、思いがけない自分が出てきたのがきっかけになって、作られた作品。リケーニを踊ると、儚さや母性などが出てくるのだと言います。

リケーニのギターで踊るのが13時からのその1。21時からはもう一個のその1と題して、エドゥアルドとジェライ、二人の、ロシオ曰く「対照的な」ギターを踊ります。

彼女のアイデアをネレア・ガランが言葉にし、故堀越千秋さんゆかりのアートディレクター、フリア・バレンシアが芸術監督として、形にしていったと言います。

この公演はYouTubeで生配信されるそうなのでお楽しみに。


記者会見の前に、日本公演が中止になって残念だったね、と話しかけると、「ほんと。行きたかったの」と。日本各地で映画が公開になってそれをみんな観ていることも伝えました。この状況が終わったら、きっと観たくてたまらない日本のファンと出会えることでしょう。

「世界中で見ることができて、フラメンコを知らない人に届くオンラインがあっても、画面ではわからない“匂い”を探して劇場に足を運ぶ人たちと身体と身体を対峙する感覚が大切」と語るロシオ。外出禁止中、ギタリストとも会うことができず一人で稽古をしながら、アートではやはり人と会うことが大切だと実感したと言います。

1日も早く日本に再び行くことができますように。




2020年8月26日水曜日

ホセ・バリオス逝く

 8月25日、フラメンコ 関係者のSNSに次々と投稿され、知ったのは思いがけないニュース。

踊り手のホセ・バリオスが自宅で亡くなったというのです。

1975年コルドバ生まれ。マドリードで移り、コラル・デ ・ラ・モレリア、カサ・パタスなどのタブラオなどで活躍するとともに、マリア・パヘス舞踊団で長らく活躍してきました。

日本とのゆかりも深く、1998年、大阪のスペイン企画の講師として来日。その後も、パヘス舞踊団の一員としてたびたび来日。また志摩スペイン村のフラメンコショーの振付、演出も手掛け、2016年には元宝塚スターたちの舞台「フラメンコ・カフェ・デル・ガト」の構成、演出、振付をも担当しています。

8月14日から3日間のマリア・パヘス舞踊団のマドリード公演にも出演したばかりだったので、皆、一様に驚き、悲しみにくれています。


安らかに。



2020年8月23日日曜日

ロス・ボルブレ『Flamenco is not a crime』


いやあ、面白かった。こういうのもあるんですね。

VJっていうのかな、ビデオでのディスクジョッキー的な?アーティスト、セビージャ近郊のエル・ビソ・デル・アルコール出身の兄弟によるデュオ、ロス・ボルブレ。
先週のラウル・カンティサーノの公演でもビデオを担当していました。
ニーニョ・デ・エルチェやロシオ・マルケスともコラボ/共演しています。
パケーラやアグヘータ、イスラエル・ガルバンやエンリケ・エル・コホ、ティア・アニカなど古今東西のフラメンコ・アーティストの映像と、政治家や聖週間、ニュースなどの社会的な映像、テレビのコマーシャル、ラップやヒップホップ?、大きな音でビートを刻む今風のクラブミュージック?(すみません、私にはジャンル名すらわからないです)などを切り貼り、コラージュし、そこに効果なども付け加え、大音量で怒涛のごとく進んでいくのであります。あ、パケーラなどと並んで最初の方に今枝友加さんがカナルスールに出た時に歌ったマルティネーテも入っていました。

そのホームページでactivista、活動家、を名乗っているように、社会風刺的な要素も多く、政治家(右派、左派問わず)や国王、教会への批判/風刺と取れるものもあり、こういうのに怒る人もいるだろうことは想像できるし、実際、教会風刺のところで席を立った年配者もいました。また、セビージャの保守系新聞ABCの副編集長でフラメンコ評論家でもあるアルベルト・ガルシア・レジェスの拙い英語でフラメンコについて語る場面や彼が聖週間のプレゴン(開会宣言的なスピーチ)などの扱い方は、本人が観たら怒るかも、と思われたりもするのだけれど、権威への風刺/批判だし、フラメンコ自体を批判しているわけではありません。フラメンコの中の権威主義的なものや盲目的な信仰のようなものについては風刺的な要素もちょっとあるかと思うけど、極度の純粋主義者以外は気にならないのでは?と思います。
いや、素材として扱われているものの方をちゃんと聴きたいと思う人はいるだろうけど、ほとんどはYouTube などを探せば見つかるだろうものだし、それはそれでおいといて、ここでは組み合わせの妙を楽しむのが一番。

トリアーナのおばあちゃんたちのタンゴでの腰の動きをレゲトン?に合わせたり、とか面白い。あのトリアーナのタンゴのユーモラスでエロチックな動きはもともとアフリカ人のダンスを真似したものと言われてるし、うーん、実はルーツは同じ?
そのほかにも映画『バルセロナ物語』やファルーコの踊りのちょっとした仕草や、チョコラーテやトルタの歌声や、ティア・アニカやボリーコの顔のアップなどが、“今”の音楽と組み合わさって、違和感ないのが面白い。あ、若い人が見たら違和感あるのかしらん?
フラメンコの絵力、底力、現代性、などいろいろ感じるのとともに、単純に、今の音楽を大音量で聴けたのも、若い人たちが踊りまくるクラブイベントに来たみたいな感覚を味わえたのも楽しかったです。
フラメンコ入りレイブ・パーティー。これまでにも、マドリードやニームやオランダのフラメンコ祭でもやってるそうだし、セビージャでも他ジャンルのフェスティバルなどでもやったらしい。欲を言えば、やっぱ、立ち席で踊りながら観たかったかも? ま、時世柄しょうがありませんが。


プロモーション・ビデオを貼っておきますね。



フラメンコを観るつもりで行ったらびっくりして怒る人もいるかもだけど、最初からどんなものだと分かっていれば、楽しめるはず。
って、これ、いろんなことに言えるかもですね。


フラメンコは罪じゃない。
だけでなく、
トリアーナはフラメンコじゃない。フェリアはフラメンコじゃない。ビエナルはフラメンコじゃない。などというメッセージが出てくるのも面白い。
イコールじゃないんだよ、っていう感じ?
トリアーナがフラメンコなんじゃなくて、トリアーナにフラメンコもあった、とか、フェリアはフラメンコじゃなくてセビジャーナスの宴、とか、読み方はいろいろ。それも含めて面白い。





2020年8月22日土曜日

アルトマティコ『エレクトロ・フラメンコ』conパウラ・コミトレ、フアン・ヒメネス

これはフラメンコだ、いや違う、などと言うことがあります。

人それぞれでフラメンコの定義は違ったりするので、正しくは「これは私の好きなフラメンコではない」であるということも多く、人のいうことはあまりまに受けない方がいいのではないかと思います。また「私の好きな」「私の思う」という言葉を前につけずに使うのは避けた方がいいのかとも。

アンダルシア生まれの歌と踊り、ギターなどで演じられるアートのことだというのは一般の共通認識だとは思うのですが、伝統的な曲種/コンパスがないとフラメンコではない、という考えも関係者の中には根強いようです。でも、フラメンコのアーティストがフラメンコのテクニックで表現すればフラメンコ以外の音楽でもフラメンコである、と言うこともできるのではないかと思うのです。


アルトマティコの『エレクトロ・フラメンコ』を観てそんなことを考えていました。

アルトマティコはMacを操ったエレクトリック・ミュージックのアーティスト。パーカッションのようにしたり、古い録音を加工したり、生音にサンプラーをかけていったり…そこに、イスラエル・ガルバンとも多く共演しているフアン・ヒメネスのサックスが絡みます。元々現代音楽のスペシャリストなフアン。彼らの音楽が空間を作り、そこに登場したパウラ・コミトレは、空間を切り裂き、また満たして行きます。

この写真で真ん中辺に座っているのがパウラです。

黒いトップ、スカートの上から白の丈が床までの長いベストというか上っ張りというか、前あきのワンピースというかを羽織って、裸足で爪先立ちして歩いたかと思うと、ホタのようなメロディで民族舞踊風に踊る。白いわっぱりを脱ぎ、裾に鈴?がついたバタ・デ ・コーラの巻きスカートで踊る。Macの音に座ってのサパテアードで掛け合い、サックスと正面切って掛け合う。チンチネスと呼ばれる金属製のカスタネットを使って踊る。髪をほどいて狂女のように振り乱し踊る。スーフィーとか思い出させる。モダンを極めてプリミティブに至る、的な?

パウラは94年セビージャ生まれ。新宿『ガルロチ』の最後のグループで来日していたのでご覧になった方もいるかと思います。2013年から3年間、アンダルシア舞踊団で活躍していました。その当時の監督、ラファエラ・カラスコや同じ舞踊団にいたアナ・モラーレス、またロシオ・モリーナやエバ・ジェルバブエナの影響ももちろん感じられるのですが、そんな中から彼女らしさ的なものが生まれつつあるような。雄弁なサパテアード。キレッキレすぎにならないどこか柔らかな動き。はすっぱではないおきゃんな感じというか、元気さと甘さがあって、いいなあ、と。まだ20代、これからの展開もますます楽しみです。

で、この公演。伝統的なフラメンコ曲で踊っているわけではありません。コンパスは外から来るのではなく彼女の中から出てくる、という感じ。

それで最初に戻ります。これはフラメンコなのか、フラメンコじゃないのか。

ま、正直、雰囲気のある、素晴らしい舞台だったし、楽しかったし、実はどっちでもいいのですが、「フラメンコのアーティストがフラメンコのテクニックで表現すればフラメンコ以外の音楽でもフラメンコである、と言うこともできるのではないかと思うのです」というように考えたのでありました。


それにしてもフラメンコの可能性って無限大!

2020年8月17日月曜日

ラウル・カンティサーノ『ソナ・アコルドナダ』

ビエナル夏の陣2回目はラウル・カンティサーノ『ソナ・アコルドナダ』
ソナ・コルドナダとは立ち入り禁止のテープで囲まれたゾーンのこと。
このパンデミックで、スペインでは子供の遊び場に感染拡大防止のため立ち入り禁止のテープが貼られていたのですが、それにインスパイアされたのでしょう、ジャンル/ゾーンの垣根やあれはやっちゃいけない、そこには入ってはいけないということについて考えてできたコンサート。ロス・ボルブレのビデオと、ラウルのギター(とサンプラーなど各種機械)での公演。


La Bienal


ラウルは1973年セビージャ生まれ。
ラ・チョニやアンヘレス・ガバルドン、アンドレス・マリンなどの伴奏で私は知ったのだけど、もともと、ジミ・ヘンドリックス大好きのロック少年でもあり、ロックのグループにもいたようだし、実験音楽などもやっていたそう。最近は何かと話題のニーニョ・デ ・エルチェの伴奏などもやっています。

ソロは初めてだし、ちょっと楽しみだったのだけど、いやあ、そうきますか。
面白かった!
イスラエル・ガルバンのギター版とも言える?
フラメンコの基礎はしっかり持ちつつ、昔ながらのフラメンコをなぞるだけなのはよしとせず、いろいろやってみる。
オープニングはトレモロでのグラナイーナなんだけどそれが最後はラスゲアードで爆発する。
かと思うとギターを膝の上に寝かせておいて、いくつかのバネがついたものをギターに取り付けギターを琴のようにつまびく。バネはパーカッションのような音を出す。かと思うとお箸でギターの弦を叩く。その情景をビデオで上から横から映し出す。
弦楽器で打楽器なフラメンコ ギターならでは?
鉱山を映し出すビデオでのタランタはサンプラーを効果的に使う。
かと思うと、「ビエナルで一番重要なのはフラメンコ」と言いつつ、ラモン・モントージャのロンデーニャを普通に演奏。
ファルキートやファルーカ、カナーレス、ジェルバブエナなどのSNSでのビデオを繋いだナン・ジュン・パイクに捧げる曲。
ギターなしでもギタリスト?というタイトルで、コンパスをバックにギターなしでギターの弾きまねなどするうちに座ったまま踊っているというもの。
サビーカスのビデオでサビーカスのモチーフを
ソレノイデというギターを叩いて音を出す彼の創作した機械をギターに取り付けての演奏。
プーロ・イ・アウテンティコ、純粋正統という曲では、正統派の巨匠マイレーナやエレキギターでラスゲアードしちゃうライムンド・アマドールなどの姿がビデオにうつされて、何が正統?何が純粋?と問いかけてくる。
最後は侵入禁止のテープを舞台上に張り巡らし、自分にもグルグル巻きにして終わる。

玩具箱のように、びっくり箱のように次々とでてくる趣向に笑い、感心し、唸らさせられました。いやあ、面白かったです。

普通のフラメンコを期待して聴きにきたとしたらびっくりするかもだけど、うん、こういうのもあり。

結局ね、フラメンコへの愛と敬意があるんだよね、そこでいろいろ試してみる。遊んでみる。いいじゃん?

純粋正統を突き詰めていこうというのも、新しい地平を開こうとするのも、どちらもいいよね、って思います。
















 

2020年8月15日土曜日

ビエナル(夏の陣)開幕! リカルド・モレーノの世界

 ビエナルが開幕しました。

とは言っても9月の本番を前にした前哨戦のような公演で、88年や90年にもドン・ファドリケで開かれていたなあ、と思い出します。今回の舞台はセビージャ市内の北の端の方にある、サン・ヘロニモ修道院のお庭。

ちょっと遠い。旧万博会場内にあるセントラル劇場よりもどんどん北に行ったところの川沿い。3番のバスで行きます。

そこに特設舞台が作られ、ソーシャルディスタンスを考えて十分に感覚をとって椅子を配置しています。

bienalからもらったリハーサル写真で見るとこんな感じ。


La Bienal
La Bienal


舞台は高めです。



もちろんお客さんも全員マスク着用。みんなちゃんとしてます。この青い、外科マスクと言われる、お医者さん用の使い捨てのものがスタンダードだけど、おしゃれマスクの人も時々います。

リカルド・モレーノと言っても日本ではまだほとんど知られていないのではないでしょうか。1981年レブリーハ生まれ。ヒターノの血筋で、11歳の時には祖母や叔父たちを伴奏していたと言います。20歳でフラメンコ ・フュージョン系のグループでデビュー。以後、作曲家、プロデューサーとして、アンダルシア観光局CM曲なども手掛けていました。ドランテスやホルヘ・パルドらとの共演などを経て、2015年ソロアルバム『バレカイ』をリリースしました。このあたりからフラメンコ界でも知られてくるようになったと思います。

コンサートはロンデーニャに始まりグラナイーナ、ブレリア、アレグリアス、グアヒーラ、7弦ギターによるロドリーゴへのオマージュ(ちょこっとアランフェスの一節なども挟んでる)であるインプロ(をマヌエル・モリーナに捧げる、という複雑さ)、そしていろんなブレリアを組み合わせた組曲。

というと普通なんだけど、実際にはロンデーニャの最後にはパルマのメジによるマルティネーテを挟んでのカンシオン風のシギリージャがあったり、なんというか精神が自由。
一つ目のブレリアも、聞いたことのない、オリジナリティにあふれるもの。
もちろん、パコやトマティート、ビセンテと言った先駆者たちの影響は見えるのだけど、既存のものをなぞっているのではなく、自由な精神で再構築していく感じ。
アレグリアスは三弦の調弦を変えてる、というし、グアヒーラは8分の5拍子だし(「首切られるかもだけど」って本人言ってた)、縛られず、でもフラメンコを愛し、敬意を持って、自分の世界を築いているという感じ。面白い。
実際問題、昔ながらのフラメンコの型の中でやってくれた方がわかりやすく。個性が見えて楽しめる部分っていうのはあるのだけど、これはこれで面白い。

La Bienal


最後は4歳の長男が舞台に上がってちょっと歌って踊って。

ああ、フラメンコはこうやってフラメンコ を遊びとして育っていくんだなあ、フラメンコは遊びなんだなあ、と思ったことでした。


照明も綺麗で、曲にあっていてよかったけど、コーラスとかはちょっと古臭く思えちゃう。多分普通のカンテの方が今は新しい感じがするんだろうな。

新しいものが古臭くなって、古いものが新しく見える、って時代の移り変わり、なんでしょうね。




2020年8月4日火曜日

ビエナル夏の陣は7日金曜から/と思ったら今週の公演は延期!


8月の金曜土曜の夜はビエナル前哨戦。
新しいフラメンコ満載な夜です。
その記者会見が3日セビージャのサン・ヘロニモ修道院で行われました。
かつて国王もセビージャに入る前夜に宿泊したという修道院だったところ。
市の北側になります。
ここの庭園がコンサート会場。
写真右はセビージャ市の文化担当官、左がビエナル監督。
モデルノとかコンテンポラネオとかいうように表現をしていましたがつまり、
伝統的なカンテとギターとバイレという形でないタイプのフラメンコ、
伝統派にはフラメンコじゃないと言われがちなもの、とも言えます。
ギター以外の楽器を使っていたり、伝統的なフラメンコとは違う曲を演奏したり。


でもどれもフラメンコと関係がある、見方によってはフラメンコな作品です。
プログラムは以下の通りです。
7日8日の公演は日時が変更になりました。(8月6日)

第21回ビエナル・デ・フラメンコ セビージャ
8/7(金)22時『シンコ』9月23日水曜に変更/会場はアルカサル
[出]〈fl、 sax〉ディエゴ・ビジェーガス、ラ・エレクトロ・アコースティック・バンド
8/8(土)22時『フラメンコ・ア・ボセス』8月27日木曜に変更。会場は同じサン・ヘロニモ
[出]M・デ・プチェーロ
8/14(金)22時『デ・バッロ』
[出]〈g〉リカルド・モレーノ
8/15(土)22時『ソナ・アコルドナダ』
[出]〈g〉ラウル・カンティサノ
8/21(金)22時『エレクトロフラメンコ』
[出]アルトマティコ
8/22(土)22時『フラメンコ・イズ・ノット・ア・クライム』
[出]ロス・ボルブレ
8/28(金)22時『ラ・トレセ・プエルタ』
[出]カリファト3/4
8/29(土)22時『ドゥエンデ・エレクトリコ』
[出]グアルベルト
[場]セビージャ モナステリオ・デ・サン・ヘロニモ

知らない人ばっかり?と思う人もいるかも。
なので少しご紹介。
7日トップバッター、ディエゴ・ビジェーガスはサンルーカル出身の管楽器奏者。
サラ・バラスなど舞踊との共演も多いので観たことある人もいるはず。
87年サンルーカル生まれで、すでにビエナルやヘレスのフェスティバルにも出演しています。今回は新譜『シンコ』発表を兼ねているそうで、フルート、アルトサックス、ソプラノサックス、クラリネット、ハーモニカの5つの楽器を演奏するそうな。それにパーカッションやバイオリンなどのバンドが加わり、マリア・テレモートがゲスト出演するそう。マリアはフラメンコじゃない曲も歌うそう。
公演日、前日に変更になったけど、アルカサルだからよりたくさんの人が来てくれそう。よかったね。


8日はグラナダのグループ、MdePuchero。ミゲル・オチャンドのギターに歌い手3人。
エンリケ・モレンテのレパートリーなどを歌うそうな。多分この8月の公演では最も伝統的なフラメンコではないかしらん。



14日はリカルド・モレーノ。1981年レブリーハ生まれのギタリスト。すでに3枚のソロアルバムも発表しています。



15日はラウル・カンティサノ。73年セビージャ生まれ。ラ・チョニやアンヘレス・ガバルドンの作品などで音楽を担当。ニーニョ・デ ・エルチェの伴奏もしていますね。22日出演のボルブレがビデオを担当するそう。




21日はアルトマティコ。コンビューターによるエレクトリックミュージックとサックス、そしてそこに踊りでパウラ・コミトレが加わったもので、この日限りの出会いだそう。
アルトマティコはこれまでにエステベス&パーニョやダビ・ラゴスらとも共演していますね。


22日はロスボルブレはDJ、ビデオDJのユニット。タイトルが『Flamenco in not crime』だし、ぶっとんだ感じになるのかな、ワクワク。左のお兄さんのTシャツにあるAgujetas no deadもツボ。

28日はカリファト3/4.うーん、これはアンダルシア・ロック現代版?って感じかな。
伝統派見たら激怒するかも?


そして大トリはグアルベルト。
その昔、アンダルシア・ロックの父?スマッシュにいて、その後シタールでアグヘータと共演し、ビエナルにもシタールでよく出ている1945年生まれの超ベテラン。
今回はエレキギターも使うとか。

セビージャにいらっしゃる方で、新しいフラメンコにアレルギーがない方、ぜひお運びを。入り口は川の方の入り口だそうです。