セビージャで最も読まれている日刊紙ABCの、マルタ・カラスコによる公演評のタイトルが「フラメンコでも、オペラでもない、純然たるガルバンの『カルメン』」とあって、まさにそのとおり!
フラメンコ(だけにとどまらない活躍を続ける)舞踊家が、フラメンコ音楽家(歌うギタリスト、マリア・マリン)と交響楽団、オペラ歌手、スエーデンの男声集団ヒュータヤットと共演する舞台作品ではあるけれど、フラメンコでもオペラでもない、イスラエル・ガルバンならではの『カルメン』
オペラの音楽を中心にして、オペラの展開通りに進んではいくけれど、オペラのシーンの合間にマリア・マリンによるスペイン歌謡やフラメンコもはさみこまれるし、オペラ歌手は衣装はつけていないけれど立ち稽古のように少し演技もして動き、時にイスラエルと対峙することもある。イスラエルが踊るのは音楽そのもののようにみえるところもあるが、そうかと思うとカルメンになったり闘牛士になったり。またアントニオ・ガデスの『カルメン』のセビジャーナスやタバコ工場のタンゴ、オペラで歌われる『セギディーリャ』を映画版でパコ・デ・ルシアがブレリアのリズムにのせ演奏したものなども挿入され、ある意味、ガデス/サウラへのオマージュでもあるし、フラメンコ・フラメンコな感じでも踊ります。
誰もが知る『カルメン』というネタでどれだけ遊べるか、という壮大な実験のようにも思え、最後、ホセがカルメンを殺すシーンの後に現れたヒュータヤットが叫ぶ「愛! 」「気をつけろ!」「死!」という言葉の嵐の中、寝転がって踊るシーンが強力すぎて、このシーンをやりたいあまりに作品を作ったんじゃないか、という気にもなる。正直、途中、オペラの歌だけのシーンなど、ちょっとだれるというか眠気が来るところもあったのに、この最後のシーンで盛り上がりきるので、高揚した気分で観客も満足するのではないかと。ちょっとずるい、という気もしないではない。
カルメンを遊ぶ、というのはカルメンというイメージを遊ぶということ。スペインを舞台にフランス人が書いた物語、それを元に作られたオペラから作られ世界中につたわったスペイン、セビージャ、ヒターナ、ひいてはフラメンコのイメージを茶化しまくる。そのことで凝り固まったイメージ、固定概念からの脱却にほかならないのではないか、それがイスラエルのテーマなのかも、と考えたり。いつも色々考えさせてくれる、観た後も思考で遊ばせてもらえるのがイスラエル。
先に述べたマルタ・カラスコの評の最後に、「イスラエル・ガルバンは全員が好きではないに決まっている。でも私は好き」とあって、私もそうだな、他の人がどう思ってもやっぱ私はイスラが好きだと思ったことでありました。
作品の流れはというと、オーケストラの演奏する前奏曲。上手の左右に割れるカーテンの後ろから大きなペイネータに黒いマンティージャ(レースのショール)をつけたイスラエルが現れたかと思うと、
Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León |
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オペラ歌手が歌うハバネラ。踊るイスラエル。
マリア・マリンが登場し「私はスペインのカルメン、メリメのじゃないわ」と歌うスペイン歌謡『カルメン・デ・エスパーニャ」を弾き語る。
髪に花、腰の後ろにエプロンのようなスカートみたいなものをつけて踊る。
再びペイネタにマンティージャ、鎖で腕にとめられたアバニコ(最初、ヌンチャクか鎖鎌かと思った)で踊る。
Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León |
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牛の角をつけて出てきて血の象徴であろう赤い紙吹雪を投げたり、シギリージャのリズムでサパテアードしたり。
数えきれない、覚えきれないディテールの数々。これはぜひもう一度見て確認したい。いや、そんな細部にこだわるのではなく、たとえば、パッと腕を天に向かってあげた、その形のフラメンコな美しさなど、瞬間瞬間を楽しめばいいのだと思う。
そして最後、おじさんの大声を横になって踊るイスラエル。その圧倒的な力。
参りました!という感じ。
またとしてもイスラエルの宇宙に連れて行かれて、驚かされ、笑わされ、考えさせられた夜でございました。ありがとう!
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