23日土曜日、第1回全日本フラメンココンクールの決勝でした。
5人のスペイン人とともに審査員を務めさせていただきました。
12人の決勝進出者の皆さん、誰もが素晴らしく、前回の予選で決勝進出者を決める時も大変でしたが、この中から入賞者を決めるのは非常に困難なミッションでした。
審査員の中で話し合いを重ねた結果は、当初の要項にあったものと違ったため、主宰者に確認の上、やはり要項通りに、ということで改めて話し合って、最終的な結果を出しました。審査員の意見は様々で、最初から全会一致ということではありませんでしたが、それぞれの意見、その根拠などを話した結果、最終的には全員の承認を得る結果となりました。
受賞者の皆さんおめでとうございます。
受賞されなかった皆さんもそのご健闘を心からお祝い申し上げます。
いうまでもなく、今回の結果は、この日のパフォーマンスに対する、この審査員たちによる、他の参加者との比較による結果でしかありません。参加者の方々のキャリアや実力を否定するものではありません。
それぞれの参加者の皆さんに対する私見を以下に記します。
あくまでも私の見方であることをお断り申し上げます。
1。宇根由佳さん ティエント
ティエントだが、後のタンゴの方に重きを置いている感。ティエントのもったりと引っ張る感じがあまりない。技術がしっかりしていて靴音がクリア。体の構えを斜めにしたり、傾けたり、変化をつける、肩を後ろに引くなどするとより綺麗かも。
2。市川幸子さん カンティーニャ
細部に素敵なフラメンコな瞬間がある。緊張していたのだろうか、固い表情で始まるが、次第にほどけてきた。カンティーニャ/アレグリアス系は口角あげた感じの方がいいかも。二の腕や首に緊張感が不足?でも予選の時よりずっとよかった。もっと色々見てみたい人の一人。
3。山中純子さん アレグリアス
ピンクの水玉のバタ・デ・コーラに白いマントン。装いも古風で、マントンでもペイネタに花つけて、よく絡めずにできましたが、バタ踏んでましたね。練習不足?でも丁寧に踊っている感じに好感が持てました。
4。青木ルミ子 ティエント 3位
ティエントらしいティエント。昔ながらのオーソドックスな感じの振り付け。スカートの持ち方などもちゃんとしているし、靴音も力強い。難しいことにチャレンジするのではなく、できることだけをきちんとやっているという感じ。それも一つの方法。ただ前回に引き続き胴体のコントロールがなく棒立ち状態、鎧装着状態なのは残念。
5。鈴木敬子さん アレグリアス
バタ・デ・コーラなのだが、ぺしゃんとしているのが残念、踊りにくそう。バタは技術が良くても衣装がそれに値するものでないと効果が半減。ポーズが綺麗で、ホセ・ガルバン風などフラメンカなディテールあり。両足ちゃんと使っているのもいい。
6。屋良有子さん シギリージャ 優勝
圧倒的な存在感。無伴奏でゆっくりと腕を上げていくオープニングからもう目が離せない、という感じ。スペインの潮流を踏まえているが、そのオリジナリティ、独創的な創作能力に脱帽。コンテンポラリー的だったり、太極拳のような動きがあったり、人形振り風があったり、思いがけない展開が続くだけでなく、ムイ・フラメンコな要素もあり、コラへ も感じさせる。日本人でこんな表現をする人がいるとは思わなかった。驚き。タブラオと言うよりも舞台のための曲と言う感じだけど、これだけの力がある人ならタブラオでも、タブラオにあった踊りを作り上げて踊れるのではないかと思う。おめでとうございます。黒い衣装の裏に少し赤いフリルを入れているのも効果的。とってつけたフラメンコではなく、フラメンコで自分を表現しようという心意気がオレ!。
7。松彩果さん ソレア 2位
黒地に白い花柄の衣装、赤フレコのシージョはソレアにしてはちょっと主張強すぎ?と思う私が古いのかな。予選でのアレグリアスのエプロンもそうだけど(タンゴならエプロンもありだけど、アレグリアスにはないと思う)、曲にあった衣装選びも踊りのうち。
アナ・デ・ロス・レジェスの深い歌を体の中に取り込んでそれを出していくような深い表現が素晴らしい。痛みや怒りを感じさせ、ムイ・フラメンカ。彼女には目指すフラメンカな表現、こうなりたい、こう踊りたいというフラメンコのイメージがある感じがする。そこに自分を寄せていく感じ。
8。伊藤千紘さん シギリージャ 審査員特別賞
黒い衣装にシージョ、頭の真ん中に大きな花をつけるのは小柄な体のカモフラージュ?花はなくてもいいような。上手だが、もらった振り付けを踊っている感あり。振り付けをいかに自分のものとして踊るか、消化するか、が課題かも。残念ながらまだアルティスタ未満、生徒以上、かも。自分のモチベーションと動きのつながり。難しいですが、階段登れる人だと思いたいです。
9。知念響さん ファルーカ
男装。耳かくしの髪型もいい。難しい曲を好演。予選の時といい、すでに自分のスタイルが出来上がっている感じ。
10。関真知子さん グアヒーラ
白にピンクの水玉の可愛い衣装。アバニコを使って。一生懸命さに好感が持てるが、まだレファレンス、標となるべき踊りをそれほどたくさんは見ていないのかも、という感じ。ビデオでもいいからとにかくいろんな人の踊りをたくさん見て、これはこんな感じで、というイメージを蓄積していくのが必要かも。上っ面なぞるだけのようにではなく、というときつくなるかもだけど(ごめんなさい)、一曲の中に起承転結や強弱みたいな、どこを特に伝えたいか、などのイメージもできるといいかもしれない。
11。出水宏輝さん ソレア 努力賞
決勝進出した唯一の男性。ラメの入ったスーツで、ファルーコファミリー大好きです、的な踊り。こういうのが大好きです、というのは伝わる。でもあなたはファルーじゃない。あなたはあなたの踊りを探さなければ、では? これはその第一歩でしかないと思う。胴体の緊張感も足りないし、右足中心の足も、両足で自在にできるようになってほしい。可能性は無限大、でも努力次第。いろんなもの見て、自分で体をコントロールできるようになっていって、この愛をキープできればすごいよ。
12。谷口祐子さん グアヒーラ
マントンにバタ・デ・コーラ、アバニコ。マントンもバタ・デ・コーラもきちんとしたテクニックが身についている感じ。マティルデ・コラル/ミラグロス・メンヒバルの路線。ただ彼女も自分の振りとして消化できているかは疑問。振りと振りとの間のつながりが切れることもあるし、歌を呼び込むとか、歌に反応するとかの上級へのチャレンジを是非。
フラメンコは難しい。いやフラメンコも、か。
これができたと思っても、さらにその上、そのまた上がある。
みてるこちらも、ここまでできるなら、じゃあ、これも是非、と欲が出てきます。
今回、プロとして自分の公演をしたり、教えたりして活躍されている方の存在感、実力はやはり、そうでない方とは違うことも身をもって感じました。
ある程度までレベルが上がると、お客さんのいる前の舞台で踊ることによりのみ、学ぶこともあると思います。そして上のレベルの人は勝負どころが初級者、中級者とは違ってきます。
コンパス、姿勢、サパテアード、ブラセオ、回転、体の近い方、小物の扱い、表情、歌とどう絡むか、歌にどう反応するか、目線、衣装や髪など見た目も含め、すべて大切だけど、それに加えて、
フラメンコで表現したい何かがその人の中にあるのか、どうか。それを表現できるか。
何か、というのは言葉にならない思いだったり、この曲は私はこう感じる、といった漠然としたものでいいです。フラメンコ、それぞれの曲の性格を理解して、それを演じる、のでもいい、私はソレアをこう思う、私のソレアはこうだ、でもいい。伝えるべき何かがあるか、伝えたい何かがあるか。今はうまくできなくても、こういうフラメンコを私がしたい、でもいい。そういう強い思いがあるか。
その人のフラメンコがあるのかどうか。
いくら上手に踊っても、でも、そこに自分がなければ、あなたの思いがなければ、空虚ではないかと思うのです。
道はとんでもなく険しいけれど、だからこそ、舞台の上の共演者や観客と繋がったときの感動も大きいはず。
頑張ろう。
私も踊るわけじゃないけど、成長していく日本のフラメンコについていけるよう頑張ります。
0 件のコメント:
コメントを投稿