いやあ、驚いた。こんなフラメンコがあったんだね。スペイン国立バレエ団のエステラ・アロンソの『ア・ミ・マネラ2.0』。私風に、という意味のタイトル通り、国立バレエでもエスクエラ・ボレーラでソリストの役を踊るボレーラの名手が、ボレーラの技術を目一杯使ってフラメンコを踊った作品でございました。
エスクエラ・ボレーラはフラメンコ舞踊の源流とも言える、スペインの古典舞踊。基本、クラシック曲で踊られるものなのですが、それをフラメンコで。フラメンコの草創期の空気を感じさせるような、薄ぼんやりした灯り。ビクトル・エル・トマテのギターにヘスス・コルバチョの歌、パコ・ベガのパーカッション。ダビ・モニスのバイオリンはちょっと私の好みじゃなかったけど、フラメンコの源流の一つであるアラブ風の響きを加えてくれます。といっても、何もフラメンコの源流を表現というわけではありません。バレエシューズで、カスタネットを、クラシックバレエのような跳躍や回転の、ボレーラの技術で、シギリージャやブレリア、アレグリアスといったフラメンコ曲を踊るのです。
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© Festival de Jerez/Esteban Abión |
バタ・デ・コーラのスカートの役を果たすマントのような巻きスカート?を脱ぎ捨て稽古着のような上下で跳躍や回転を見せて踊るシギリージャ。
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© Festival de Jerez/Esteban Abión |
カスタネットで踊るブレリア。
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何がすごい、って、コンパス感がしっかりしてること。だから、オレ!が出る。超テクニックなのはもちろんで、その姿の美しさだけでもオレ!なのに、コンパスの呼吸がいいから最高に楽しめる。
サパト、フラメンコ靴に履き替えて紅のマントンでの曲はグラナドスのスペイン舞曲アンダルーサだというのがまたつぼ。今年のヘレスでは薄手のマントンをバッサバサ回す人ばかりだったので、ちゃんと重みのあるマントンを、アルテで舞わせてくれたので堪能できました。彼女はブランカ・デル・レイのタブラオ、コラル・デ・ラ・モレリアにも出演しているから、彼女や、国立バレエの監督ルベン・オルモの影響もあるのかもしれません。
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© Festival de Jerez/Esteban Abión |
そしてまたバレエシューズに履き替えて踊った最後のアレグリアスもこれまた絶品で、全く違うアレグリアスなのだけど、大昔、ヘレスでローラ・グレコが裸足で踊ったアレグリアスを思い出しました。いやあ、これはもっとたくさんの人に見てもらいたい作品です。
20時30分からのビジャマルタ劇場はカディス・フラメンコ舞踊団の公演。これはカディス出身の踊り手ピラール・オガージャ、ヘレスのアンドレス・ペーニャ夫妻のカンパニー。ピラールは健康上の理由で、舞台には出なかったけど、アンドレスと二人のカディス出身の踊り手ピラールの兄フアン、エル・フンコがゲスト出演。その3人と群舞のメンバーとではあまりにキャリアもクオリティも違いがありすぎだけど、5人の女性によるバタ・デ・コーラとマントンのアレグリアスに始まる舞台は、振り付け構成の工夫で最後の曲をのぞいてかろうじて発表会になるのを逃れていたという感じ。
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© Festival de Jerez/Tamara Pastora |
フアン・オガージャのファルーカ、
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アンドレスのソレア、
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など、ベテラン勢のソロは、ド直球、ストレートなフラメンコで、あらすじやメッセージ性のある作品が続く中、普通のフラメンコの魅力を改めて感じさせてくれた。うん、こういうのがいいんだよ。歌とギター、コンパスで踊る、フラメンコ。アンドレスの長めのブレリアにも酔わされる。
エル・フンコはシギリージャ。
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コンセプトとかあらすじとか、メッセージとか忘れて、いいフラメンコを並べただけのガラ公演みたいな作品もあっていい。その踊り手がより魅力的に見える構成演出だけの作品。
女性群舞の羽根扇でのグアヒーラも一風変わった感じで面白く見られて良かったのだけど、
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© Festival de Jerez/Tamara Pastora |
そのあとがいけない。群舞によるスペイン語でポプリという、様々な曲のメドレーみたいなのが続くのだけど、全員が客席向いて同じ振りを踊る姿は鏡の前でのクラスレッスンそのもので、これまで背伸びして“舞踊団公演”を演じていた群舞メンバーが発表会に臨む生徒へ戻ってしまった。残念至極。
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魔法は解け、元の粗末な姿に戻ったシンデレラみたいなもの。グアヒーラで終わっていればめでたしめでたしだった気がする。
あとギター。今回全員カディス県内出身ということだけれどカディス県内にはもっと色々、プロのいいギタリストがたくさんいると思うんですけど。
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