2023年4月23日日曜日

全日本フラメンコ・コンクール決勝 コンクール総評

 4月21日、在日本スペイン大使館オーディトリウムで第4回全日本フラメンココンクール決勝が開催されました。予選を勝ち抜いてきただけに、レベルの高い演技が続き、長丁場、審査する方も大変でしたが、セキュリティの関係で一度入場したら途中で一時的に外に出ることはできなかったため、観客の皆さんも大変だったことと思います。お疲れ様でした。

結果は、以下の通りです。

カンテ部門優勝 中里眞央 準優勝 許有廷

バイレ部門優勝 内田好美 準優勝 石川慶子 

小松原庸子特別賞 佐藤心晴 平田かつら

入賞者の皆さん、おめでとうございます。

特にバイレは接戦で、僅差での結果となりました。入賞していない人の中にも素晴らしい歌い手、踊り手、将来有望な方などたくさんいらっしゃいました。日本のフラメンコの未来も安心と感じられるほどです。

なお、毎回、言っていることですが、コンクールの結果は、その時のその演技を、その時の審査員がどう評価したか、であって絶対的なものではありません。未来を約束するものでも、未来への扉を閉じてしまうものでもありません。

スペインのコンクールでも、現在第一線で活躍しているアーティストたちがコンクールで思うような結果を残せなかったケースはままあります。ロシオ・モリーナがコルドバでもラ・ウニオンでも入賞はおろか、決勝にも残れなかったのは有名な話ですし、ロシオはその数年後にはスター格の出演者としてウニオンに招かれています。またラ・ウニオンでエドゥアルド・ゲレーロが優勝した年は、準優勝のメルセデス・デ・コルドバだけでなく、エル・チョロやマリア・モレーノといった他の年なら優勝間違いなしの実力者が決勝に残れなかったというケースもあります。

ではコンクールは意味がないか、というとそんなことはありません。コンクール入賞という一文を履歴書に書くことで注目されることもあるかもしれませんが、それだけで仕事が山のようにくる、なんてことは起こりません。

それよりも何よりも、コンクールという目標に向かって努力すること、その中でいろいろ学ぶことがその人の今後のキャリアにとって大きいと思います。また、プレッシャーとの戦いや、通常とは違う観客(審査員も広い意味で含まれます)に見てもらうことで、通常、先生や仲間たちからもらうのとは違う意見やアドバイスを得ることで気づきを得ることもあるでしょう。アドバイスを全部聞く必要はないかもしれませんが、自分としては納得できない意見でも、そういう見方もあると知ることは悪いことではないと思います。

さて今回、大阪、東京の予選、そして決勝とたくさんの歌を聴き、踊りを観て思ったこと。まずは熱意に感服です。遠いスペイン、アンダルシアで生まれたアートを愛し、やってみようと思うこと、真摯に取り組んでいること、本当にすごいと思います。

ただし、フラメンコとしてみた場合、こうすればもっと良くなるのに、と思うこともいろいろありました。文化も習慣も全く違う遠い国で生まれたアートなので、日本で実践していく上で学ぶことが難しいこともたくさんあるのだと思います。

今回、カンテ、バイレ、共通してまず思ったことは、曲の理解ということ。フラメンコの各曲にはそれぞれの特徴があります。それはリズム、コンパスや調性、メロディの違いだけでなくシギリージャなら重厚で深刻、悲劇性があり、アレグリアスなら軽妙、明朗、上昇感、グアヒーラなら明るさだけでなく、熱帯的、コロニアルな感じ、ティエントのねっとりした粘りつくような感じなど、それぞれのキャラクターが感じられるようなパフォーマンスはいいパフォーマンスだと、私は感じます。

アレグリアスの踊りには笑顔の要素があるわけで、ずっと無表情だったりシリアスな表情ばかりだったりすると違和感があります。でもかといって、何もずっと歯見せて笑っている必要はなく、ちょっと口角が上がっているような感じでいいのです。踊りもパフォーマンスなのでお芝居的な演技も必要な部分はあるのですが、それがわざとらしくはない自然な演技だと一番いいのではないでしょうか。でも、最初は形から入る、つまり笑顔を作ることで楽しい気分になってアレグリアスの気持ちになる、ということもあるかもしれません。

たくさん見聞きすることでその曲の特徴やキャラクターというものはわかってくるのではないかと思います。今はYouTubeなどで手軽にいろんなアーティストのパフォーマンスを観聴きすることができるので是非いろいろ観ましょう、聴きましょう。ライブにも足を運びましょう。たくさん見ている人は自分が踊る、歌う時も、ここはあの人のああいう感じで、といったイメージを持つことができるし、それがより良いパフォーマンスにつながることも多いのではないかと思います。


カンテで特に気になったのは発音です。日本人が苦手なrとlの発音、特にrrの発音は気をつけ過ぎるくらい気をつけないと、ぼんやりしがちな人が多いように思います。またf の音が気になる人もいました。音程もリズムも、曲の理解も表現もいいのに、発音が残念すぎる、という方もいらっしゃいました。また、声量がある方も多かったのですが、ずっと大声で一本調子で歌うのではなく、声の強弱のコントロールをつけたほうがメリハリが効いてダイナミックになると思います。強弱のつけ方もいろんな人の歌を聴くことで学んでいけるのではないかと思います。また音符に一つずつ音を乗っけるような歌い方の人も気になりました。スタッカートみたいに聞こえてフラメンコらしくなくなります。音をつなげる、リガールする歌い方のほうがよりフラメンコらしく聞こえると思います。なお、音程も大切です。好きだという気持ち、伝えたいものはもちろん大切ですが。いくら心があっても基本の技術である、音程、リズム、メロディを含む曲についての知識、発音はその気持ちや伝えたいものを聴いている人に伝えるために、必須です。

バイレでも同様です。まずは姿勢、そしてサパテアードやブラソ、胴体をも含めた身体のコントロール。基本の技術を押さえた上で、振りのセンティード、どういう方向性、意味を持ってるのか、意識がどこにあるか、また舞台への登場退場の仕方、など考えるべきことはたくさんあります。振り付けをなぞる、追うだけになってしまわないように、たとえ他の人に振り付けてもらった曲でも、自分のものとして踊れるように、歌を聴いてこたえるように反応し、自分の中での心の動きが自然と体の動きに現れているかのように、となるのが一つの理想かもしれません。

装いも重要です。曲のキャラクターにあった、振り付けにあった動きがしやすい衣装を選ぶべきです。マントンを使う場合は、ある程度重さのある、フレコにも重さがあるものでないと、綺麗な動きになりません。良いものは高いので、予算の関係で難しいのかもしれませんが。また、スカートにはある程度ゆとりがないと足の動きに制約が生まれてしまいます。また靴も案外目立つものなので気をつけたいところです。髪や花、櫛、イアリングなどアクセサリーも一緒で、悪目立ちしてしまっては元も子もありません。全体の場卵子を考えて選ぶと良いと思います。

なお、これらの意見は審査員全員のものではなく、あくまでも志風個人の意見です。

来年は5周年ということで、また多くの方がご参加いただけますよう願ってやみません。





0 件のコメント:

コメントを投稿