4月14日、座・高円寺において、第5回全日本フラメンコ・コンクール決勝が行われました。今年も審査を務めさせていただきました。今年の受賞者は(敬称略)
カンテ部門優勝 斎藤克己 準優勝 熊谷善博
バイレ部門優勝 伊藤笑苗 準優勝 黒須信江
小松原庸子特別賞 カンテ/斎藤克巳 バイレ/南豪
というみなさんです。おめでとうございます。
今回、バイレ部門の伊藤笑苗さんは決勝の5人の審査員が全員10点満点の10点をつけるという、前代未聞の完全な勝利でした。思わずオレ、とスペイン人審査員たちも思わず声が漏れてしまうような素晴らしいアレグリアスでした。バタの扱いもマントンさばきも素晴らしく、伝統的なアレグリアスの振りをベースに現代的な感覚も取り込んだ振り付けも良かったです。確実な技術に裏付けされた実力と圧倒的な存在感。小柄な彼女が舞台では大きく見えました。準優勝の黒須信江さんも曲を十分に理解した表現で、一歩抜きん出ていたと思います。小松原庸子先生が選ぶ小松原庸子特別賞の南豪さんは五年ぶりの挑戦。こう踊りたいという気持ちが先行している若さゆえのエネルギー。コロカシオン、姿勢、とくに首の位置や前屈みになりがちなところや回転など,基本の技術を磨いていくことで,より良い形で想いを伝えることができるようになるのではないでしょうか。難しい複雑なパソよりもシンプルな基本のパソをていねいに行って行けばもっとずっと先に行けると思います。
何をやるにしても基本は大切ですね。
フラメンコ曲を踊る/歌う/演奏するためには、その曲ごとのリズムやメロディなどの特徴だけでなく、それぞれの曲が持つ性格を理解して、それを表現することが必要です。物語やコンセプトのある作品で、フラメンコ曲を使って別の何かを表現する、ということもありますが、そうではないシンプルな舞踊の公演や、今回のようなコンクールの場合は、その曲を理解してその曲らしい特徴をちゃんと演じているか、ということも評価されると思っていただくと良いかと思います。
これは歌でも同じだと思います。曲の持つキャラクターの理解と表現は大切です。コンパス、音程、メロディの正確さなど、全体的にレベルはだいぶ上がっていると思いますが、歌の場合は発音が気になるケースが多々ありました。LとR、そして巻き舌のR Rは日本人がつまづきやすいところなので、しつこいくらいに気にして、発音した方が良いと思います。なぜならスペイン語では例えばrでのリオとlでのリオでは全く違う意味になってしまうからです。
また、歌詞の意味を理解するのはもちろん、歌としてどういう方向性を持っているか、どういうセンティードで歌うべきか、なども理解することも必要だと思います。今回優勝した斎藤克己さんはそう言ったところ、全てが良かったと思います。発音、歌詞の意味と方向性の理解、曲の特徴であるグラシアの表現。それに加えて、レシタル、朗読のように語りかけるところと軽妙に歌うところ、今にも踊り出しそうな雰囲気とか、メリハリも効いているし、何よりタンギージョという曲の深い理解による表現で、観客を捕まえて離しません。準優勝の熊谷さんは、プロではありませんが、長年のアフィシオンが感じられるまっすぐな歌いっぷりが良かっただけでなく、長年聞いてきたゆえでしょうか、歌詞、1行1行の方向性を正確につかんでいるという感じがしました。
バイレ全5回、カンテは3回、東京、大阪、第2回の仙台とすべての予選、そして決勝と、これまでのすべての演技、歌唱を見させていただいてきましたが、日本のフラメンコのレベル、特にカンテは年々、確実に上がっていると思います。
ただ、カンテでは発音、舞踊では姿勢、といった基本中の基本をもう一度一から考えながら学び直し、踊りでも歌でもお手本をその通りになぞっていくとき、なぜこの動きはこうなのか、この歌い方になるのか、なども考えつつ、たくさんの先人たちのアルテに、できれば生で、でも動画や録音でもいいので、たくさん触れて、自分の引き出しを増やしていってください。そうすることであなたのフラメンコは、ひいては日本のフラメンコは、いやフラメンコ全体が、もっと豊かになると思います。まっすぐな気持ちでフラメンコに取り組んでいるみなさんをいつも、心から応援しています。
入賞を逃した方も、コンクールに向けて練習を重ねる、プレッシャーに打ち勝って舞台に出ていく、などしていく上で、階段を一段、確実に上がっていると思います。
参加者の皆さん,素晴らしいフラメンコをありがとうございました。
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