2023年12月28日木曜日

アントニオ・アグヘータス逝く

 12月27日、歌い手アントニオ・アグヘータが亡くなりました。57歳。

本名アントニオ・デ・ロス・サントス・ベルムデスは1966年ヘレス生まれ。父は2015年に亡くなった歌い手マヌエル・アグヘータス、何度か来日もしている歌い手ドローレス・アグヘータスの6歳下の弟。

子供の頃から歌い、ヘレスやマドリードでも舞台に上がっていたといい、1979年には“エル・ニーニョ・デ・アグヘータス”という名でレコードも出しました。が、その後、ドラッグや盗みなどで刑務所で14年を過ごすこととなります。

91年服役中にアントニオ・アグヘータスの名前でアルバムをリリース。93年に受刑者を対象にしたカンテコンクールで優勝し、98年にも同じコンクールの覇者であるホセ・セラーノと二人によるアルバム『ドス・グリトス・デ・リベルタ』を発表。21世紀になって、再びカンテの道を歩み始め、ペーニャやビエナルやヘレスのフェスティバルなどにも出演。CDも2001年『アシ・ロ・シエント』、2003年『ヘススクリスト・セグン・アグヘータス』、2017年『ポル・ヌエストロ・ビエン』を発表するなどしました。


ご冥福を祈ります。




2023年12月27日水曜日

タコン・フラメンコ祭

 ウトレーラで開催のタコン・フラメンコも来年で10回目。

今回はセビージャのベテラン、カルメン・レデスマへのオマージュ。

劇場公演のほか、カルメン本人によるクラスも開催されます。ヘレスのフェスティバルと重なって私は一度も行くことができていないのですが、こちらも舞踊主体のフェスティバルです。



◇第10回タコン・フラメンコ・フラメンコ祭

222(木)21

[出]〈c〉マヌエラ・モジャ、〈b〉ミゲル・エレディア、イサ・ティラド、〈piano〉ぺぺ・フェルナンデスほか

223(金)21

[出]〈b〉レマチェ・デ・マラガ、〈c〉ペリーコ・パニェロ、コラル・デ・ロス・レジェス

224(土)18時『カルメン・レデスマとのお話し会』

[出]〈b〉カルメン・レデスマ

225(日)『舞踊学校の集い』

226(月)21

[出]〈b〉フェルナンド・ヒメネス、〈c〉マヌエル・モネオ・カラスコ。エンリケ・レマチェ、〈g〉フェルナンド・デル・モラオ

2/27(火)

[出]〈b〉ホセ・マジャ

228(水)21時『オメナヘ・ア・カルメン・レデスマ』

[出]未定

[場]セビージャ県ウトレーラ エンリケ・デ・ラ・クアドラ劇場

[問]https://taconflamenco.com

2023年12月21日木曜日

ペドロ・ペーニャ逝く

12月20日、ギタリスト、ペドロ・ペーニャが亡くなった。84歳。




今年の3月、トマティートやぺぺ・アビチュエラらとともに座談会に出席した時は車椅子ではあるが、その話し振りは力強く、カンテヒターノについて語っていた。

伴奏の名手だが、歌も上手で、晩年はその歌を聴く機会もあったのは幸運だった。ご冥福を祈ります。



2017年ニームで















 

2023年12月10日日曜日

ニームのフラメンコ祭

 毎年恒例、フランスはニームのフラメンコ祭。来年も開催します。

オルガ・ペリセやピニョーナ、パトリシア・ゲレーロ、ダビ・コリア、パウラ・コミトレと、舞踊公演が特に充実。カンテも人気のイスラエル・フェルナンデスやヘスス・メンデス、ギターはヘラルド・ヌニェスが出演します。



◇ニーム・フラメンコ祭

1/10(水)20時『ラ・マテリア』

[出]〈b〉オルガ・ペリセ

111(木)20

[出]〈c〉イスラエル・フェルナンデス、〈g〉ディエゴ・デル・モラオ

11220時『O../O../.O/O./O.

[出]〈b〉マリア・モレノ

114(日)18時『インサシアブレ』

[出]〈b〉ラ・ピニョーナ

116(火)21時『ロス・バイレス・ロバードス』

[出]〈b〉ダビ・コリア

118(木)21

[出]〈c〉ヘスス・メンデス、〈g〉ぺぺ・デル・モラオ

119(金)21時『デリランサ』

[出]〈b〉パトリシア・ゲレーロ

1/20(土)21

[出]〈g〉ヘラルド・ヌニェス

[場]フランス ニーム ベルナデット・ラフォン・ホール

113(土)20時『テルセル・シエロ』

[出]〈c〉ロシオ・マルケス、〈シンセサイザーなど〉ブロンキオ

[場]フランス ニーム パロマ

 

119(金)18時『フラメンコ・ディレクトvol.2

[出]〈c〉イスマエル・デ・ラ・ロサ、〈g〉ジェライ・コルテス

[場]フランス ニーム ローマ博物館オーディトリウム

 

116(火)18時『アプレ・ヴ、マダム

[出]〈b〉パウラ・コミトレ

117(水)20時『アレゴリアス』

[出]〈b〉パウラ・コミトレ

118(木)18

[出]〈b〉ステファニー・フスター

1/20(土)18時『フランカチェラ』

[出]〈b〉チョロ・モリナ、ヘスス・コルバチョ

[場]フランス ニーム オデオン

[問]www.theatredenimes.com


2023年12月2日土曜日

ロシオ・モリーナen ガルロチ

信じられないようなことが起きるんですよね、日本では。

ロシオが日本に行く、ガルロチに行くと聞いた時もちょっと信じられなかったけれど、12月1日、前日来日したばかりのロシオが仲間たちと見せてくれた舞台も、信じられないほどすごいものだった。 

伝統的な、というか、オーソドックスなフラメンコしか見ていない人はびっくりしてしまうかもしれない。え、これもフラメンコなの?と思うかもしれない。私にとってはあらゆる意味でムイ・フラメンコだったけど、そう感じない人もいるかもしれない。でもそれでいいんだと思う。感じ方も考え方も人それぞれ。

アンダルシア風のジャケットに黒いスカートという、アマソナと呼ばれる女性の乗馬服風衣装で登場。クリアで完璧な靴音を聴かせる。手が体とは別の、意識を持った他の生き物のように動く。シギリージャやファンダンゴなどフラメンコの森を彷徨ったかと思うと、伝統的なスタンダードなフラメンコを解体して再構築したような、フラメンコの決まりの中にある音/拍を飲み込んでしまったような、不思議なフラメンコを作り上げる。  その中に飛びこむオルーコのストレートなフラメンコ。いい感じに年をとり、重厚さと深みが加わっていて素晴らしい。そして雫が落ちる、ぽたんぽたんという感じに聞こえるギターの音から始まったロシオのソレア。歌はない。でも歌が聴こえる。体の?心の?奥底に溜まったものを掻き回して引きずり出してくるような、そんな感じ。涙が溢れるのは何故だろう。ロシオの中に息づいているたくさんの先人たちや感情に導かれているような。

お辞儀をしておしまい、と思いきや、始まったフィン・デ・フィエスタではぺぺが熱唱し、ジェライが踊り、ロシオがオルーコを引っ張り出す。




偉大な人ほど普通。と言ったのは誰だったろう。偉大な人はコンプレックスもないから自分を大きく見せたりする必要がないので、威張らない。偉ぶらないので普段は普通の人っぽい。昨日の公演後、楽屋に走って行って感動と感謝を伝えたのだが、彼女も他の女友達と同じように、ナチュラルで可愛い笑顔で答えてくれた。舞台に上がった彼女は宇宙人のようだけど、楽屋に向かう道で地球人に戻るのかもしれない。


翌日の公演はまた全く違ったものだったらしい。だろうなあ。彼女の懐はとてつもなく深くてメリーポピンズのカバンか、ドラえもんのポケットみたいに底なしで、いろんなものが出てくるはず。一度見てください。見たらまた行きたくなるはず。行ける人はぜひどうぞ。

2023年12月1日金曜日

第12回 CAFフラメンコ・コンクール


11月30日、東京、北千住のシアター1010においてスペイン舞踊振興MARWA財団が主催する、第12回CAFフラメンコ・コンクール本選が行われました。14日の二時予選、そして30日の本選と、審査員を務めさせていただきました。マルワのコンクールの審査をするのは初めてでしたが、改めて、日本のフラメンコの力を実感する経験でした。

入賞者の方々、おめでとうございます。
でも入賞しなかった方も、それはその日、その時のパフォーマンスをその時の審査員がどう評価したか、という結果でしかなくて、最終審判が下されたわけではありません。受賞者が賞を励みとして一層の学びを重ね、より素晴らしい踊り手になっていくのか、残念ながら今回は賞を逃してしまった人でも、これを機に発奮して学びを重ね、受賞者を超える踊り手になるのか、未来は誰にもわかりません。でも、受賞者も、受賞しなかった人も、一次予選を通過できなかった人も、コンクールという目標に向かって、練習に励み、いろいろ考えたりしたことは、絶対プラスになっているはずです。コンクールの一番の意義はそこにあると、私は思います。受賞したという一文を自分の経歴に書くことで実力を保証される、ということもあるかもしれません。でも実際問題、コンクールに優勝しただけで一夜にしてスターになれる、というものではありません。それはスペインでも同じで、有名なラ・ウニオンやコルドバのコンクールで優勝したからといっても直ちに仕事が殺到するというわけではありません。コンクールの経験をその後のキャリアに、人生にどう活かすかは本人次第です。

今回のコンクールは非常にレベルが高く、誰が受賞してもおかしくないものだったと思います。フラメンコへの知識、技術、表現力など、どれをとっても一人突出した人がいるというわけではなく、皆、一定のレベルをクリアしていらっしゃる。なので、入賞するかどうかの命運を分けたのは、小さな要素の積み重ねだと思います。例えば衣装や小物、アクセサリーの選び方、髪型、曲に踊りに合わせた衣装/小物選びができているかどうか、サポートしてくれるミュージシャンたちをどう選ぶか。また、舞台への出入り(舞台の上を歩くのは街中を歩くのとは違います。また舞台袖から見切れないようにする、袖に入って客席から見えなくなるまでは気を抜かない、なども重要)、姿勢、表情、目線をどこに持っていくかなど、小さなことですが、どれも重要だと思います。
審査員が評価するのは踊りですが、その踊りは、サポートするミュージシャンによってより良くなる可能性も、反対に足を引っ張られてしまう可能性もあるというのも事実です。また、どの曲を二次予選で踊りどの曲を本選で踊るのか、というのもありますね。二次予選の方が本選よりずっと良かった人もいらっしゃったりすると、もし選曲が逆だったら、と思ってしまうこともあると思います。

兎にも角にも、大きな舞台で踊り、たくさんの人に見てもらう機会、いろんな意見を聞ける機会、そして入賞すれば留学をサポートしてもらえるというのは大変幸運なことだと思います。そういった機会を若い世代に与えてくれる、スペイン舞踊振興MARWA財団には感謝しかありません。参加者の皆さんは、与えられた機会を生かし、将来は素晴らしい舞台を作って皆を楽しませてくださいますように。