美しいフラメンコ、なのだ。
プリミティブで、野性的で激しいだけがフラメンコじゃない。
知性的で優美で繊細、そして品格がある、このうえもなく美しいフラメンコもあるのだ。
昨夜、アンダルシア州のフラメンコ公演シリーズ,フラメンコ・ビエネ・デル・スールの一環としてセントラル劇場で初演された「ウナ・ミラーダ・レンタ」。
昨年まで、アンダルシア舞踊団のソリストとして活躍したアナ・モラーレスの新作である。
セントラル劇場の客席は可動式なのだが、今回は通常、舞台の前に下がったところにある3列が取り去られ、舞台と客席が同じ高さにされていた。
舞台奥のホリゾントも袖幕もない、裸の舞台。18枚のコンパネを囲むように床置きの照明がセットされ、下手と舞台奥に椅子、上手にはコンパネ1枚分の大きさの机のような小さな台(舞台?)。
上手奥から黒い衣装のアナが登場。ゆっくりゆっくり、静かに静かに舞台を歩く。
やがて下手奥から出てきたミュージシャンたちが舞台奥に座る。
パーカッションが刻むリズム。やがてギターがマラゲーニャを奏で始め、ソファに座っていた歌い手が立ち上がる。マラゲーニャ、カルタヘネーラ、そしてタランタと歌い継ぐ。いわゆる自由リズム、リブレの曲だが、もちろん自由勝手にリズムをとるわけではなく、コンパスがしっかり刻まれないからわかりにくいかもだが、もちろんコンパスはある。そのゆったりしたコンパスを、踊りは歌のように、また伴奏をするギターのように綴る。
そしてタラントに。その昔、ラ・ウニオンのコンクールで優勝したアナだが、その時のタラントとは全く違う。きっちりした曲の感じを表現し、ドラマチック。
見ているだけで涙が出てくるほど美しい。
ギターのシギリージャからダビのマルティネーテ。靴音の美しさ。形の美しさ。
ギターがソロでソレアを奏でる。ラファエル・ロドリゲスのいにしえの響きを持ったソレア。
ダビ・コリアがアナに茶色の巻きスカートになったバタ・デ・コーラを着せ、踊り始める。バタの扱いも超一流。バタの先までしっかりコントロールし、コンパス通りに空を舞う。
ファンダンゴ・デ・ルセーナ。
ハンチング帽をかぶったダビが上手の小さな舞台の上に乗って踊るタンギージョ。
歌い手アントニオ・カンポストとの掛け合い。彼もちょっと踊ったり。
ダビのソロのサパテアードもすごかった。
この人も形がとにかく美しい。そしてリズム!
ミロンガはデュオで踊るのだが、その呼吸の良さ。完璧なパートナーだ。
そしてアナのファルーカ。アバニコを使ってというのも珍しい。
最後はアナのタンゴ・デ・マラガ。アンダルシア舞踊団「イマヘネス」でも踊っていたが、それとも、先日のダビの公演で踊ったタンゴとも違う。細い彼女が肉感的に腰を動かし、色っぽい。踊りは動きだ。もうただひたすら見とれるばかり。
細部に至るまでよく考えられており、とにかく趣味がいい。
また是非見たい、一人でも多くの人に見てもらいたい、そんな舞台だ。
先日のダビ・コリアの公演の時にも思ったのだが、彼らは、フラメンコなのだ。超テクニックも、彼らのフラメンコを表現するためのもの。テクニックの羅列には決してならない。すごいなあ。
なお、会場にはロシオ・モリーナやパトリシア・ゲレーロらも。この世代、すごすぎる。
他にも、アンドレス・マリンやイニエスタ・コルテスらの姿もあった。