2016年2月29日月曜日

ヘレスのフェスティバル10日目/マヌエル・リニャン

マヌエル・リニャン!
文句なく今年のヘレスの最高の舞台だった。

黒いバタ・デ・コーラでのオープニングはブレリア。
同じく黒のマントンさばきもバタさばき同様、華麗なテクニックでみせてくれる。
マヌエラ・バルガスのような風格。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


紐をつかっての、ホセ・マルドナードとのデュオは秀逸!
紐をむちのようにつかったり、身体にまきつけたり、
縄跳びやゴム飛びのようにつかったり。
こんなアイデアは今までみたことがなかった!
先日もコルバチョの舞台で紐がでてきたけれど大違い。
ひもを最大限にいかして踊りをつくっている。すごい!

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
ティエントはソロで。いやあ、これもすごかった。
ティエントはソレアやアレグリアスほどにはポピュラーではないけれど、いやあ、そのポテンシャルを十二分に引き出している彼の力。
とくにタンゴではおばあさまのような振りもいれつつ、味わいがあってムイ・ムイ・フラメンコだ。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


ミラブラ/カンティーニャ/アレグリアスではラ・ピニョーナとパレハで。最初はピニョーナがバタでリニャンが男装。
レフリーのようなかたちトロンボも参加し合間にひと踊り。
いやあ、この人はファルキート以上にファルーコですね。
後半はリニャンがバタで、ピニョーナがバタで、まったく同じ振りを踊るという、面白い試み。いやあ、この人、天才かも。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

男性舞踊、女性舞踊、男性らしさ、女性らしさというものはやはり依然としてあるけれど、それだけではないなにかもあるよ、ということを示しているよう。

最後は再びバタ・デ・コーラでソレア。
バタはもう彼のアイデンティティといってもいいだろう。
彼は彼のスタイルを築き上げた。
リニャンの才能に酔わされた一夜であります。 




2016年2月28日日曜日

ヘレスのフェスティバル9日目/サラ・バラス

ヘレスのフェスティバルも中日。クラスとクラスのはざまのこの日はクラスに通う人も入場券購入せねばならない、ということもあってか、人気アーティストの出演となることが多い。20周年記念の今年はサラ・バラス。昨年の来日公演も好評だった「ボセス」である。早くから入場券は売り切れた。

Siguiriya.Foto; Javier Fergo para Festival de Jerez
2時間に渡る長い公演だがサラは疲れもみせず踊り続ける。
ブレリア、シギリージャ、タランタ、ファルーカ、ソレア・ポル・ブレリア、そしてブレリア。きれいな靴音。確実な回転。そしてときおりみせる抜きの呼吸。笑顔。
観客を魅了するのは彼女の、エントレガ、舞台にすべてを差し出すその姿勢だろう。
惜しむ事なく今あるすべてを全部差し出す。その心が伝わる。

Farruca. Foto; Javier Fergo para Festival de Jerez

今は亡きフラメンコのマエストロたちの面影に彼女が捧げる心。
中でもここヘレスではモライートのことをおもいださないわけにはいかない。
オープニングで、モライートの肖像にむかう彼女に、その思慕をみる。胸があつくなる。
まだマヌエル・モラオ率いるカンパニーの一員として「エサ・フォルマ・デ・ビビール」やドイツのツアーで、モライートといっしょになったその思い出は今も彼女の胸に鮮明なのだろう。
渾身のソレア・ポル・ブレリアに涙。

客席にはマヌエル・モラオやモライート未亡人フアナ、息子たちディエゴ・デ・モラオ、マヌエル、テレサらも顔をみせていた。最後、歌い手のマイクをとって観客にかたりかける彼女。まだ若くなにものでもなかった彼女をカンパニーで、ある意味“育てた”マヌエルに感謝をのべ、舞台からおり熱い抱擁。

終演後、スペイン人記者の女友達がこういった「同じことばっかりでしつこいわ」
たしかにサパテアードと回転ばかりに目がいくかもしれない。でもタランタでみせたブラソの美しさはもちろん、そのほかのヌメロでもきちんとした身体づかいとブラソでちゃんとみせていると思う。











2016年2月27日土曜日

ヘレスのフェスティバル8日目/ハビエル・ラトーレ、ミゲル・アンヘル・コルバチョ

前期クルシージョ最終日にはハビエル・ラトーレのクラスの発表会。


7日間でひとつの振付を仕上げる、というだけでもたいへんなのにこのクラスでは群舞で最終日には舞台にも出てしまう、というのだからすごいことだ。
クラスだからオーディションをするなどして選ばれる舞踊団の群舞とはちがい、背格好はもちろん、舞踊の技術レベルもさまざまだ。初めて会った(中には毎年参加している顔なじみもいることだろうけど)人たちをまとめて、ひとつの作品をつくりあげていく。そのハビエルの手腕も、だけど、参加者もほかのどのクラスよりもたいへんだろう。
今年でもう5回目くらい? 毎年みているが、みている方もいろいろ勉強になる。
クラスのアシスタントをつとめたシンシア・カーノ、ビクトル・マルティン、アナ・ラトーレのソロのあと、いよいよクラスメンバー。マルティネーテ。とはいっても伝統的なフラメンコというよりスペイン舞踊的な表現があったり、全員が皆同じ振りをするわけではなく、群舞で踊ることを考えての振付となっている。群舞には群舞の難しさがある。振りだけではなく、フォーメーション、出入りも覚えなければならないし、横の人との距離の取り方、位置、バランス。一人で踊る時とはまったく違う。
今年は初級者レベルの人もまざっていてちょっと悪目立ちしていたが、あとのバランスはよかったと思う。参加者のみなさん、おつかれさまでした。
ビデオはこちら
ビデオみるといろいろ勉強になります。 

19時からはサラ・パウルでミゲル・アンヘル・コルバチョとエレナ・アルガドの「ラス・モイラス」。
アンダルシア舞踊団出身で、二人の元スペイン国立バレエ団第一舞踊手による作品。オーケストラにカンテやギターが加わった曲の録音で、出演者二人だけによる舞台。

運命の糸を操る女と操られる男うんぬん、という物語があるようだが、舞台をみているだけでは詳しいことはわからない。というか、この基本すら、プログラムを読むまでわからなかった。
舞踊でなにかを語るときはできるだけシンプルにしないと伝わらないね。
衣裳は美しく、工夫もされているのだけれど、うーん、これはいったいどういう目的でどういう観客のためにつくられたのだろう。どういうところで公演する事を考えられているのだろう。

Javier Fergo para Festival de Jerez
 ミゲル・アンヘルは素晴らしいダンサーだと思うけど、舞踊手としての力と振付家としての実力は別ものかもしれない。びでおはこちら

Javier Fergo para Festival de Jerez
なお21時からビジャマルタ劇場でロシオ・モリーナ、0時からはヘスース・メンデスのリサイタルが行われた。

ヘレスのフェスティバル7日目/授賞式

今日はビジャマルタ劇場では公演がなく、昨年のフェスティバルの各賞の授賞式が行われた。

批評家賞のイスラエル・ガルバンは公演中で父ホセ・ガルバンが代理で出席。
観客賞はメルセデス・ルイス。
伴唱賞はダビ・ラゴス。
19時からの兄アルフレド・ラゴスのギターリサイタルを終えてかけつけた。
 新人賞はマラガ生まれセビージャ在住のルイサ・パリシオ。

 さて今年は誰が?
Javier Fergo para Festival de Jerez



2016年2月25日木曜日

ヘレスのフェスティバル6日目/アンダルシア舞踊センター、ウルスラ・ロペス/タマラ・ロペス/レオノール・レアル「JRT]

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
アンダルシア舞踊センターは、ホセ・アントニオが監督をつとめていた時代のアンダルシア舞踊団がタジェール(アトリエ)という学校組織をつくった」流れに ある、アンダルシア州立の舞踊学校。
スペイン舞踊とコンテンポラリー、クラシックバレエにコンテンポラリーとフラメンコのようそも、というネオクラシコと いうみっつの専門課程がありそれぞれ2年間に渡り学ぶようになっている大方が18歳から20歳という、その学校の生徒たちによる公演ということで、この学 校の講師であるルベン・オルモ、ロシオ・コラル、ミゲル・アンヘル・コルバチョの作品にコンテンポラリーの作品もプラスされつくりあげられた「ブスカン ド・カルメン」、カルメンを探して、という作品。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
8つの小品はどれも、闘牛や宴、けんか、男女の感情など、カルメンの中にある要素を主題にしてつくられている。
オープニングのコルバチョ振付はカスタネットもつかったスペイン国立バレエ風。ロシオの振付の、上半身裸の男性が黒いバタ・デ・コーラをつけ闘牛の牛を表現していく作品も、バタ・デ・コーラの新たな可能性を感じさせて面白かった。男性が美しくバタをあやつるというのは、ラファエラが自分の作品でリニャンやマルコに踊らせ今やリニャンのセールスポイントのひとつでもあるけれど、男性のバタには、あ、こういうのもあるんだ、という力強い表現がやはりうまい。ルベンの振り付けではマントンのソロを踊った女性も大健闘だったけど、最後の場面を飾ったカルメンの、闘牛から殺されるとこまでのシーンを描いた振付がやはりすごい。このまま大きな舞踊団で踊ってほしい迫力。黒い衣裳の群舞で牛を表現したり、いやあ、すばらしい。
ダンサーたちはもちろん若いので至らぬところもあるし、プロのレベルにはまだまだ遠い。それでも数年前にみたマドリードの舞踊学院の学生たちがスペイン舞踊は完璧でもフラメンコになるとぐだぐだになっていたのに対し、クラシコ的なものやあわせは苦手でもフラメンコになるととたん輝くのが面白かった。それぞれですね。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

なおコンテンポラリーも検討していました。がんばれ青少年!

21時からはビジャマルタで「JRT」
ウルスラ・ロペス、タマラ・ロペス、レオノール・レアル。3人の女性舞踊家がコルドバ出身で、フラメンコを題材にした絵も多く描いている画家フリオ・ロメロ・デ・トーレス をテーマにつくりあげた作品。

JRTとはJulio Romero de Torres の頭文字である。
彼をテーマにしたフラメンコ作品はこれまでにいくつかある。このヘレスのフェスティバルの初期にハビエル・パラシオスのカンパニーが上演した、その絵をなぞったような踊りの数々は今も印象に残っているし、作品ではないが、コルドバの踊り手エンカルナシオン・ロペスもその踊りに彼の絵にあるポーズを取り入れていた。昨年にはやはりコルドバのアルバロ・パーニョスが自らの舞踊団で彼をテーマにした作品を発表した。最後の作品はみていないが、フリオ・ロメロ・デ.・トーレスというと彼の絵を舞踊として表現するのが中心になってしまうのが主。だがここではそこから一歩踏み込んで、“ロメロ・デ・トーレスのフラメンコを理解すること”、と、イスラエル・ガルバンのブレーンとしても知られる美術家ペドロ・G・ロメロはプログラムで述べている。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
 それぞれの場面には彼の絵のタイトルがつけられており、レオノール、ウルスラ、タマラがそれぞれ、どこかほの暗い情熱を感じさせるロメロ・デ・トーレスの絵の前で踊るビデオをはさみつつ(タマラのビデオ「Retablo de Amor」が秀逸)すすんでいく。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
アルフレド・ラゴスのフラメンコギターとアントニオ・ドゥーロのクラシックギター、コプラとよばれるスペイン歌謡が彼が生きた時代の空気を感じさせれば、イスラエルの舞台の常連でもある、現代音楽のデュオ、プロジェクトロルカのパーカッションとクラリネットは不穏な空気や気分の高揚を感じさせる。女性歌手ロサリアの高い細い声は不安定で、ホラー映画のような恐怖感もあるが、これもまた彼の時代の空気を現しているのかも。
 
ただ歌とギターの伴奏でフラメンコ曲がつづられていくわけではないから、一般のフラメンコ作品に比べると難解でとっつきにくいように思う人もいるだろう。
でも終わってからいろいろ思い出し、考えてみれば、断片がつながっていって、パズルのようになって絵が完成してく。すぐにわ〜っと感動するのではなく、あとからじわじわきいてくる、そんな感じだ。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
 舞踊としてはウルスラのバタづかいもさるこちながら、タマラのこまやかな表現が素晴らしい。
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ロメロ・デ・トーレスの作品を知らない人は改めて、タイトルで画像を検索するなどして彼の絵をみるとまた伝わってくるものもあるかもしれない。

ロメロ・デ・トーレスの主な作品が掲載されている。スペイン語のページだが参考まで
http://www.modernismo98y14.com/obras-julio-romero-de-torres.html




2016年2月24日水曜日

ヘレスのフェスティバル5日目/アンドレス・ペーニャ「デ・セピア・イ・オロ」


アンドレス・ペーニャ、ピラール・オガージャ夫妻の新作「セピア・イ・オロ」。ビジャマルタ劇場の客席に入ると舞台にはセピア色の写真が次々にうつしだされている。古いものかと思わせて、よくみると写っているのは今日の出演者たち。セピア色の写真のような、古いものを大切にして新しいものをつくっていこうという意気込みの作品。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

ピラールとアンドレスがフラメンコなポーズをみせてはじまり、最初はカンティーニャス。
バタ・デ・コーラとマントンのピラール。バタもマントンも扱いは上手ではない。
彼女がひっこみシレンシオをアンドレスが。耳に心地よいきちんとしたサパテアード健在。
再びでてきたピラールはバタではないふつうのスカート。着替えた?それともあのコーラは上につけたスカートだったの? だとしたらバタさばきがうまくいかないのも当たり前かも。

男装のピラールは白い上着、アンドレスは黒い上着。二人で同じ振りを踊るファルーカ。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

メルチョーラがミニのフラメンコドレスで歌い、はだしで踊るルンバ。60/70年代風で楽しい。シリアスな歌の印象の強い彼女だが、こんなフェステーラ風もうまくて、踊りにも切れがあってみせてくれた。スカートのフリルがもっとボリューミーならもっと時代の雰囲気が出ただろう。

カディスのマイ・フェルナンデスが歌うタンギージョで同じカディスのピラールがコルドベス帽を手に踊る。マイは口のあけかたがよくないのかきちんと発音しないので歌詞がききとりにくいのが残念。帽子を手に、とはいってもあの、かつてお教室で皆が踊ったようなタンギージョではなく今風になっている。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

アンドレスはティエント。後半のタンゴでも、抜きや遊びがなく、真面目な性格がそのままでているような感じなのが反対に個性的かも?

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


ピラールはベージュの衣裳でソレア。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

最後はアンドレスのソレア・ポル・ブレリア。

アンコールはガデス舞踊団風の名場面ポーズ集。たくさんありすぎる感があったけど、やはり楽しい。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
ホリゾントを多用した明るい舞台。よく考えられた舞台の上でのそれぞれの立ち位置。演出をてがけたファウスティーノ・ヌニェスの腕で、昔ながらの伝統を大切にするアンドレスのフラメンコを、より魅力的にみせることができた舞台だったと思う。
そしてその舞台を支えた味わいのあるギター、ラファエル・ロドリゲスに拍手!

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2016年2月23日火曜日

ヘレスのフェスティバル4日目/マルコ・フローレス「エントラール・アル・フエゴ」

4日目は17時からマドリードのコンセルバトリオ、王立マリエンマ舞踊専門学院の舞踊団ラレアルの公演があり観に行きたかったのだけど時間的に困難で残念。2年前にもヘレスで公演したのだが、学校だから今回は前回とメンバーは全くちがう。それでも、前回に負ける劣らずよい公演だったとのこと。
Foto Javier fergo para Festival de Jerez

観れずに本当に残念。

21時からのビジャマルタ劇場でのマルコ・フローレスの公演「エントラール・アル・フエゴ」 。カルメラ・グレコとアレハンドロ・グラナドス、二人のベテラン舞踊家をゲストに、マルコと3人の若手、アゲダ・サアベドラ、クラウディア・クルス、ホセ・マヌエル・アルバレスが出演。ルイス・モネオ、マヌエル・ガーゴ、エミリオ・フロリドの歌、ギターはホセ・アルマルチャ。演出にセビージャの鬼才、フアン・カルロス・レリダが入った、なかなか面白い舞台。
エントラール・アル・フエゴ、とはゲームに参加する、という意味になる。
ベテラン、若手、クラシック、フラメンコ・フラメンコ。様々な要素をもつアルティスタたちがそれぞれの本来の領域とは違うものに挑戦していくという趣向のようだ。

Foto Javier fergo para Festival de Jerez

ダンサーの衣裳は赤一色。ミュージシャンは黒。
幕があがると皆が仮面をつけている。赤のキラキラ光る、プロレスラーのような、フェンシングの面をかざりつけたような仮面をとるとマルコ。彼だけ赤い衣裳に黒の線のタータンチェック。赤一色のゲーム、ということか。

赤い電飾に飾られた舞台で繰り広げられるブレリアの宴。
カスタネットやサパテアードでの会話。
ブレリア、カンティーニャ、ソレア、シギリージャ、グアヒーラ。アルバイシン。

Foto Javier fergo para Festival de Jerez

ここ数年アメリカでも活躍しているということで、お久しぶりなアレハンドロの昔ながらの、ファルーコ風ソレアもいい味をだしている。
マルコのシギリージャも、彼の優美な動きとクリアな靴音が心地よかったけれど、私が最も気に入ったのは最後の、マルコがカルメラと踊ったグアヒーラ。スペイン国立バレエに彼が振り付けたおとこたちのグアヒーラもよかったが、ベテラン、カルメラが今風の振りを踊りこなす、このグアヒーラも、ユーモア感覚もあり楽しい出来。

Foto Javier fergo para Festival de Jerez

記者会見のとき、赤い作品、とはいってたけれどしかしまあ、ここまで赤いとは。
ひとつの趣向としてはありだろうけど、赤にこだわる意味がそこまであったのかどうか、という疑問は残る。


2016年2月22日月曜日

ヘレスのフェスティバル3日目/アナ・モラーレス「ロス・パソス・ペルディードス」

昨年9月セビージャのトーレ・デ・ドン・ファドリケで初演された作品「ロス・パソス・ペルディードス」。失われた足取り、とでも訳そうか。ペルディードは失われたという意味のほかに、迷子になった、という意味もある。
「迷子になったと思ったらかえって自分の道がみつかった、ということがあります」
と前日の記者会見で語っていたアナ・モラーレス。
今回は初日のエバ・ジェルバブエナ舞踊団公演でも大活躍したダビ・コリアが出演し、昨年9月の公演とはだいぶ趣きが変わった。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


ぱたぱたと扇の音をさせながら、たき火?にみたてた舞台前面中央のライトに近づいたり遠ざかったりして、バックにうつしだされた影も踊るようなオープニングは、やがてパブロ・スアレスのピアノが弾くレクオーナの「マラゲーニャ」 がミゲル・オルテガの歌うフラメンコのマラゲーニャへ。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

そしてバタ・デ・コーラでのソレア。完璧なまでのバタさばき。美しい動きに酔う。
ただ一昨日のエバと比べるわけではないが、線が細いというのだろうか、がっと観客の心をわしづかみになるような力強さや重厚さはない。まったく違うソレアである。
繊細でたえやかなソレア。それは彼女自身のスタイルにも通じる。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

9月の舞台と比べると、まったく一人でやっていたところがダビ・コリアとのデュオになったりもしているが、最も変わったのはダビのソロ、グアヒーラが加わったことだろう。
キューバ起源の曲として南国風、コロニアル風の雰囲気をだす曲だが、ここではそういったものよりもリズムを重視してつくっている感じ。作品の中での曲だからここではこれもありだろう。回転、跳躍、静止。手足が長くかたちが美しい。
カンテソロでのビダリータからのアナのタンゴははじけるように。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
そしてまた最初の扇のささやきに戻り幕。

先日のチョロのような強さもあればアナのような繊細さもある。どちらも上質の、よく鍛えられ、練り上げられたフラメンコで、あとは観る人の好みだろう。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


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2016年2月21日日曜日

ヘレスのフェスティバル2日目/アントニオ・エル・ピパ、“エル・チョロ”

20日19時からはサラ・パウルでアントニオ・モリーナ“エル・チョロ”の「アビソ。バイレス・ヒターノス」。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
ウエルバ出身のチョロはセビージャのタブラオを中心に活躍しているバイラオール。ラファエル・エステベスのアイデアだそうだが、いつも通り、重量級のサパテアードの連続でぐいぐい押して行くのが中心。いい雰囲気をもつ、ヘレス出身ヘマ・モネオとのブレリアにはじまり、最後のソレアにいたるまでよく考えられた構成だし、よく稽古してあるという感じ。ヘスース・ゲレーロとフアン・カンパージョのギターもいいし、歌もペペ・デ・プーラ、モイ・デ・モロン、ヘスス・コルバチョ、パーカッションにパコ・ベガとバックも強力。ミュージシャンたちは舞台の中でいろいろ位置をかえ、カンティーニャはヘススの弾き語りだったり、最後はチョロ本人が机をパーカッションにしたりといろいろ工夫があって面白い。
ヘマはシギリージャをソロで踊り、カルメン・アマジャのサンブラをフェルナンダ・ロメーロのようなざんばら髪で歌い踊る。声もいい。そこからのタンゴでチョロが裸足で踊るのは、一番の武器のサパテアードをとられたみたいで面白かった。

21時からはビジャマルタ劇場でアントニオ・エル・ピパ。
女性舞踊手8人はファッションショーであるかのように衣裳をかえ舞台を闊歩する。歌も女三人。
エスペランサ・フェルナンデスのマルティネーテにはじまり、


Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

ソロでタラント、女の子たちとアレグリアス、ジプシーの国歌的ジェレンジェレン、オロブロイ、ソレアと、ピパは踊るのだが、どの曲も同じような動き。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
なので何を観ても印象は変わらない。足はコンパスを外すし、昔あれだけきれいだったブレリアのマルカへすらかつての面影はない。昔の彼のカリカチュアのよう。残念。
この写真でもわかるようにあごをひいて首がないみたいな状態で踊り続ける。
群舞は発表会かフラメンコ衣裳のファッションショーか。皆が客席の方をむいて前にたったマエストロ、ピパの振りと同じ踊りをするにいたってはアカデミア以外のなにものでもない。昨日の群舞とは大違いだ。

ゲストに迎えたエスペランサ・フェルナンデスとドランテスだけが際立つ公演でありました。

でもそのゲストにおおいかぶさるようにして自分をアピールする感じ。ひさしぶりでみるけどピパってこんなんでしたっけ?

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  Foto Javier Fergo para Festival de Jerez

 

2016年2月20日土曜日

ヘレスのフェスティバル初日/エバ・ジェルバブエナ「アパレンシア」

ギニアビサウ出身の歌手とパーカッションによる音楽で
舞台で踊っているのは赤い衣裳を着て髪のない、筋肉隆々とした男性?
コンテンポラリーダンサーなのかな、エバの振りを上手に踊るなあ、
と思ったらエバ本人だった。

Fotografías de Javier Fergo para el Festival de Jerez

アパレンシア、外観というタイトル通り、人はみせかけにだまされてしまうこともある、といういい見本、かもしれない。
クリスティアン・ロサーノ、ダビ・コリア、フェルナンド・ヒメネス、アンヘル・ファリーニャという4人の、フラメンコだけでなく、バレエの基礎があり、スペイン舞踊もきっちり踊れる男性舞踊手とともにつくりあげていくのは、いつものエバの世界。
彼女にはことばにならない伝えたいことがいっぱいあるのだろう。
それを身体と舞台で伝えようとしているように思う。
伝統的なフラメンコの技術だけではことばが足りず、そのほかの要素をいろいろつかって伝えようとしているのだろう。
だが、それが私にはよく伝わらないようで、ああ、これはなんなんだろう、とつい考えてしまう。

上半身裸で黒いスカートをはいた男たち。
黒いパンツに白い闘牛士のガウンのようなものをまく男。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez


くるくる回るとトルコのスーフィー舞踊を思い出させる。
スカートは女性だけのものではないのだ。
男がきているワンピースのようなものはキリスト像がきているガウンのようにもみえるのは髭のせい?
Fotografías de Javier Fergo para el Festival de Jerez

仮面。マントン。

Foto Javier Fergo para Festival de Jerez
ブランカ・デル・レイのマントンのソレアのように、身体にまきつけたりさまざまに動かしてみせる。その昔ボクサーみたいといわれた、エバのぐっと腕を突き出すような振りとの組み合わせはミスマッチのようだけど個性的。

突然話しだす踊り手。

それぞれにきっと意味があるのだろう。だが、それは私にはわからない。
わからなくてもいいのだろう。きっと。
すべてをわかろうとするのは、理解しようとするのは悪い癖なのかもしれない。

最後は緑色の衣裳でソレア。

Fotografías de Javier Fergo para el Festival de Jerez


彼女のソレアはやっぱりすごい。圧倒的な力でことばにならない何かを訴えてくる。
最後のブレリアでのおばあさんのような昔ながらの振りの、抜き加減も心地よい。
以前のように、最後のソレアが素晴らしくよくてほかが全部ぶっとんでしまう、ということはなかったけれど、やはり自然にオレ!がでてしまう。カタルシス。

なんでつい、これだけでいい、不可解な前半はこれをみるためのお代?、などと思ってしまいがちなんだけど、今回は実はけっこうおもしろがっていたかも。
ダビ・コリアの美しいかたちやクリスティアン・ロサーノの風格も楽しめたし。でも男たちのソロはもう少し短くてもいいような気も。

David Coria y Eva. Fotografías de Javier Fergo para el Festival de Jerez



パコ・ハラーナの音楽はいつものようにエバを支え、ホセ・バレンシアとアルフレド・手ハーダのよくのびる声はエバを生き生きとさせる。とくにホセが、なんというのだろうか、今が旬なん?っていうくらいすごくよかった。




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2016年2月19日金曜日

アルヘンティニータとピラール・ロペスのスペイン舞踊団展

へレスのフェスティバルに来た人全てに行って欲しい展覧会があります。

今日から始まったアルヘンティニータとピラール・ロペススペイン舞踊団展がそれ。




スペイン舞踊の歴史に輝かしく名を残すアルヘンティニータとピラール・ロペス。
この姉妹の衣装やマントン、靴などの小物、プログラム、ポスター、手紙など多数の資料がビデオとともに展示されています。
解説もていねいでそれを読んで行くのも楽しいですが、展示された衣裳をみるだけでもどきどきします。
ていねいな手仕事。 マントンの刺繍の細やかさ.レースのうらうち。
ひとつひとつ、いつまでみていてもあきません。


50年以上昔のものなのに今見ても新しい。そんなデザインがいっぱいです。
1960年のピラール・ロペスの日本公演のポスターやちらしもあります。
スパニッシュバレェという書き方が面白い。
オーケストラとの共演でクラシコだけのプログラムなど興味深いです。

ニューヨークのメトロポリタンでの公演のちらしやポスター、またヘレスでの公演のポスターなどもあります。
バレエの歴史に残る大スターたちとも共演しているのですね。

また彼女の舞踊団に在籍した、アントニオ・ガデスやグイトなどの若き日の写真もあります。
スペイン舞踊好きなら是非。二度、三度と訪れたくなるはず。


平日は10時から14時と17時から20時、土曜は10時から14時まで。月曜休み!
サント•ドミンゴ修道院で開催してます。入場無料
場所はClaustros de Santo Domingo で検索するとすぐわかります。
カジェラルガのつきあたり、フェリア会場方面へいく道との角にあります。


2016年2月18日木曜日

明日からへレスのフェスティバル

明日からいよいよへレスのフェスティバルが始まります。

で最初の記者会見は開幕を飾るエバ・ジェルバブエナとダビ・ラゴス。

イスラエル・ガルバンにアンダルシアのメダル、マノロ・サンルーカルはカディス県の秘蔵っ子

2月16日イスラエル・ガルバンのアンダルシア州メダルの受章が決定した。
授賞式はアンダルシアの日である2月28日。その模様は例年アンダルシアの放送局カナルスールで中継される。


また2月17日にはマノロ・サンルーカルに“イーホ・プレディレクト”秘蔵っ子の称号がおくられることも全会一致で決定した。



2016年2月17日水曜日

ヘレスのフェスティバル/ドキュメンタリー「スエニャ・コンティーゴ」

2月16日、ドキュメンタリー「スエニャ・コンティーゴ」がビジャマルタ劇場で上映されました。





フェスティバル本番はまだだけどもうすでにイベントは始まっています。

ヘレスの町を会場にした展覧会もそのひとつだけど、今年はドキュメンタリーが3本上映されます。そのひとつがこれ。
ヘレス在住の、元カナルスールのテレビディレクターによる作品で、ヘレスのフェスティバルの雰囲気をよくつかんでいます。
ハビエル・ラトーレのタジェールの舞台、ホアキン・グリロやモネータ、マヌエル・ベタンソスのクラス。パストーラ・ガルバンの舞台での稽古風景。
ペーニャでのカルメン・レデスマの公演。
ヘレスで公演したミゲル・ポベーダのリハーサル風景やコメント。
ヘレスの町で出会うアルティスタたちや生徒にインタビューしたり、劇場そばの小道のバルに集う様子。
フェスティバルを訪れたことがある人なら、ああ、そうだよね、ってなつかしくなるような映像。
お土産にもってかえりたい。。。そんなドキュメンタリーでありました。

なお25日には20周年記念のドキュメンタリーが公開されます。

へレスのフェスティバル/展覧会の会場はへレス市内全域「プロジェクト・プレセンシアス」

へレスの中心、アレナル広場に飾られた大きな肖像はフアン・エル・トルタ。

へレスのフェスティバルを機に開催される数多くの展覧会のうちのひとつで写真家フアン・カルロス・トロの作品。ここのほかにも市内各所にヘレスのフラメンコたちの肖像が展示されています。
ヘスース・メンデス、フェルナンド・デ・ラ・モレーナ、ルイス・エル・サンボ、マカニータ、カプージョ、ダビ・ラゴス…
紙なので雨がふったらはがれそうなのがちょっとこわいけど
へレスのフェスティバルに来たら探してみてください。3月18日まで。